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孤児院

 次に俺が目覚めると傍に金髪の神官シャリーとオレンジっぽいピンク色の髪をショートにし、眼がトロンと下がり黒い帽子を被った魔法使いの女の子が見ていた。

 シャリーより少し小柄だが同い年に見える。

 箒を持てば完璧に魔法使いだ。


 俺と二人は目が合い、二人とも微笑みかけて来た。

 どうやらとろんとした目は日常的のようだ。


「気分はどうですか?」


 そうシャリーに訊ねられた俺は軽く体を動かしてみた後痛みがほとんどないことに気が付き、コクリと頷いて答えた。


 二人が看病をしてくれていたのだろうか?

 もしそうならお礼を言った方が……。


「助けてくれた?」

「ええ、迷宮で瀕死の状態になっているところを見つけ急いで回復魔法を掛けさせてもらいました。急所は守られていたのでどうにかなってよかったです」

「ありがとうございます」


 そう目礼をして伝えると微笑まれた。


 微笑みは女神様の方がいいな。


 等と失礼なことを考え、頭を撫でられたのでクレリアの方を見た。


「痛いところは?」


 見た目通りあまり話さないタイプのようだ。


「大丈夫。ちょっと怠くて痛いだけ。寝る前よりは大分いい。……あなたは誰?」


 俺がそう訊くと彼女は少し微笑んで俺の長い髪を掬って答えた。


「私はクレリア」

「俺はソフィアノス」


 そういうとシャリーが手を叩き注目させ、どこまで記憶があるのか聞いてきた。

 恐らく名前を憶えていることに疑問を感じているのだろう。

 だが、それは対処を考えている。

 しかも嘘ではない。


「名前の他に何か覚えていませんか? 家族とか街とかできることとか」


 やはり聞いてきた。

 ここは半分誤魔化して本当のことを言う。


「名前も憶えてなかった」


 そういうと二人はびっくりして「え?」と、零すのだった。


「この名前は女神様から貰った大切な名前。あといろいろと教えてもらった。世界とか国とか」


 そういうと二人は驚愕した顔から納得した顔に変え、今度はどこまで知っているのか聞いてきた。

 俺は女神様から聞いた通りのことを伝えた。


「大体合っている。だけど、まだまだ浅い」


 表面上だけだと言いたいのだろう。

 それに関してはこれから調べていくのでいい。

 問題はどうやって生きるかだ。

 この身体は使えるが、五歳児を雇ってくれるところがあるかどうか……。


「そうだったのですか……。では、あなたは迷宮の神様にお会いし、踏破した願いを叶えてもらったのですね? 同時にある程度の知識と一緒に」


 再確認してくるシャリーの眼はなぜか真剣だ。

 何か拙いことを言っただろうか?

 もしかして願いで名前を貰うのは不味かったとか。


「え、ええ。記憶がないことを不憫に思ったのか丁寧に教えてもらえた」

「それは良かったですね」


 野に咲く花のようにパァーッと笑顔になると胸の前で手を合わせてそう言ってくれた。


 どうやら大丈夫だったようだ。


「ところで、ここはどこだ?」


 俺は辺りを軽く見ながらそう訊いた。


「ここは【ホピュス】の街の冒険者ギルドの医務室ですよ。あなたを迷宮で救助してから一週間、一度起きてから二日経っています」


 一週間以上もここで寝てたのか!

 それにしてもお腹がそれほど空かないのは俺の身体が魔物だからだろうか。

 一体どんな魔物だ?

 もしかして魔物全部が食事をしないのか?

