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防具【ソルジャーアント】

今気が付いたのですが、私の誕生日が過ぎて一週間ほど経っていました。

 冒険者ギルドから出るとミューに追いつき手を繋いで偏屈爺さんがいる鍛冶工房【アトモス工房】へ向かった。


 中央まで向かい、迷宮区画から左へ曲がった所が冒険者区画となる。

 ここも商業区画と同様通りが分かれている。

 手前から武具屋、魔道具屋、道具屋等があり、点々と工房と冒険者用の店が建ち並んでいる。

 また、娼館や宿屋、料亭などもある。

 商業区画と違い値段はお手頃価格だ。


 目的地はちょうど真ん中あたりにある十字路を左に曲がった所にある。

 そこに大きな字で【アトモス】と書かれたところだ。


 俺とミューはそのまま入っていく。


「爺さん。出来てるか?」


 誰もいない工房の中に俺は普通に声をかける。

 爺さんと呼んでいるが歳は一七〇ほどで、人族で言うと五〇歳手前ぐらいだという。

 ドワーフは人間の三倍弱は生きると言われているからな。


「おお、お主か。出来とるぞ。それよりも考えてくれたか?」


 奥から汗だくで出て来たドワーフが偏屈爺さんと呼ばれるアトモス爺さんだ。


「まあ、出来ているが後でいいか?」

「いや、先じゃ」


 この辺りが偏屈なのだろう。

 実際はどっちでもいいと思っている。

 人がそういうから逆を言うのだ。

 あと、物事にも妥協を許さず、遊び道具には頑なで、遊び道具のことを分からない奴はこの工房自体に入らせない。

 そのため腕がいくらたっても武具を作ってもらえないのだ。

 まあ、その辺りの子供達には遊び道具で遊んでくれるので優しい。


 俺は少し苦笑して空間に手を突っ込み板に描いた子供用のおもちゃを手渡す。

 今のところミューと爺さんには俺の魔法のことを教えてある。

 二人とも驚いていたが、ミューは俺だから、爺さんは鉱石がたくさん持って帰れるな、と言って普通に受け入れていた。


「これは……馬車か?」

「それはミニカーと呼ぶ。小型の馬車を作るのだがその中にゼンマイと呼ばれる物を入れる。それが歯車によって繋がれ、馬車を後ろに引いたときゼンマイが巻かれる。手を離すとゼンマイが戻ろうとして馬車が勝手に前に進むということになる」


 詳しい構造については知らないがプルバック式と呼ばれる構造で、後ろに引いて放すと前へ進むミニカーの中に搭載されている物だ。

 爺さんならいろいろなものを作ってくれるだろう。

 現にいろいろと書いた板に書き込んでいる。


「馬車だけでなく、魔物型なんかも面白いかもな。あともう一つ構造に付け足して手が動く様にしたりな」


 そういうと目をキラリンと光らせてすごい勢いで描き始めた。

 その剣幕と勢いは軽く魔物を殺せるようなものだ。

 ミューも突然の変貌に驚いている。


 この工房に行き始めたのは最近でミューは通常の爺さんしか見たことがなかったのだ。

 あと、爺さんは女の子にちょっと弱い。



 暫くして書き終ったのか清々しくさわやかな汗を拭きにこやかな笑みを浮かべて俺に握手を求めて来た。

 いや、勝手に握った。


「いやー、やっぱりお主の発想はいいな。これを売りだせば莫大な金が手に入るぞ」

「面倒だから任せる。作れるのはドワーフぐらいだと思うしな」

「良いこと言ってくれるな! ガハハハ、良いだろう、完成したらいの一番に見せてやる!」


 そう言って板を棚の中へ差し込み、部屋の奥の隅に置いていた木箱を一つ取り帰って来た。

 その中には黒いインナー上下と各所を護る防具が入っていた。

 黒主体に赤色の溝が入っている。

 その赤い溝は魔方陣の役割をしている。

 これは金属ではなく【ソルジャーアント】と呼ばれる、この街の近くにある森にいたところを仕留めて帰った物から作られている。


 あの時は九歳になったばかりで、そろそろ街の外のことも知っておこうということで夜中の狩りに出かけたのだ。

 森には【アント】と呼ばれるアリの魔物がたくさんおり、こいつらは【ゴブリン】のように繁殖はしないが【クイーンアント】が生まれると【ゴブリン】以上の繁殖力を見せる為見つけ次第討伐されるらしい。

