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告白失敗!?

 セリカがこの街を去る当日が来てしまった。

 どうやら本当にこの街から去ってしまうようだ。

 時間を言うと今日の午後に出る馬車で移動するそうだ。

 隣町の【レイザ】までは馬車を途中にある町まで三日かけて移動し、そこで乗り継ぐ。更に二日掛けて移動すると見えてくるらしい。


 ロードスから聞いたがその道は安全で盗賊や山賊が出ることなく、魔物もほとんどが【スライム】や【ゴブリン】とのこと。

 外に出てくる魔物は迷宮よりも一段階弱いが、徒党を組むことが多いらしい。

 そのため定期的に討伐依頼が出されている。


 馬車には護衛が付いているようだが、Eランクと駆け出しの冒険者が三人みたいなのだ。

 これでは【ゴブリン】が徒党を組んで出て来た場合全滅するかもしれない。

 後で俺の方も調べておこう。




 俺とミューは二手に分かれてベンダーとセリカが不和にならないように努めていた。


 セリカには怪我をしないことと常にミューと一緒にいてもらうことにしている。

 会えなくなるっていうのもあるからな。


 俺はベンダーに告白する方法をいくつか教え、どれにするかは任せるとしてセリカへのプレゼントを作ることにした。


「ベンダー。女の子が喜ぶ物と言ったらなんだと思う?」


 ベンダーはそういったことを考えたことがないだろうからすっとんきょんな答えが出るだろう。

 例えば剣とか言ったり……。


「そうだなぁ……剣は男が持つ物だからぁ」


 おお!

 分かっているじゃないか!


「そうだ! セリカにはナックルとか合いそうだ!」


 良い笑顔でそう言ったのだが、俺はベンダーの後ろへ回り込み思いっ切り頭をぶっ叩いた。

 地面に激突したベンダーの襟首を持って持ち上げると顔を覗かせてゆっくり言う。


「お前は殺されたいのか?」

「い、いえ。滅相もありません」


 ベンダーは何が悪いのか分からずに謝る。

 とりあえず正座をさせて俺は目の前で説教のような講義をする。

 前世ではよく恋愛の相談を受けていたのだ。

 なぜ女の子と話せない俺にそういうことを聞くのだろうか不思議だった。

 まあ、だが意外とみんなカップルになっていたのでいいだろう。


 影では愛のキューピットと言われているソフィアノス。


「いいか? 女の子にそんなものを上げて喜ぶ人はまずいないと考えろ。お前、女の子が貰うような人形をもらってうれしいか?」


 それを聞くと自分が女の子の人形をプレゼントされるところを想像したのか難色を示した。

 それに対して溜め息を吐く。


「だが、冒険者の女は喜んでいたぞ?」


 俺はベンダーにチョップをして答える。


「それは冒険者だからだ。日頃から持っているのだから喜ぶだろう。それに、冒険者の武器は身を護るため、仲間を護るためのものだ。貰って嫌がる者はいない。合っていればな」


