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冒険者登録

 今日は一〇歳の誕生日だ。

 この世界で目が覚めて早五年が経つのだ。

 不思議な殺人鬼に運命だったかのように殺され、迷宮の安全そうな場所で目が覚め、初めての魔物を倒しながら死にかけ、自分が孤児院で暮らすようになるとは思いもよらなかった。

 しかもこの身体はばれていないが魔物だ。

 成長すればどうなるかわかったものではない。


 だが、それでもいいと言ってくれたとても表情豊かで優しい女神様がいる。

 こんなに醜い俺を受け入れてくれた大切な女性だ。

 初めて告白してくれた人があんなに綺麗だとは思いもしなかった。

 だから俺はその思いに応える為に迷宮を、まずは手始めにこの四年間ほど隠れて行き来した迷宮に挑む。


 そして俺の傍らにはミューがいる。

 ミューはどうやら俺の傍にいたいらしい。

 いたいのならいてくれても構わない。

 だけど、俺が魔物だと知ったらどうなるだろうか。

 やっぱり嫌われるのだろうか、殺されるのだろうか、怖がられるのだろうか……。

 考えただけでも顔が青くなり、体が冷えて嫌な汗と不安と恐怖で押し潰されそうになる。


 何て俺は脆いんだろうか……。

 今度の願いは勇気でも貰おうか。


 ミューは俺より半年ほど早く一〇歳となったため冒険者ギルドの訓練場で同族の猫の獣人の受付嬢から手解きを受けていた。

 俺も偶に加わっていたのだが、やはり対人戦の場合どうしても一歩引いてしまう。

 特に相手は女の子なのでどうしても手加減をしてしまうのだ。


 ……フェミニストなのだよ。

 断じてヘタレではない! ヘタレではッ!


 ミューはこの半年でF級からE級へと上がっており、迷宮に関しても何度か挑んでいる。

 戦闘に関してあまり得意ではないミューが生きて毎回戻ってこれたのはベンダーのおかげでもあり、ベンダーの冒険者仲間のおかげでもある。


 俺が冒険者になったら一応お礼を言いに行こう。




 そして、今は冒険者ギルドにミューと一緒に来ていた。

 俺の誕生日ということで冒険者ギルドに登録するのだ。


 いつものようにミミの受付へ並び、近くにいた冒険者から言葉を頂く。


「そう言えば今日が誕生日だったな。ここにいるということは冒険者になるのか?」


 この冒険者はベンダーの師匠であるクレイソンだ。

 現在はC級で、この街を拠点に迷宮に潜って稼いでいる冒険者の一人だ。

 結構ハンサムでベンダーを誘拐してセリカと一緒に連れて行ったあと数か月ほどして結婚したのだ。

 奥さんは魔法使いで同じパーティーのホヒナだ。


 ベンダーはあのあといろいろなことが旅の最中で起こったそうだ。

 結果は見事くっ付いたそうだが、さすがベンダーというかいらない人ことを言って怒られたそうだ。


 将来尻に敷かれるな。


 現在は仲睦(なかむつ)まじいと言えないが、よく一緒に行動し、先日は笑い合いながら買い物をしていた。

 俺が言ったようにセリカの言うことを聞き、相手の気持ちを考えて行動しているようだ。


 それは冒険者パーティー内でも出てきているようで、リーダーとして引っ張っているようだ。


 後ベンダーはあれから俺に頭が上がらなくなったというか、上から目線で物を言わなくなった。

 対等と言うか、俺によく相談に来る。


 まあ、嫌だと思っても用事がない限りは真剣に考えている。

 これ、癖なんだよなぁ。

 お人好しなのだろうか?


「まあ、そうだな」


 俺はクレイソンに曖昧な答え方をする。

 それに気が付いたクレイソンは俺に顔を近づけて眉を細める。


「あんまり嬉しそうじゃねえな。ベンダーからはお前は迷宮に興味があることを聞いているんだが……」


 ベンダーにはある程度のことを話している。

 話していると言っても女神様に告白されたとかではなく、迷宮に潜るのが目的のようなことだ。

 そう言っておけば大概迷宮のお宝や名誉、願いが目的だと思ってくれるからな。


「そうだが、迷宮に入るのは冒険者じゃなくても出来るからな」


 そういうとクレイソンは納得したのか顔を離して顎を擦った。


「確かになぁ……」

「まあ、冒険者の方が買取も高くなるし、いろいろと情報が集まるからな。登録だけして置こうと思ったんだ」

「そうだな。級は上げなくともそれが目的なら大丈夫か。だが、月に一度は依頼を受けろよ」


 クレイソンは一番大切だからなと言う。


 冒険者ギルドの規約は多くある。

 その中でも覚えていないといけないことがいくつか存在する。

 まずクレイソンが言ったように月に一度依頼を受け達成しなければ退会処分になってしまう。例外として長期以来の場合は免除だ。

 依頼も連続で三回失敗すると降格処分、七回失敗で退会処分だ。

 依頼は自分の級よりも一つ上まで受けることが可能で下への依頼は制限がない。一度に受けられる依頼は一つだが、街中や近辺の採取依頼などは一度にたくさん受けられる。これは依頼を溜まらせない処置だ。報酬も低いので何度も来られるよりましという考えもあるかもしれない。

