ガキ大将登場
俺が孤児院に入ってから一カ月が経とうとしていた。
俺の一日? のスケジュールが決まり出した。
まず起きると皆と同じように布団を片付け朝食を取る。
その後は各自の仕事を簡単にし(俺はセリカと一緒に食器洗いだ)、冒険者ギルドの資料室へお邪魔する。
この一か月間で冒険者ギルドの受付嬢と仲良くなり(エルフのミミ)、ある程度の時間帯を知ったので冒険者のいない朝早めに向かっている。
八時頃となると活発に動き始めるので片づけたらすぐに行くのだ。
これは初日に絡んできた冒険者がいるからだ。
その時は運よくギルドマスターのロードスがいて事なきを得た。
ロードスは歴戦の戦士と厳つい顔だが、意外に気が利き優しいのだ。
たまに資料室へ訪れ説明をしてくれる。
意外に博識でもあった。
俺はおくびにも出さないが……。
昼食の時間となると戻り、昼食を皆と取る。
その後は再び資料室へ訪れ本を読み漁る。
昼になると偶にセリカ達が覗きに来る。
だが、俺は女の子と話したことがほとんどなく、女の子は繊細で独自の発想を持っているというのが持論のため言葉を思いつかないのだ。
それで嫌われたのかと思ったが、頷いているだけで嬉しそうに話すのでこれでいいと思っている。
彼女達はまだ文字が読めないみたいで偶に読み聞かせている。
話をしないのなら大丈夫だ。
それにしても俺はなぜ文字が読める?
しかも書けるぞ?
夕食は皆で作るらしく、俺は皆の指示に従って準備をする。
いろいろと知っているので作れるが、滅多なことは言わない方がいいので黙っておく。
昼食を食べ終わると男女に分かれて体を洗い、着替えて服を洗う。
水は有料だが近くに井戸があり、マリアーヌや冒険者が依頼として水を出してくれる。
俺が水魔法で作った『クリーン』の方が楽なんだが……。
その後は暗くなるまで遊び、皆が寝る時刻になり隣からすやすやと音が聞こえ始めるのを確認し、俺は地魔法で地剣を作り素振りの練習をする。
この時にはマリアーヌも寝ているため騒がない限り大丈夫だ。
まずいつものメニューをし、あの迷宮で学んだ急所を斬ったり突く練習と地盾を作り出し守りながら斬る練習をする。
後は集中力を上げるために極限まで集中を切らさないようにしている。
深夜を過ぎると空に大きな青色の突きが浮かび、黄色く光る月が小さく隣にあり栄えている。
その空を見ながらクールダウンし、次は気力の練習をする。
気力はトレーニングである程度増えていくが使う方が伸びている気がする。
まず高速で体の中を移動して温め、骨、筋肉、神経、皮膚、表面と全身を強化しつつ動き回る。
特に今は武器がないので徒手空拳をするしかない。
今では慣れてきたものだ。
最初の内は維持が難しくゆっくりにしか動けなかったのだ。
それに神経を強化しているからか嫌に敏感になる。
なので、神経の強化は部分的に行っている。
それが終わると止まり、全身の強化を維持した状態で攻撃した瞬間に気を高めて瞬時に高威力の攻撃を繰り出せるようにしている。
これもまた意外に難しい。
だが、出来るようになれば間違いなく切り札となるだろう。
その後は火照った体を水魔法で冷ましながら魔法の練習をする。
魔力が切れる一歩手前まで打ちまくるのだ。
さすがに大きなことは出来ないので、資料室で見たものを覚えそれを実行するのだ。
今のところ『魔力感知』等を覚えていっている。
迷宮で使えるお勧めと書かれていたからだ。
そうやって過ごすと空が明るくなり始める。
俺は水魔法で汗ごと綺麗にすると足音を立てずに部屋へ戻りいつもの場所で横になる。
この時も寝ずに魔力の回復に努めるのだ。
気休めかもしれないが。
で、また同じように過ごし、眠くなる日が来たらぐっすり寝るということをしている。
それから半年ほどが経った。
一日? のサイクルになれたのはいいが、冒険者ギルドの本を全て読みつくしてしまい、昼間にすることがなくなってしまったのだ。
こうなっては新たにやることを探し出すしかない。
かといって俺は子供と遊ぶ方法を知らないし、この世界の子供が何をしているのかもしれない。
とりあえず、食事を食べた後の食器を片付けるときにセリカに聞けばいいか。
「おい」
何か聞こえたがいつものことなので無視。
だが、今日はそうもいかないのか肩を掴まれ、振り向かされた。
「この半年間よくも無視してくれたな。お前が記憶喪失だから下手に出ていたが、もういいだろう?」
この男の子はベンダーといったか?