 その中でも【ソルジャーアント】は一メートルほどの大きさがあり、武器自体はもっていないが強靭な顎と素早い動き、前脚が鎌状になっているのが特徴だ。

 こいつらの甲殻は火に弱いが耐寒耐性があり、軽く丈夫なのだ。

 勿論この鎧は俺だけでなくミューの分もある。

 誕生日に渡したのだ。


「嬢ちゃんと同じ【兵士蟻の革鎧】じゃな。裏面には【一角兎】の皮を使っておる。残りのガントレットとブーツも同様じゃな。一応希望通り鎧に魔力を流せば防御力を上げられる」


 防御力を上げるのは俺が攻撃を食らうからではなく、出来るだけ長持ちさせようと思ったからだ。

 防御を上げるにはいくつか種類がある。

 魔法を鎧に掛けて鎧自体に作用させる方法と鎧の魔法が発動し装備者の防御力が上がる方法だ。

 俺の場合は鎧自体を硬くする前者となる。

 そして、前者は防具に上手く攻撃を当てなければならないため技術が求められる。

 まあ、攻撃は見えているから一時これでいいだろう。


 俺は早速そのよりを身に付けていく。

 まずは【糸】から作った黒いインナーを着て、その上に肩と脇腹辺りで留める形の鎧を身に付ける。

 肩にショルダーと腕にガントレットを着け、ブーツを履いて終了だ。残りは剣のサイズが決まってベルトが作られる。


 ミューの物はもっと軽めにされている。

 一応ミューは斥候職のようだからだ。

 後で魔法と気力を教えておこう。


「よし、着け終わったらこっち来い。調整してやる」

「かっこいい」

「あ、ああ、ありがとう」


 ミューのキラキラと俺も見る目が何とも言えずどもった声が出てしまった。


 爺さんに微調整をしてもらいやっと鎧が完成した。

 これで俺も冒険者に見えるだろう。

 しかし、なぜ黒いインナーなのだろうか?

 白い肌が目立つんだが……。


「やっぱり白には黒が栄えるのう」

「うん!」


 爺さんは僕の肌も芸術の一つとみていたようで黒の隙間から覗く白い肌を見て口元をにやけさせている。

 ミューはそれを見て嬉しそうにしている。


 仕方ない、一時この格好でいるか。

 まあ、防具が悪いわけじゃないしな。


「じゃあ、俺達は帰るな。また何か考えて置く」

「ああ、その時までには作っておこう。何かあったらいつでもきてくれ」


 爺さんはそう言って背中を向け奥の部屋の方へ帰って行ってしまった。

 お金は渡してあるのでもう大丈夫だ。


 俺もミューの方を向き、行こうかと首を振った。


「うん。手、繋ぐ」

「ん? ああ」


 ミューと手を繋ぎ冒険者ギルドまで戻っていく。




 冒険者ギルドまで戻りミミにギルドカードが出来たかと確認を取るとまだ出来ていないようなのでロビーで座って待つことにした。

 近くにいたウェイトレスに軽めの昼食と飲み物を頼み、ミューに前に座らせる。


「ミュー、これからのことを話す」

「うん。迷宮に潜る?」


 ミューはニコニコと足をばたつかせながら言う。

 何がそんなに楽しいのだろうか?

