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初級の迷宮

 冒険者ギルドに登録した日はいろいろなことが起きたため迷宮に行くことを取りやめた。

 その日は買い出しとこれからお金を貯めて何を買うかなどの話し合いをした。

 ミューは意外に謙虚で何かを買ってもらうのを遠慮するのだ。

 その辺りは俺と同じ気持ちらしく無理に押し付けることはしない。

 ただ、交換ということでお互いにアクセサリーを購入して取り付けた。


 夜中はミューが寝入った所で俺は起き、窓から風魔法を使って飛び降りると宿屋の裏庭で剣を振っていた。

 俺は一週間のうちに二〇時間ほど寝ればいいらしい。

 それ以上は眠れない様で無理に寝ようとすると次の日は思考が回らなくなる。

 一体どんな魔物だよ! と突っ込んでしまったのは仕方がない。

 まるでドラキュラとかの逆だよな。




「ソフィア君。おはよ」

「ああ、おはよう」


 ミューが隣のベッドから体を起こし、猫のように猫なで声と手で目を擦る。

 太陽に日差しを背に受けポカポカとしたのか大きな欠伸をして耳がピクピクと動き、尻尾がくねくねと動いている。

 手元にはベンダーのために試作品として俺が作った黒猫のぬいぐるみがある。

 気に入ってくれたようでいつも持ち歩いているのだ。

 他の子もいろいろなぬいぐるみを自分専用として持っている。


 とりあえずマリアーヌに作り方を教え、次に入ってくる孤児に作れるようにした。


 こう動いていると異様に触りたくなるというか……。


 俺はどうにかモフモフしたい気持ちに蓋をし、空間からミューの着替えと自分の着替えを取り出して着替える。


「――っ!?」


 な、何やってんの!?


「ん? ソフィア君?」


 ちょ、ちょっとこっち来んな!

 どうしてこっち向いて態々着替えるんだよ!

 もろ見えそうだったじゃん!

 いや、見たいけどさぁ……そういうのは恋人より上の人達がすることなんだ。

 俺は付き合ってもいない関係であって……。


 何やってんだろう、俺……。


 俺は素早く着替え、頬が熱くなるのを無理矢理冷まし冷静となるとシーツを引っ掴み、目を閉じた状態でミューの身体を巻いた。

 そして、生きをゆっくり吐いて目を開けると恥じらっているミューと目が合った。


 いやいや、もうちょっと早くする反応だよね!

 俺に触られるのは嫌かもしれないけど、今度からはしっかり頼むよ。


「ミュー、俺のことどう思ってる?」

「――ッ!?」


 そう訊いた瞬間にミューは身体をびくりと震わせ俺の目を見た。耳と尻尾はピンと伸び、頬についている細長い髭がピクピクと動く。


 やはり……俺のことを男とみていないのか。

 だから、普通に着替えたんだな。

 まあ、幼い頃からずっといるからそうなるよなぁ。

 今度から俺が気を付けるか。


「え、えっと、私は――」

「わかった。今度から俺が気を付ける」

「え?」

「え?」


 俺とミューは顔を見合わせて固まり、見つめているとミューの頬から順に全身が赤くなり始め、さっと目を離すと素早く着替えて部屋の外へ出て行ってしまった。


 残された俺はよくわからず、頬を掻くのだった。




 俺は身なりを整えると剣を持ってミューを追い駆けた。

 一階まで降りるとミューがセリカに慰められているところった。

 俺は申し訳なくなりながら後ろ頭を掻き、ミューの傍まで言ってセリカに睨まれると深く頭を下げて謝すのだった。


「なんか……すまん。今度からやっぱり一人部屋にしよう」

「いや! 二人部屋!」


 俺が頭を上げてそう言うが、ミューは赤い顔のまま吠えるように俺に言うのだが、目に涙が浮かんでいる……どうしよう。


「だが、また同じようなことになったら」

「いい! もう大丈夫!」

「だがなぁ……」


 朝から酒を飲み面白そうに見ている周りの客を無視して俺とミューは言い合い。

 セリカは吊り上げていた目を元に戻し、ミューの背中を擦りながら俺に言う。


「詳しくは知らないけど、ミューの言うとおりにしてあげなさい。喧嘩したわけじゃあないんでしょ?」

「ああ、ちょっと孤児院のことが抜けなかったみたいでなぁ、今度から俺が気を付ける」

「はぁ……。ミュー、頑張りなさい」

「うん……」


 何やら二人だけの会話をしているみたいだが、一体何を頑張るんだ?