ベンダーはよくいうお山の大将的な存在で、取り巻きを引き連れて駆け回っているのだ。
まあ、俺は見るのは良いが加わるのは嫌いなので無駄な話はしない。
だが、こいつは何を言っているのだ?
意味の分からないことを言うやつは嫌いだ。
「何が?」
「何が、だと? 俺はお前が冒険者ギルドで勉強しているのを知っているんだぞ。無駄なことをする。だが、記憶がないのなら仕方ない」
何やら「俺、かっこいいだろ」みたいにポーズを決め、少し流して赤髪の前髪をファサっと上げる。
うん、お前好きじゃねえ。
それに何様のつもりだ?
俺が勉強していても別にいいじゃないか。
何か気に障ることをしたか?
それに勉強、知識が無駄なことなんてないぞ。
それが分からない内は大成出来ない。
取り巻きも俺を見てニヤついているな。
もしかしてこれがいびりとかいうやつか!
腹は立たんが、鬱陶しいな。
俺は溜め息を付いて無表情だが目を細めて言う。
「お前、何が言いたい。用件を言え」
意外に低い声が出てしまったようでベンダーは一歩下がってしまった。
それが癇に障ったのか一歩踏み出し、俺の胸元を掴もうとして来た。
俺はそれを手で取ることで防ぎ、前髪の間からベンダーの茶色い瞳を覗き込む。
「ひっ」
と声が漏れたがまだ何かするみたいで手を押して話す。
「な、なんだ!?」
「だから用件を言え。何もないのなら俺は行くぞ」
そう言って踵を返そうとするとベンダー達が慌てて俺を引き留める。
本当に鬱陶しい。
前世ではこんな奴とあったことなかったからわからなかったが、漫画のようなことをする奴は本当にいるんだな。
「用があるに決まってるだろ!」
「じゃあ、何?」
そういうとまたもビクつくので黙っていることにした。
「お、お前、最近セリカと近づきすぎてるからその忠告に来たんだよ!」
顔を赤くしていうベンダーに俺はさすがに気が付いた。
ははあん、お前はセリカのことが好きなのか。
そしてセリカと一緒にいる俺が気に食わない、と。
だから俺に喧嘩か何かを売って負かす。
現段階は脅しということか……。
俺はそれに屈する気もないが、負ける気もなく、騒がす気もない。
ここを切り抜けるにはこう言えばいい。
「わかった。気を付ける」
この一言を真摯に言い、軽く頭を下げておけば大抵こういう輩は鷹揚に頷いて見逃す。
そして、想像通り、
「そうか! これに懲りたら二度とするんじゃないぞ! 次は容赦しないからな! 行くぞお前達!」
そう言って取り巻きを連れて外へ遊びに出て行った。
俺は溜め息を付き踵を返すと先ほどの様子でも見ていたのか猫の獣人であるミューがドアから顔だけを覗かせてこちらを見ていた。
俺が見ていることに気が付いたミューは慌ててドアに隠れた。
俺は面白いと感じ、先の行動は決まっているので練習した通りに音と気配を立ってドアに隠れた。
「…………あれ?」
そして、俺の目の前にひょっこり顔を出し、俺のことをもう一度見てきた。
可愛い声が傍で聞こえたが、俺は笑いを堪えると更に息を顰めミューが出てくるのを待つ。
「さっきまで――」
「わッ!」
「二ャアアッ!?」
そして、想像通り出て来たのでそこを横から真後ろに忍び込み横から顔を覗かせて驚かせた。
すると孤児院内に響き渡る声量の悲鳴が上がり、ちょっとやべぇと思ったのは仕方ない。
「ヒック、ぐずずぅ」
そのまま泣くとは思わず、俺は混乱しながら冷静に見下ろしてしまい、それがまた失敗でセリカが部屋から飛び出してきた。
俺からすると何も悪いことをしていないのだが、セリカから見ると無表情で見ている俺の目の前に泣き崩れたミューがいる構図となり、俺が何かをして泣かせた、というようになる。
「ミュー!」
「ぐずぅ」
俺は内心やべぇとどうしようしか思えず盛大に混乱しているのだが、キリッと睨み付けるセリカには何か言いたそうに映っているのだろう。
弁解してもいいが、こういう時は何を言っても聞く耳を持ってもらえないので男は黙って罪を被るべし!