 よく調べないといけないな。

 図書館とかあるだろうか。


「それでこれからなのですが、あなたはどうしたいですか?」


 シャリーが心配した顔でそう訊いてきた。

 クレリアも心配そうである。

 だが、その質問は俺にはよくわからず首を傾げるしかない。


「迷宮に潜る」


 一応当初の目的を言ったつもりだったが、二人は顔を見合わせると申し訳なさそうにダメなことを説明してくれた。


 冒険者ギルドに登録するには金貨一枚の登録料に必要事項の記入とギルドカードの登録以外に、一〇歳以上あること、ある程度の装備を持っていること、実力があることだ。


 一〇歳以上であるのなら仕方ない。

 何かほかの方法でお金と知識と行ける術を学ぼう。


 次にある程度の装備だが、これは冒険者になると命の危機が訪れることが幾度となくある。その危機を乗り越えるために最低限持っておけということだ。

 最低限というのは武器一つと鎧か盾を一つだ。

 俺にはどちらもない。


 そして、実力があることというのは登録前にギルドの級を決めることになるらしいからだ。


 だが、お金の無い者はどうすることも出来ないので一〇歳になると仮登録というものが出来るようになり、武器一つと防具を数種類三か月間借りることが出来るのだ。

 その後は返さないといけないとのこと。


 これは武具を大切にすることと手入れなどを徹底させるためだろう。

 壊せば弁償だろうし、早々に壊せば次は借りれないだろうから無手で戦わないといけなくなる。


 三か月も経てば簡易の武器と防具を買えるお金が溜まるらしいのでそこから本登録の試験を経て冒険者となるらしい。


 まあ、俺は【デブリン】……未だに名前が分からないが普通ボスといえば一個上のランクと決まっているので恐らく【ハイゴブリン】とかいう名前だろう。

 【ハイゴブリン】であの強さとなると俺は一体どれだけ弱いのだ?

 まあ、あの男性の方がもっと弱くなるが、【ハイゴブリン】を簡単に倒せない俺が冒険者ギルドの実力試験を突破できるとは思えない。


 と、言うことでこの五年間は訓練に当てよう。

 勿論知識をきちんと得る。

 知識は見えない武器だからな。


「迷宮は冒険者じゃないと潜れない?」


 そう訊くと二人は首を振るがやめて欲しそうにしている。

 やはり、五年は待つしかないか。


「一応できるけど、きついと思う」

「あなたがいた迷宮はちょっと特殊で一層に同じ魔物しか出なかったです。普通の迷宮は二体以上出てくるので気を付けないといけません」


 ああ、そういえばその訓練をしてなかったな。

 八方塞がりか……。

 やっぱりどこかで働くしか……。


「あなたが良ければなのですが、この街にある冒険者ギルドの孤児院に住みませんか? 寄付と冒険者ギルドの融資で成り立っているもので贅沢はできないですが、飢えはしないと思います。それに成長すれば戦い方を教えてもらえますよ?」

「そう。君は戦い方を学んだ方がいい。もっと強くなれる」


 なるほど……。

 そういえば一層の壁を出鱈目に破壊してきたんだったな。

 なら、俺がそれをしたと思っても仕方なく、ボス部屋で発見されたのだから倒したと考えるのが妥当だろう。

 まあ、その提案に俺はデメリットを感じないのでいいだろう。


「わかった。こちらこそ頼む」


 そういうと再び手を打ち鳴らし嬉しそうにする。


 どうやらシャリーは見た目通り神官で孤児院の寄付と遊び相手などをしているそうだ。

 なら俺みたいな子供が一人でいるのを見過ごせないというのが分かる。

 まあ、本心はどうか知らないが……。


 俺はその後初めてしっかりとした魔法を目撃し、女神様の言う通り詠唱がいることが分かった。

 まあ、適当に詠唱するのでいいが。


 体が軽くなったが、魔法でも内部の痛みや疲労までは回復できない様で数日間はここで安静にするようにと言われた。


 まあ、俺は早く回復するだろうが。


 その後は少し談笑をして、ドロップアイテムの話になったのでボスの落とした物を訊ねた。


「ああ、ボスが落とした物ですね。魔石と【緑鬼王の小刀】と呼ばれる武器ですよ」


 丁度良かった、武器が壊れてどうしようか迷ってたんだよ。

 あと、やっぱり魔石と呼ぶんだな。


「ですが、あれはギルドに管理してもらいます。あなたが一〇歳の誕生日を迎えるまでですが、すみません」


 それは仕方ないか。

 中身はしっかりしているが、人から見たら五歳児だもんな。


 了解と頷く。


「それとあなたの功績は私達の物となります」


 どういうことかと悩んだが、俺も目立つのは嫌だし、冒険者の死人が出るのも嫌なので別にかまわない。

 俺はもう一度迷宮を踏破し、気持ちを伝えに行くのがまずは目標だからな。

 その他は最低限あればいい。


 問題ないと頷いた。

 すると本当に申し訳なさそうにするので、その対価は何なのか訊いた。


「もちろん、あなたには便宜を図ります。孤児院に関してはそういう義務があるので安心してください。後、魔石に関してもあなたの誕生日の日に渡します。冒険者の方が換金した時に金額が多いですからね。それ以外で何かしてほしいことはありますか?」