 まあ、二人が仲良くして、ミューが悲しまないのなら俺は何でも我慢する。

 それが俺にできることだからな。




 昼食を食べた俺とミューはセリカに見送られながら準備を整え、昨日行くことの出来なかった冒険者ギルドの初級の迷宮に挑戦する。


 俺は腰に【緑鬼王の小刀】を差し、反対側の後ろ腰辺りに短剣を二本解体ナイフと短剣を差している。また左手には小型の盾を付け、背中には簡易のリュックサックを背負っている。

 ミューは左右残し合わせて六本の短剣を持ち二本は攻撃用短剣で少し長く四本が投げナイフ、胸に差している四本も同様だ。また背負っているリュックサックにはポーションや地図が入っている。


 地図は店からも買えるが冒険者ギルドからも買うことが出来る。

 どちらがいいかは人によるが、冒険者ギルドが撃っている物は確実に揃っている物で嘘は限りなくないと言ってもいい。

 店売りの物は売る人によっては高く売りつけたり、嘘の情報が書かれている物もある。中には盗人や冒険者と結託し、凶悪な罠などに引っ掛け装備品を強奪する者もいる。

 だが、店売りの場合は冒険者ギルドと違い、安値で買える時や空欄が多いが最新の階層の地図まであるのだ。


 また、地図を書けば売ることも出来るのでお金と交換でしてもらえる。

 まあ、検分と実証もするため一月ほどかかるのだが……。


 冒険者ギルドまでやってくると昨日と同じく多くの冒険者達が飲み食いし、今日の予定の話し合いやパーティー勧誘などをしていた。

 昨日のこともありすぐに俺の場所へ集まってきたが、暫くは誰とも組む気はなく、俺のことがばれても良いように信用の出来るものしか置きたくない。

 ミューは一緒にいたというのもあり信用できる。


 冒険者ギルドの奥の通路を通り、そこから庭が見えるので反対側に行くと冒険者が数人並んでいるところに着く。

 そこが冒険者ギルドの初級の迷宮だ。


 その周りには露店や換金所、交換屋等がある。

 露天は食べ物の他にも迷宮ドロップ品、手入れする鍛冶師、武具店、仲間の紹介・仲介屋、情報掲示板などだ。

 換金所は魔石の換金やドロップ品の換金をするギルドの受付だ。

 交換屋はお金の取引ではなくドロップ品をドロップ品で交換してくれるのだ。損するかどうかは交換の仕方次第なので、欲しいものが持っている物で交換できるかで決まる。

 また、冒険者同士の交換もしており、これをいくつ売るから何々で交換してくれ等も出来るのだ。


「まずは交換屋を覗こう。もしかしたら何かあるかもしれん」

「うん。この前ポーションと【薬草】を交換してってあった」

「それはあれだな。出来上がったポーションを試してもらいたいとか、ポーション作りをしているから【薬草】が欲しいとかだな。そういう時カードでしっかり確かめて買った方がいい」

「わかった」


 ミューがこの半年間で見てきたことを俺は聞き、それに対して自分の考えとこれからに役立てていくのだった。


 交換屋まで来るとターバンのような物を巻いた商人がいた。その他にも交換屋はたくさんいるが、目に付いた中で一番いいものを売っていそうなのがこの人のところだったのだ。


 店には各種・各等級のポーションからドロップ品、携帯食料まである。壁にはローブなどもかけられ、装備品と交換と書かれている板が置いてある。


「いらっしゃい。新人冒険者かな?」

「ああ、よく分かったな」

「そりゃあね、僕は何人も見てきたからね。君はまだ僕の店に来たことがないだろう?」

「そういうことか。結構有名なんだな」

「一応この辺りの冒険者から支持を貰ってるからね。これでも商人としても一流なんだよ」


 それは期待できそうだ。

 こういった人と仲良くしていくのもいいかもしれん。


「昨日誕生日で登録したばかりだから何か安く売ってくれないか?」


 俺はそう言って商人にカードを見せた。

 そこには生年月日が書かれているため昨日が十歳の誕生日だということが分かる。

 商人は一つ頷き「おめでとう」の一言を貰った。


「なら、この【特効薬】と【万能薬】を格安で売ってあげよう。何を出してくれるかい?」


 俺はそれを受け取ってカードで確認すると【特効薬】は表面に塗ることで治癒力を高める塗り薬で等級は下から二番目の七等級、【万能薬】は毒・麻痺・封印の軽い症状を治すもので六等級だ。