まあ、俺が悪いわけだしなぁ。
ちょっと大人げなかったッス。
「ソフィア君! ミューに一体何をしたの!」
白状しろ! と俺に食って掛かってくる。
先ほどのベンダーよりも遥かに怖い。
「すまない。俺が悪かった」
そう言って頭を下げるが、セリカはなぜか許してくれない。
誠意が足りないのだろうか?
だが、土下座をするというのもちょっとなぁ……。
まあ、ミューにならしてもいいんだが。
あの耳と尻尾を触るためにならなッ!
「何があったかって言っているのッ!」
「いや、本当に俺が悪いだけだから、すまなかった」
「だからッ……!」
謝る口調が悪いのだろうか?
ビシッと太腿の横に指先まで伸ばした両手を当て、九十度に頭を下げているのになぁ。
そこへ救いの女神が現れた。
まあ、ミューなのだが。
「ぐず……もういい、セリカちゃん。本当は私も悪い。ソフィア君は何も悪くない」
ああ、女神よ!
俺はそう心の中で崇めるが、セリカはミューの言ったことを信じず俺を睨み付けた状態で部屋の中に帰って行った。
取り残された俺はどうすることも出来ないので、中に入ると睨まれるだろうから外へ遊びに行くとしよう。
わたしの名まえはミュー。
今年で五歳になる猫の獣人。
さいきん新しい子が【ホピュス孤児院】に入って来た。
その子はお人形さんみたいで、どことなく皆とふんいきの違うどくとくな男の子。
白いかみはあざやかな紫色に変わっていて、風に揺られてさらさらと動く。
たまにのぞいて見える顔もお人形さんみたいですごい。
でも、ひょうじょうがほとんど変わらない。
変わる時はしょくじの時と本を読んでいる時だけ。
でも、さいきんはその本を読むことがなくなった。
なんでもぜんぶ読み終ったかららしい。
さいしょのころはわたしはセリカちゃんに手をつながれてソフィア君の所へ行っていた。
怖いおじさんがいるギルドの中を歩くセリカちゃんはすごく、そんな中一人で入って本を読んでいるソフィア君はもっとすごい?
ソフィア君はとつぜん現れた私達をじゃけんにすることなく、興味がなさそうに本を読む。
ちょっとさびしいけどいつものソフィア君だから仕方ない。
でもその時セリカちゃんが、
「ねえ、ソフィア君」
と、本を読んでいるソフィア君に話しかけちゃった。
ソフィア君は頭を上げてこちらを見ると楽しそうんしていた表情を無にして、「何?」とでも言うように首をかしげた。
それにセリカちゃんはいつものように話しかける。
「私達も字が読めないから何か読んでよ」
ええええっ!?