 他にも戦争や魔物襲撃時の対応、依頼の種類、決闘などの争い、法について、種族の平等、民を護るため、ギルドに対して不利益を起こさない等がある。


 これらを覚えておけば他の規約はどうでもいいらしい。

 まあ、痕で冊子を貰えるみたいだから資料室で覚えたことを確認しておこう。

 俺はこういう時に巻き込まれやすかったからなぁ……。


 あれは、高校に入学した初日……。

 俺は無事に迷わず学校に付けるかとビクビクしていた。誰にも言っていなかったが極度の心配性だからな。

 教科書も全部入れて坂道を重いペダルを漕いで上がっていた。

 学校まで着くとつい端の方に目がいった。

 そこでは数人の生徒がおり、眼鏡をかけた俺と同じ新入生がカツアゲをされていた。

 俺は関わらないので知らんぷりしていったのだが、いきなり呼び止められていちゃもんをつけられたのだ。


 なぜ? と思うが理由は俺の死んだような目が気に食わない、だった。

 ほっといてくれ!

 今は生き生きしているぞ……多分。


 で、その後黙ってたらいきなり殴りかかってきたから防衛した。

 なら、入ろうとしていた部活の顧問に呼び出しを食らってなぜか俺が悪いことになってた。

 がみがみと怒る気持ちの悪い顧問に腹が立ってきたがいつも通り無表情でそれを聞いていた。

 その方が早く終わるしな。

 その日の昼に眼鏡の新入生と顧問がばつが悪そうにやってきて謝って来た。

 どうやら勘違いに気付いたそうだ。

 その後なぜ言わなかったのかと聞かれた。

 普通に「なぜから知らないですが毎回こういうのに巻き込まれてます。説明していろいろと長くなり、再び問題が起きるのなら黙って自分が悪いことにした方が早く済みます」って言ってやったら逆に怒られた。

 何が悪かったのだろうか?

 確かに騙したのは悪いが些細なことだと思うのだが……?