 俺はそれに満足し、手短なものを覗き込んで値札を一つ一つ確認し、何種類かのポーションと携帯食料、飛び道具などを指さし、代わりに街の外と初級の迷宮で手に入れた鉱石とドロップ品を見せた。


「これはやられたね。冒険者としては新人でも、冒険はそれなりなんだね」

「まあな。すまん」

「ははは、まあいいよ。その年でこれほどできるのだから先行投資だと思っておくよ。じゃあこの鉱石を三つとこっちを四つ、後ドロップ品を一つずつ貰おうか」


 指差されたのは【鉄鉱石】と【銅鉱石の欠片】、【レッドスライムの体液】、【アントの蜜】、【プチオークの肉】だ。


 これらはリュックサックの中に入れていたもので、俺のリュックサックはもはや交換屋の道具入れと化している。


「確かに貰ったよ。また来てね」

「ああ、迷宮を潜り終わったら覗かせてもらう」


 ミューも隣の交換屋で何やらネックレスのような物を鉱石数個と交換してもらったようだ。

 そのネックレスからは僅かに魔力を感じることから装飾品の一種だとわかる。

 冒険者が装飾品という場合は魔力の籠った物だということになり、魔道具とは別ものだ。

 魔道具は魔法等がかかっている物且つ装備者の魔力を使って発動させるもので俺のよりが当てはまる。ミューの持っているネックレス等の装飾品は装備するだけで効果の現れるものだ。


 装飾品はステータスを上げる物や小さい物が多く、魔道具は武器や防具等に多く魔法を使える物をいう。

 どちらがいいかは使う人次第で両方装備する人が多いだろう。


「そのネックレスは敏捷度を上げる物か?」


 ネックレスには紫色の魔力石が付いている。

 他にも赤が攻撃力、橙が体力、黄が物理防御力、青が魔力、水色が魔法防御力、紫が敏捷力、黄緑が器用さ、白が運を示す。

 また、嵌っている物が魔法石ではなく、宝石だった場合はその色の魔法攻撃力と防御力が上がる。


 魔法石は迷宮で発掘すると偶に欠片が出てくることが多く良く発掘されているので安く、宝石はそれなりの階層と出てくる頻度も低いため高くなっている。

 効果は大きいほど、純度が高いほど、加工が綺麗なほど上がり、ドワーフやホビットがそう言った職に就いている。


「似合う?」

「ああ、似合っている。ミューは黒い髪だから紫が良く似合う」

「あ、ありがとう……」


 周りから見られているのでミューの手を取り迷宮の入り口までやって来た。


 やっぱり女の子を褒める文句を考えておこう。

 さっきは咄嗟に常套句が出て来たからいいが、次はこうもいかないぞ。




 迷宮の入り口では俺達よりも大きな冒険者が並んでいた。

 この迷宮を踏破するにはC級の冒険者が一人いれば後はE級でも踏破出来ると言われている。

 ステータスは五〇あれば踏破可能ということだろう。

 ベンダーに聞いたところまだ三〇代らしく踏破するにはあと一年ほどかかると言われたそうだ。今は修行中と言っていた。


「はい。次」


 待っている内に俺達の番が来た。

 今日の見張り番はC級の冒険者だな。

 これは依頼で行われる場合と罰則で行われる場合の二種類がある。

 依頼の場合は何か緊急事態や新人の冒険者の稼ぎ、罰則は依頼の失敗やギルドの規約を破った場合に発生する。


「武器、防具、大丈夫だな。何階層まで行くつもりだ?」

「一応五階層だ」

「ふむ……お前なら大丈夫だろう。昨日は面白かったぜ」

「あ、ああ」


 昨日の決闘を見ていたようだ。

 因みにベンダー達は三人の懐を狙った冒険者のしごきに合うそうだ。

 まあ、一時間大銅貨二枚の授業料だ。

 酒を一杯飲めるぐらいだな。

 ベンダーはかわいそうだが、俺からのしばきはなしにしておくからチャラだ。


「嬢ちゃんも行っていいぞ。五層だからといって気を抜かないように。生きて帰って来ること」

「わかっている」

「うん」

「では、良き冒険と更なる栄光を」


 二人に見送られながら俺とミューは初級の迷宮へ入っていく。

 いよいよこれから俺の初の迷宮探索が始まる。


鈍感主人公ではなく自信の無い主人公を目指すつもりです。


補足ですが、迷宮は踏破されてもなくなりません。

ではどうするのか、という話になりますが、その話はこれからの展開で説明していきます。

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