わたしはおどろくしかなかった。
確かにさいきんは文字を教わっているけど、まだまだ読めるほどではない。
それを読んでいるソフィア君はすごく、マリアーヌさんが言っていたようにかしこい。
だけど、そんなことを頼む? 普通。
まあ、そういうところがセリカちゃんらしいけど。
いやそうな顔をするのかと思ったけどソフィア君はコクリと頷くとどこかに行って、何かちがった本を持ってきた。
その本は私達でも知っているゆうしゃ様のものがたり。
そこで久しぶりにソフィア君の綺麗な声を聞いた。
「昔々、とある世界に凶暴な魔王が誕生しました。そして、魔王はとある王国で世界の秘宝と呼ばれる姫君を攫ったのです。そこへ立ち上がったのが伝説の勇者様です。――」
すきとおるようなきれいな声。
リズムを取るようによくようのあるうつくしい声。
おじさんみたいににごっていない、ベンダーみたいにいばらないみりょうする声。
わたしの好きな、初めてきいた時から好きになった声。
わたしはいつの間にか目を閉じて、自分を姫君に、ソフィア君をでんせつのゆうしゃ様にして想像していた。
ソフィア君の声が聞こえなくなるところでその想像もなくなり、元の世界に戻って来た。
ソフィア君は再び無表情になった。
でも、けっこう楽しんでいることが目を見ればわかる。
セリカちゃんはそれで満足したのか私の手を持って帰って行く。
ああ、もう少しいたかった。
それから少しして、私はソフィア君がベンダー達に絡まれているところをもくげきした。
どうにかして助けたいけど、私にはむり。
じっとドアの隅から見ていると何かふんいきがおかしくなってソフィア君から感じるものが変わった。
こう優しかったものがとげとげしくなった。
それからベンダーがソフィア君を掴もうとしてソフィア君は逆に掴んでおどした。
何が起きたのか分からなかった。
身体能力の高い獣人である私が捉えられなかった。
その後はソフィア君がなぜか謝ってその場は普通に終わった。
だけど、見とれてたからかくれるのが遅れてソフィア君と目が合った。
慌ててかくれたけどソフィア君が気になってもう一度のぞいた。
「…………あれ?」
そこにはソフィア君がいなくなっていた。
獣人は気配にも敏感なのにどうやっていなくなった?
そこで油断して出て行かなかったらよかった。
「さっきまで――」
「わッ!」
「二ャアアッ!?」
え!? え!?
何が起きたのか分からなくなって、悲鳴を上げて、怖くて泣きだしたけど、少ししてソフィア君だとわかった。
ソフィア君を見ると無表情だったけど目はどうしたらいいのかとこんらんしていた。
ああ、私が泣いているからだ。
そこで声をかけようとしたけどむりで、部屋の中からセリカちゃんが出て来た。
これで大丈夫と思ったらセリカちゃんはソフィア君は悪くないのに怒り始めた。
ソフィア君も自分が悪いとあやまっていた。
どうしてあやまるの?
どうしておこるの?
なにをしているの?
わたしはよくわからなくなって、結局ソフィア君が悪くない、私が悪いと言ってしまった。
だけど、セリカちゃんは信じてくれなかった。
どうして?
わたしはセリカちゃんに連れられて部屋の中に入っていく。
入りぎわにソフィア君を見ると少し悲しそうな目をしていた。
「ヒック」
「もう失礼しちゃうわ! ソフィア君はベンダーと違うと思っていたのに!」
セリカちゃんはソフィア君をベンダーとどうれつにした。
わたしはそこでカッとなった。
「セリカちゃん! ソフィア君は悪くない! わたしが悪かったの!」
「え? え? ど、どうしたのよ、ミュー」
セリカちゃんはとつぜんどなられて私の両腕を取った。
わたしは鼻をすするとソフィア君がしたことを言った。
「ソフィア君はドアにかくれた私を驚かしただけ。それに驚いて泣き出した私が悪いの」
セリカちゃんはそこで納得いったのか手から力が抜けてあわてて部屋の外に行ったけどソフィア君はもういない。
「ほ、本当なの?」
セリカちゃんはちょっと焦っている。
珍しい。
「ほんとう。ベンダーに絡まれてたから見てた。そこを見られて驚かされた」
「ミューは獣人なのに?」
「うん。ドアの端まで気付かない内に来てた。後ろから声をかけられるまで気付かなかった」
あの時はちょっと声が大きいこともあって驚いた。
でも今思えばちょっと楽しくて、負けたような気がして嫌だ。
「そ、そうなの……。今度謝らなくちゃ」
セリカちゃんはちょっと落ち込んで座った。
わたしは涙を拭いて今度こそ近づいたら気付いて逆に驚かせてやる! と誓った。
だけど、ソフィア君って驚くかな?
二人目のヒロインですよ。
ハーレムになるかは未定ですが、ハーレムとは何人からハーレムですか?