 そうだなぁ……。

 あ、先ほど思ったことでいいだろう。


「この街に本を読める場所はあるか?」


 質問が意外だったのか一瞬戸惑ったが首を横に振って否定された。


「図書館は都市まで行かなければありません。ですが、この冒険者ギルドに資料室があります。そこは一般開放もされているので持ち出さない限り読んで構いませんよ」


 ということはこれも願いにならないのか。

 では、何にするか。


「特にないようでしたら困った時に言ってください。今は疲れているでしょうからゆっくりと休んでくださいね」

「そう。君はぐっすり休む」


 二人は立ち上がって俺の髪を掬うと頭を撫でて医務室から出て行った。

 残された俺は再び睡魔が襲ってきたので寝ることにした。




 ソフィアノスとの話を終えた二人は急いで二階にあるギルドマスター室へ向かった。

 ノックをして中に入ると既に仲間二人とロードスが待っており、すぐに会話を話すように言われた。


「その様子だと目が覚めたようだな。で、どうだった?」


 ロードスは腕を組んでソフィアノスの容体と話はどうだったか訊ねた。

 二人は近くのソファーに座り、差し出されたお茶を一口飲んで口を開く。


「まず、彼は記憶喪失のようですが迷宮の神様から踏破した願いとして『ソフィアノス』という名前を頂いたそうです。そして、ついでにこの世界の知識を貰ったようです」

「知識といっても浅い表面だけ。詳しいことは分かっていなかった」

「そうか」


 神から名前を貰うのは別に悪いことではない。

 だが、過去にそのような願いをしたものがいないのでどのようなことになるかわかった物ではないのは確かだ。

 教会の連中が知れば神聖視する可能性があるということだ。

 まあ、誰にも言わないのがいいだろう。


「あと、彼は迷宮に潜って暮らすつもりだったようで孤児院に住むことを了承させました。今回の件も嫌がることなく了承してくれたもので物わかりのいい子だと思いました」

「でも、欲がないからちょっと不安。子供らしく活発ということもなく、淡々と答えていた。しかもこちらが言ったことを深く理解して」


 その言葉にロードスは唸る。

 ソフィアノスのことを見破ったのではなく、子供が早熟する思考をするということはそれだけ過酷な環境だったということになるのだ。

 まあ、実際に過酷だったがソフィアノスは結構楽しんで生きていたと思う。


「まあ、その辺りは孤児院でどうにかしよう。暴れ者じゃないのならいいことだ」


 職員はギルド関係者もいるので暴れる子よりも大人しい子の方が手がかからなくていいと思うのだろう。

 実際は心配になるのだが。


「あと、本を読める場所を聞かれたので資料室を進めておきました。体が動けるようになれば読みに来るでしょう」

「そうか」


 ロードスは考える。

 恐らく、生きるために知識がいると思ったのだろう。

 若しくは神に知識を与えられ、これから必要だと感じ取ったのだろう。

 直接会ったわけではないのに聞いた話では成人したものを相手にしているようだ。

 と思っているだろう。


 実際はその通りだが。


「それでは今回の件はここまでにしよう。お前達は口外しないように。それと一応気にかけてやってくれ」


 四人はそれぞれの反応を示し、この場で解散となった。




 それから数日して俺は退院となった。

 実際は次の日には怠み以外全てがなくなり、その間暇だったので実際に見た回復魔法の練習と気力の使い方を考えた。


 回復魔法はある程度使えるようになっただろう。

 気力の使い方は最後に使ったように武器に通すことだ。

 あの時爆発してしまったので、何かコツがあるはずだ。

 まあ、それも十歳になってからだ。


 そして俺は今、十数人の子供達の前で自己紹介をしていた。


「ソフィアノス、五歳、よろしく」


 自己紹介とかほとんどしたことがないから何を言っていいのか分からず片言になってしまった。

 皆ポカーンとしているのは俺の顔が怖いからだろうか?