 そういうとベンダーも理解したのか深く考え始めた。

 俺は前世の知識を使ってセリカがどういう性格で、どういったことをしていて、何を好んでいたかを思い出す。


「まず、女性に対するプレゼントは気持ちが籠っていなければならない」

「どういうことだ?」


 腕を組んで首を傾げるベンダー。


「物によるが手作りであることだ。その辺の店で買った物より心が籠っている」

「だが、良い物の方が長く使えるぞ」

「それは物による。お前が金ぴかの金貨数百枚もする剣と素朴ながらも実用性のある金貨数枚の剣だったらどっちを選ぶ? しかも素朴な方は知り合いが作っているとしたら?」

「そりゃあ、素朴な方を選ぶ」


 俺はそこで一度息を吸い、指を立てて答える。


「それは人形でも同じだ。高い人形よりもその辺りで売っている少々高い人形の方がいい。それに下手でも好きな人が作った物は何でも嬉しいものだ」


 俺は腕を組んでうんうんと頷く。

 まあ、人によるがセリカならそっぽを向きながら喜ぶと思う。


「そんなものなのか?」

「そんなものだ。他にもセリカが欲しいものを考える。セリカに合っているのか。一生残る物か残らない物か。遊べる物か。飾る物等いろいろある」

「そ、そんなにか」

「本気で射止めたいのならそれぐらいやれ!」

「わ、分かった」


 俺は顔をクワッとさせてベンダーに詰め寄った。




「セリカには俺が作った人形を渡す」

「そうか」


 俺はベンダーの決心に短く答えた。

 その答えが不服だったのか眉を顰めるが、俺からすれば最初からその答えが出ていてほしかったぞ。


「では、材料を集めるか。ベンダー、冒険者ギルドに行って使わなくなった布でも貰って来い。若しくは汚れた布巾(ふきん)やカーテンなんかな。とにかく柔らかい布を片っ端から貰って来い。多分貰えるはずだ。理由は俺が子供にプレゼントを作るって言っておけ」

「そりゃあ良いけどよぉ、お前は何するんだ?」

「俺はちょっと出かけてくる。それまでに布を集めてどんな人形にするか板に描いておけ」

「わかった」


 俺はベンダーと別れて商業区画の方へ向かって行った。




 商業区画。


 俺はそこを歩きながら目的の物を売っている店を探す。

 商業区画はある程度分類ごとに店が出来ている。

 まず中央から入ってある建物が門と警備兵の摘める詰所だ。

 これは夜間の侵入を防ぐためだ。

 勿論警備をしているので身分を証明出来れば入ることはできる。


 次は食材を売っている店だ。

 孤児院や冒険者ギルドにあらゆる食材を卸している店が建ち並んでいる。

 食材地球の物とほぼ同じだが、名前が違ったりする。

 順番は肉や野菜、果物、穀物、調味料系となっている。


 その次は服屋や化粧品などを売り、その奥は小道具、さらに奥は飲食店となっている。

 また疎らに居酒屋や宿屋などがあるのが特徴的だ。


 その中でも俺が目指しているのは服屋のあるところだ。

 さすがに古布で作った人形をプレゼントするのもどうかと思うからだな。


 とりあえず残り数日間ベンダーが見れる人形を作れるように仕立てあげる。

 一番簡単なのは同じ形を二つ作って縫い合わせる方法だろう。

 幸い糸はある。

 布も買えばいい。

 残るはベンダーが間に合うかどうかなだけだ。

 最悪、俺も手伝う。


 服屋で布を買い終わるとそのまま孤児院へ戻りベンダーに手渡す。




「どこにそんな金があったんだ?」

「気にするな。出世払いでいいぞ」


 まあ、俺は人に貸した金は返ってこないことが多かったので気にしない。

 貸さなくなったのは当たり前だが……。

 今回はたったの銀貨一〇枚ほどだ。

 一万円の布と思えば高いが、結構な量があるのだからいいと思った。


「まずは絵を見せろ」

「おう! 力作だ!」


 それだけ自身があるのならと期待を込めて覗き込むとそこには、まあ見える絵が描かれてはいたが、これでは人形を作る時に困難となるので。

 想像でだが部品と本体の断面図及び、型紙を描いていく。

 ついでに子供達のために動物の絵も描き上げる。


「お、おお! い、意外にうめえじゃねえか」


 どうせ俺の次ぐらいにな、とか思ってるんだろうな。

 素直じゃないな。


「今から作るから見ていろ。お前にもやってもらうからな」

「おう! 任せろよ」


 俺はベンダーが持ってきた布を一枚とり、炭を使って布にいたと同じ絵を描いていく。


 人形――ぬいぐるみは前世で妹のために作ったことがあるので大丈夫なはずだ。

 そうだなぁ……この世界にも猫はいるだろうし、ミューみたいに黒い猫にしよう。

 少し大きめにしないと中に詰められないのでそこを考え、耳と尻尾を別に、あと頭も別にしておこう。

 座って目を擦っているポーズがいいから右上も別パーツにして……出来た!


 ベンダーはそれを見て唸っている。

 出来ないとは言わせないからな。


 次にその布を挟みで切り、布屋で買った針を使って縫い合わせていく。


 こら! 欠伸をするんじゃない!