 まさか俺と一緒だからとかないよな……。

 あとでベンダーにミューがいた時のことを聞いておこう。


「迷宮はミューも行っていた初級の迷宮【冒険者の洞窟】に行く。ミューはどこまで知っている」


 丁度そこへウェイトレスに頼んだ食べ物と飲み物が運ばれる。

 今日の献立はサンドイッチのようだ。その隣にはプチトマトと唐揚げが乗っかっている。飲み物は紅茶に砂糖とレモンを入れたレモンティーだ。


「階層は二〇層。地図は全部作られてる。でも持ってない。魔物は一層に付き二種、一六層からは三種出てくる。これは知ってる。ボスは五層ずつの四体。これもわかってる。罠は一層から少しずつ出てくる。解除もしたことがある。行ったことがあるのは一四層まで」


 迷宮は階層が決まっており、大達五階層か一〇階層にボスが存在しており、そのボスを倒すことで階層の登録をすることが出来る。

 階層の登録をすると次回からボス部屋の下の階層に転移することが出来るようになる。

 魔物も出てくるものが違い、迷宮によってはいきなりDランクの魔物が出てくる。

 その分迷宮から採取できる者や宝箱の中身は上層からいいものが入っている。


 魔物のランクとは同級のパーティ四人で倒せるという意味になる。

 絶対そうではないが力は同じだと考えていい。


 罠とは迷宮自体の防衛機構のことで踏んだり、触ったり、入ったり、開けたり、といろいろな罠がある。

 俺も入る罠と開ける罠に一度引っかかっている。

 その後は宝箱があったりするのでいいこともあるだろう。

 そういった罠は解除して持ち帰ることが出来る。

 構造などを調べる為なので高値で売れるし、金属が使われていればその分高くなる。


 他にもいろいろあるのが迷宮だ。


「宝箱の中身や採取場所から種類と数、魔物のドロップ品、危険な区域、盗賊情報、異常のあった時期とその特徴とかを知っているか?」

「知らない」


 そうだろうな。

 この辺りはあの時の迷宮と資料室で調べて分かったことだからな。


「宝箱の中身は毎回変わるがある程度種類が決まっている。中には現在俺達に必要なものも入っている。だが、早い者勝ちのため喧嘩になることがあるからミューはそういう時は俺の後ろに隠れることとそう言った人がいないことを確認してくれ」

「わかった。索敵と解除と防御」

「そうだ」


 ミューは飲み物を飲んで小さな喉を鳴らす。

 尻尾がピンッとなったのはそれだけ警戒したからだろう。


「次に採取場所は覚えていた方がいい。俺にはあの魔法があるから取りたい放題だ」

「魔物も同じ」

「そうだ。だが、魔物の場合種類まで覚えておいた方がいい。魔物によっては何種類か落とすからな」


 ミューはコクリと頷いた。

 これは【ゴブリン】のことを言っている。

 【ゴブリン】は【ゴブリンの腰布】と【ゴブリンの牙】を落とした。

 また、ボスならもっとたくさん落とすと思っていい。

 中には宝箱を落とすときや複数落とすときもある。

 俺はどうやらその確率が高いようだ。

 これが女神様の加護というやつなのだろう。

 他にもいろいろな効果があるとても有難味のある加護だ。


 願いはミューにも加護を下さいでいいかな?

 今のところ何も願いはないし……。


「危険な区域は罠だけでなく魔物に阻まれる、囲まれる、動き難い、地面、地帯などがあげられる。場所によっては盗賊や冒険者を狙って稼ぐ者もいる」

「わかった。許せない」

「そうだな。そういうやつが現れれば返り討ちにしてもいいはずだ。カードに記録されるらしいから罪には問われない」


 俺はサンドイッチを一つ食べ、飲み物で流しながら最後のことを言う。

 中には新人冒険者が聞き耳を立てていたり、熟練の冒険者が聞き感嘆の声を漏らしている。

 恐らく五感のいいミューにも聞こえているだろう。


「最後の異常があったかどうかは早めに知るためだ。もし、一〇年前と二〇年前に異常があった場合今年もあるかもしれない。魔物が多く出てくれば異常発生。減れば階層に強敵が生まれた。こうやっていろいろと考えられる」