 まあ、こういうように主人公とは違った巻き込まれ体質なのだ。


 そうこうしている間に俺の番が来た。


「ソフィア君。今日は登録に来たの?」

「ああ。登録の方で頼む」

「登録でいいの? 武器と防具はもっている?」

「ああ。武器は手に入れた物をギルドが保管している。防具は買える」


 ミミは不思議そうにしているが、孤児院出身でもそういうことをする人がいるのを知っているので問題ない。

 ミューにはお金を見せているのでこの後すぐに防具を買いに行くつもりだ。


 まだ女の子と話すのに慣れない為短い返事となる。

 男なら大丈夫なのだが……。

 チ、チキンじゃねえぞ……。


「まずはこの紙に記入をしてくれる?」


 俺は冒険者に必要な項目が書かれた書類を受け取る。

 その紙には名前、生年月日、種族などの一般的な情報から活動拠点、宿屋、武器、得意なこと、魔法の使用、職業等がある。

 活動拠点の記入はどこの街の冒険者かを示し、宿屋は緊急時に迎えに行けるようにとなる。


 俺はなぜか知っているこの世界の文字で項目を一つずつ丁寧に埋めていく。

 やはり知っているだけで書けなかったのだ。

 まあ、練習したので大丈夫だが。


 書いた紙をミミに手渡し、次に【登録水晶】と呼ばれるものに手を当て冒険者ギルドに魔力を登録する。

 魔力は指紋みたいなもので個人個人違うのだ。


 魔物と出ないか心配だ。


「……はい、いいよ。ギルドカードは二時間ほどしたらできるからそれまでに準備を整えておいてくれる?」

「防具を取りに行くからまた来る」


 俺は手を離し、次に冒険者ギルドの規約とギルドの特典などを聞くが、級を上げる気はないので話半分に聞く。


「最後に命は大切なものです。まずは命を優先してください。あと、無理な迷宮、探索、討伐、依頼を受けないことを守ってください」

「わかっている」

「では、新たな冒険者の旅立ちに栄光あれ。行ってらっしゃい」


 俺はいつものように頷いて答え、ミューに振り向いて防具屋に行こうと誘う。

 ミューは手を握ってくるのでされるがままにしている。


 そのままギルドを出ようとするとベンダー達がギルドへ入って来た。

 そのまま俺にベンダーが挨拶をするとパーティーメンバーはミューに話しかける。

 俺は眼中にないようだ。

 構わんが。


「どっちだ?」

「ああ。登録だ。金はあるからな」

「防具はどこで買うんだ? あれだったら俺の行きつけの所を教えるが……」


 最近こういうところに気が付くようになったベンダーだが、今回は遠慮しておく。


「いや、俺がよく顔を出す鍛冶屋に頼む」

「あー、あの偏屈爺さんのところなぁ。……お前、よく気に入られたな」


 偏屈爺さんとは冒険者区画にある有名な鍛冶工房を営んでいるドワーフの老人なのだが、気に入った人にしか作ってくれないのだ。

 気に入るかは爺さん次第なので俺がなぜ気に入られたかはわからん。

 まあ、恐らく地球で知っている物を教えたのが原因だろう。

 意外に爺さん遊び道具が好きだからな。


 ドワーフは今の俺と同じぐらいの身長で男は髭もじゃ、女はつるっとしている。魔力はそれほどないが力が強く器用だ。鍛冶や細工などをしている。

 意外に冒険者の中にもたくさんおり、酒を目当てに冒険していると豪語する者がいるとか……。


「話が合えば誰でも作ってくれるぞ?」

「いや、その話がよく分かんないんだって……」


 まあ、遊び道具と言っても高度なものが多かったからな。

 後酒の話をしても飲んだことないからわからんだろうよ。

 俺もないが知っているからな。


「そろそろ行くわ。死ぬなよ」

「ベンダーもな」


 そこで分かれてミューと一緒に出て行こうとすると案の定俺にちょっかいを掛けてくる奴がいた。

 しかもそいつらは何を考えているのかベンダーのパーティーメンバーだった。


「ちょっと待て。なぜ、ミューちゃんまで連れて行くんだ?」


 パーティーのタンクを努めているガリアだったか?


「仲間だからだ」

「は? 俺達の方が仲間っつうの! 後から出てきて取るってどういうことだ?」

「しゃしゃり出てくるな!」


 次に話しかけてきたのは魔法使いのボトムと斥候のパラスだ。


「ベンダー。どういうことだ?」


 俺は絡んでくる三人を無視してミューを背後に庇いながらベンダーを見る。

 ベンダーもよくわかっていないそうだが、俺の眼を見ると慌てて説明しだす。


「お前達言っただろうが! ミューは仮加入で、ソフィアノス、こいつが一〇歳になるまでの期間だって!」

「こいつが? こんなチビでガリのやつにミューちゃんを護れるとは思えん! 俺が護ってやるからミューちゃんこっちに来るんだ」

「ば、ばか! ソフィアノスは恐ろしく強いんだぞ! 俺達が束になっても勝てん!」


 ベンダーは相当実力が上がっているようだな。

 まあ、俺自身がそこまで強くないと思うのだが……。

 まあ、褒められて悪い気はしないな。


「そんなわけねえだろうが! ベンダーも相手を良く見ろ」

「リーダーはこんな奴に負けてたのか? いつの話だよ」


 ガリアがミューの手を取り連れて行こうとするので反射的にその手を掴み取り睨み付けた。

 するとガリアは怯み、あの頃のベンダーのように掴み掛って来ようとする。

 俺はそれを掴み取り、前とは違って押し返す。

 冒険者ギルドで喧嘩はご法度だからだ。


 その後三人が怒って向かって来るが、俺は三人に向かって睨みを利かせ動きを封じる。


「わ、わりい。よく言い聞かせておくから今回は勘弁してくれ」


 ベンダーが代わりに謝ってくる。

 俺は背後にいる三人にもう一度目を向け、ベンダーの誠意を受け入れることにした。


「まあ、いいだろう。よく言い聞かせておいてくれ」

「ああ、わりいな」


 俺はベンダーと別れて後ろにいるミューを見た。


 ほんのりと頬を染めているのはなぜだい?

 まあ、こういう時は守られて頬を染めるのは普通だが、俺にしないでくれ。

 勘違いしていい気持ちになるのは結構気付いた時の傷付き方が半端ないからさ……。


「ミュー、どうした?」

「ん、何でもない。早く行く」


 そう言って顔を真っ赤にしてギルドを出て行った。


この後の展開はやはり……。

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