 俺はベンダーの足に針を突き刺し、睨み付けると作業に戻った。


 パーツごとに縫い合わせた後は中にこれまた布屋で見つけた綿のような物を詰めてパーツを縫い合わせて完成だ。

 制作時間は一時間もかかってないだろう。


「……ハッ! お、出来たのか。おお! これは猫か! そっくりじゃないか!」


 寝てやがったな……。

 まあいい、お前にはこれより難しい人形のぬいぐるみなのだからな。

 とりあえず板にどのくらいの大きさか描いて、注意事項も添えておこうと……。

 俺って超優しいよね。

 これだけ描けばできるだろう。


「ほら。この通りに布に描き、順番通りに縫っていけ。まずは失敗するだろうからぼろ布でやるんだな」

「ああ、分かった!」

「じゃ、俺はまた用事があるから出かける」


 そんな目をしないでくれる?


 ベンダーは何やら一人では寂しくて死んでしまう兎のような目で俺を見るが、俺は首を振って俺が作ったぬいぐるみを指さした。


「せめてそのぐらい作れ。お前も思いはそれぐらいなのか?」


 俺はそう言って孤児院から出て行く。

 あと数日で上手く出来るだろうか。

 ちょっと不安だな。




 俺は孤児院を出た後隣にある冒険者ギルドまで向かった。

 冒険者ギルドに入るといつものように冒険者達が俺に気が付き声をかけてくる。

 俺は軽く手を上げたり、コクリと頷いて返事をする。

 今日は資料室ではなくロードスに会いに来たのだ。


「ミミ。ロードスさんはいるか?」


 仲良くなった受付嬢の一人エルフのミミに話しかける。


「こら! ミミさん、でしょ? 年上の人にはさん付けしなさい」


 プリッと怒っているのでそれほど怖くないが、耳は人間でいうと元の俺と同じぐらいの歳となる。

 どうも同い年という感覚が働いてしまうのだ。


 俺が軽く頭を下げて謝ると耳はにっこりと笑ってロードスのところまで案内してくれた。

 孤児院の話とでも思ったのだろう。

 普通はこうもいかない存在の人だ。


 二回までいくとミミがギルドマスター室をノックし入室許可を取る。


「いいぞ」


 中から厳つく渋い威圧感のある声が聞こえる。

 ミミは俺にじゃあねと言って業務の方へ帰って行った。


 俺はドアを開けて中に入るとロードスに近づきお願いを口にする。


「今日は頼みがあって来た」

「ん? 孤児院で何か起きたのか?」


 ロードスは孤児院で何か起きたのかと思ったようだ。

 滅多に出てこない俺が来ればそう思っても仕方ないだろう。

 現在は俺を中心に子供達が纏まるような感じだからな。


 とりあえず首を振って目の前まで行く。


「ではなんだ?」

「ベンダーが告白する」

「ゴフッ!? ゲホッ、ゲホッ」


 俺がそう言うと飲んでいたお茶を盛大に噴き出し、俺は咄嗟に目の前から移動する羽目になった。

 ロードスはむせながら台を拭き、俺を見て本気か? と言って来る。

 本気なのでしっかり頷く。


「ベンダーもセリカも両思いだ。確認してきた。現在、ベンダーの男が見れるように作戦を遂行中だ」

「ベンダーの男? ちょっと詳しく話せ。面白そうだ」


 本当に面白そうだと悪い笑みを浮かべてお茶を進めてきた。

 一口付け……お、意外に旨いじゃないか。

 だが、俺は緑茶の方が好きだな。


「セリカがこの街から去るらしく、ベンダーはその前に俺に勝って報告したかったらしい」

「そうだろうな」

「そこでもともとベンダーがセリカを好きなことを知っていたから丁度いいと思った。今は孤児院でプレゼントを作らせている」


 俺がそう言うとロードスは首を捻った。

 ベンダーが? とでも思っているのだろう。


「ああ、ベンダーがだ。まあ、まだ時間がかかるだろうが喜んでもらえるだろう」

「それは面白そうだ。それで俺に何をしてほしいんだ?」

「それはな――と、いうことなんだが……頼めるか? これはベンダーの将来のためにもなるし、こういう時は一緒にいたいだろうしな」


 ロードスは俺の提案に腕を組んで考える。


「最近はベンダーも可愛がられていただろう? 教えれば報酬が低くともふたつ返事で受けてくれると思うのだが」