「うん。危ないからしっかり調べる」

「そうだ。じゃあ、食べて俺の剣を貰いに行く。その後はまず五階層まで降りよう。そこに大部屋があったはずだ」


 そう言ってミューも頷き昼食を取り始めた。

 おいしいのかいつも以上にニコニコしている。

 まあ、俺も男だから女の子の笑顔を見れるだけで胸が暖かくなる。

 だが、俺はまだ表情を動かすことが出来ない。

 せめてミューには慣れなければ。

 多分慣れれば笑えるようになるし、冗談とかも言えるようになる。

 今のところ普通に話せるようにはなってきたからな。


 暫く食べていると背後から話しかけられた。


「やっと会ったな。待ってたんだぜ?」


 そう言って俺の肩に手を置いたのはベンダーのパーティーメンバーのガリアだった。

 俺は一気に心地よかった気分が下がり、絶対零度が吹き荒れていた。


 それに気が付かないガリア達は笑みを浮かべながら言ってくる。


「ちょっと俺達に付き合えや。冒険者の心得を教えてやるからよぉ」

「その間ミューちゃんは面倒見ていてやるよ」

「まあ、お前がしっかりついてこれたらな」


 はぁ……ベンダー、後でしばく。


 それにしてもこいつらは馬鹿か?

 どうせ俺に勝ってミューにいいところを見せようとか、負けたらミューは頂くとか、見た目が弱いから勝てるとか思ってるんだろ?

 まあ、俺は戦わないが。


「結構。お前達に習わずとも分からない時は熟練の冒険者に聞く。そっちの方が確かだ。クレイソンとかな」

「お! 良いこと言ってくれるじゃねえか、ソフィア!」


 そう言って現れたのがクレイソンだ。

 まあ、目の端に移ったからわざと大声で言ったのだが。


「あと、フォルファーのパーティーにも認識があるからいろいろと聞ける。何度か外に連れて行ってもらったこともあるぞ」


 目を閉じて最後の唐揚げ口の中に放り込んだ。

 三人はよくわからず混乱しているようなのでミューにもう行くぞと頷き、席を立つ。

 そこ慌てて俺の肩を掴むが、俺は身を翻してそのいてから逃れる。そのまま顔面に寸止めのパンチをくれていやる。


「これが避けられないのなら無理だ。帰れ」


 俺はそう言って三人から離れ、ミューと一緒に耳の受付まで向かう。


「カードは出来てるか?」

「はい。これがソフィア君のカードになるよ。右上のレンズが【鑑定レンズ】だからわからないアイテムが出た時はそれで確かめてね。後は表記されているようにステータスがあるわ。それは魔力に反応するから基本的に隠していてね」

「わかった」


 恐らく防止のためだろう。

 俺のステータスは平均六〇ほど。

 特に筋力と耐久はかなり高い。魔力もそれなりに持っていて、敏捷度も高い。ただ魔法には少し弱いようだ。

 これはもしかすると肌を白くしたのが原因かもしれん。

 今度聞いてみよう。


 【鑑定レンズ】は迷宮内でしか使えない。

 どうやら過去の探索者が女神様に願って作ってもらった物らしく、それを解析したものがこのレンズとなるらしい。

 その探索者の物は外でも使えるようだ。


「それじゃあ、行くか」

「うん!」


 ミューに手を繋がれ迷宮の方へ連れて行かれるが、その目の前に人が現れぶつかってしまった。


「おいおい、どこに行こうというのだ?」

「俺達の話は終わってないんだぞ?」

「もしかして負けるのが怖いのでちゅか?」


 そう言って現れたのはベンダーのパーティーメンバーだった。


 マジ、ベンダーしばく。


迷宮に行くのは女神に会いに行くためなので願いが定まらないソフィアノスです。

書いている私もどうしようか迷っております。

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