 まあ、泣かれないだけでもマシだが。


「こ、この子は今日から新しくこの【ホピュス孤児院】に入るソフィアノス君です。先日、フォルファー君達が依頼で保護した子となります。皆さん仲良くしてあげましょう」


 そう此処の職員であるマリアーヌが言った。

 俺は仕方がないので軽く頭を下げておいた。

 その後はあちらの自己紹介をし、昼食の時間となった。

 昼食は意外においしかった。

 だが、【スライムの体液】の美味しい甘さも忘れられない。


 昼食を取り終えるとマリアーヌが言うように食器を片付け、その一日を終わらせた。




 わたしの名まえはセリカ、七歳よ。

 【ホピュス孤児院】で暮らす一人でもあるの。


 なぜ私が孤児院で暮らしているかというと、お父さんとお母さんが流行り病で死んじゃったからなの。

 とてもとても悲しかった。

 毎日泣いて、いつも時間が経つのを待ってたの。

 そこをギルドの人が見つけて連れて来てくれたのよ。

 さいしょの内は怖かったし、お父さんとお母さんの所に行きたくてずっと探してた。

 もう見つからないことを教えてもらって、たくさん泣いたの。

 だけど、いつまで泣いていてもお父さんとお母さんは帰ってこない。

 だから、わたしはお父さんとお母さんが安心できるように生きることにしたんだ。

 本当は孤児院のマリアーヌさんに言われたからなんだけど、ひみつね。


 で、今日はマリアーヌさんが重大なお話があるっていうから孤児院にいる子供達ぜんいんが集まったの。


「今日はここ【ホピュス孤児院】に新しい子が入ってきます」


 マリアーヌさんは優しくて、温かくて、良い匂いで、ちょっと怖い人。

 私達のお母さんなのよ。


 そのマリアーヌさんが新しい子が入ってくるっていった。

 どんな子なのか楽しみ。


「その子はショックで記憶がなくなっています。だから、皆はその子が変なことをしても優しく教えてあげてね」


 記憶がなくなった?

 それってお父さんとお母さんのことも覚えていないっていうこと?

 そんなの絶対にいやだ!


「どんな奴だー?」


 孤児院の中で一番やんちゃで、手がかかると言われている男の子ベルダーが大きく手を上げながら叫ぶようにそう訊いた。

 マリアーヌさんはそれに微笑んで答えた。


「私もまだ会っていないからわからないけど、とても大人しく、賢い子って聞いているわよ。歳は五歳よ」

「俺より年下か! 子分にしてやろう!」


 ベルダーがそう言うと一緒に集まっていた子供達が一緒にキャッキャする。

 わたしは大人しい子がベルダーの所に行くとは思えなかった。

 ベルダーはいつも誰かを引き連れていて、この辺りの子供の大将なの。

 一番強いっていうこと。

 男の子は強い子にあこがれるものね。

 女の子は強い子に惹かれるっていうけど、わたしはそうは思わない。

 そんなベルダーの夢は冒険者になること。


 そうこうしている間にマリアーヌさんがいなくなっていた。

 多分呼びに行ったんだ。


「お前達にも子分が出来るぞ」

「おお! 僕にも子分が!」

「それにどんな奴か楽しみだな! 強い奴だったら俺の弟子にしてやろう」

「いいな!」


 ベルダーたちは相当盛り上がっている。

 もし獣人だったりしたらどうするのだろう?

 この孤児院には獣人は女の子しかいないけど、けっこう力が強いのよ。

 ベルダーよりも強いのではないかなと思っているの。

 でも獣人の女の子はかわいい物が好きで、たたかいにはあまり興味がないみたい。

 わたしは人族よ。


 あと、ベルダーは最近調子に乗っているのでこらしめてほしいとも思ってる。


 それから少ししてマリアーヌさんが新しい子を連れてきたの。

 その子を見て皆固まったわ。

 だって、肌は女の子よりも白くて、髪はきれいな白色からむらさき色になってるの。

 身長はわたしより小さくてちょっとかわいい。

 顔は髪で隠れてるからわからないけどきっとかわいいのよ。

 だって獣人の女の子が目をときめかせてるもの。

 ああ、獣人の女の子の名前はミューっていうのよ。

 三角耳が特徴のねこの獣人。


 でもその子は私達を見て呟くように挨拶するだけだった。

 笑うこともなければ動くこともない、作業を熟したっていう感じ。


 皆、目の前の子にいろいろなことを感じてどう反応していいのかわからなかったと思うの。


 彼は軽く頭を下げて、マリアーヌさんが慌てるように話し出したのを知って我に返ったわ。

 その後は私達も自己紹介をして昼食を取ったのよ。


 彼は黙々と食べるとおいしそうに口元をほころばせてたわ。

 その笑顔は眩しかった。


ソフィアノスはあれがハイゴブリンだと思っています。

一体いつ気が付くのでしょうか。

子供の会話は漢字にするかひらがなにするか悩んでしまったもので、今後次第で変えようと思います。

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