 そう言ってコップを置きチラッとロードスを見るとロードスもその考えに至ったのか口角を吊り上げて了承するのだった。

 まあ、未成年からの依頼となるため直接冒険者に頼む形の願いになるだろうが。


「ダメだった場合魔石を使ってもらって構わない」

「良いのか?」

「ああ。一応ベンダーの一世一代の勝負だからな。それくらいはしてやる」

「お前は嫌っていたと思うのだが……」


 ロードスは俺が嫌っていたことに気が付いてたのか。

 結構見ているんだな。


「そうだ。だが、人として嫌いなわけじゃない。あの性格が好きじゃないだけだ。ベンダー自体はいい奴だ。最近はな」

「がははっ、そうか。この後は任せておけ。子供二人ぐらいしっかり守ってやるからな」

「ああ、任せる」


 俺はそう言ってギルドマスター室から出てベンダーの元へ戻るのだった。


 それから三日かけてベンダーはどうにか人形に、見えるものを作れるようになり、五日後には子供達が喜ぶものとなっていた。


 恐らく、


「冒険者でも裁縫はあった方がいい。結構冒険者は破れたものを自分達で縫っているぞ?」


 の一言が効いたのだろう。




 それから二日経ち、とうとうセリカの出発日が来てしまった。

 現在、セリカを見送るために俺とミュー、孤児院の皆、そしてベンダーが見送りに来ていた。

 傍にはベンダーについてきた冒険者達もいる。


 ばれるからにやけるのはやめい!


 ミューは少し涙ぐんでいるがこれが今生のお別れではないので安心させるように頭を撫でる。

 すると寄り添って来るので黙って身体を貸す。


 俺も挨拶を済ませたので残るはベンダーのみとなる。

 だが、ベンダーは一向に告白しようとしない。

 手には昨日作り上げた特製のぬいぐるみがあるというのに。

 ぬいぐるみに関してもミューが上手く聞き出してくれていたから大丈夫だ。


「ベンダー。皆と仲良くするのよ」

「わ、分かってる!」

「そう……」


 二人とも意識をしているようで顔が赤くなっている。

 ベンダーは背中に隠しているぬいぐるみを取ろうとしてやめるを何度も繰り返していた。

 じれったく思い何度も声を掛けそうになるが我慢する。

 ここでおじゃんにするわけにはいかないからだ。


「あ、そろそろ時間みたい。皆、それじゃあね。――ミュー、頑張るのよ」

「うん!」

「ソフィア君は元気でね」

「ああ」


 最後にベンダーの方を向いて悲しそうな気体の籠った目を向けるがベンダーはそっぽを向いているので無理だ。


 ヘタレ!


 セリカは馬車に乗り出発してしまった。

 今回の件を知っている皆が白い目でベンダーを見る。

 ベンダーは気まずくなって俯いている。

 その目には薄らと涙が浮かぶ。


 だが、これも予想の範囲内だ。

 こうなったら作戦を実行するしかない。


 俺は隣にいるロードスに頷いて合図を送った。

 ロードスも気が付くと頷いて背後を向き、かねてより準備をしていた冒険者のパーティーに手で合図を送る。


「それじゃあ、俺達もいくか! ベンダー!」

「え? え? ちょ、ちょっとぉッ!?」

「それではマスター、行ってきます。成功を祈っててください」

「ああ、邪魔だけはするなよ。成功したら打ち上げでもしてやれ。しなくてもしてやれ」

「はい! 面白いので見てます!」

「どういうことだああああぁぁぁぁぁッ!」


 ベンダーは冒険者に脇へ抱えられ、馬車まで一直線に持ち運ばれてしまった。

 冒険者達はCランクパーティーでそれなりに有名な人達だ。

 ベンダーの剣の師匠でもある。


 それにしても皆いい笑顔だったな。

 失敗は何事もなければ成功するだろうから待っておこう。


「ミューも泣き止め。数か月もしたら帰って来るのだから」

「ぐずぅ。分かってる」


 俺はミューの頭を撫でて悲しい気持ちを紛らわせる。


 ああ、セリカはこの街を出て行ったのではなく、【精霊の宿木】の女将さんの友人が人手を欲しがっているようで研修も兼てセリカが行くことになったそうだ。

 だから、数か月若しくは半年もすれば帰って来る。


成功したんでしょうかね?

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