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初めての外

やっと街に付いたのでこれから戦闘が暫くありません。


 何とも美しく表情豊かで俺には勿体ない特別な女性、迷宮と冒険の神様と別れ、次に目を覚ました時、そこは知らない天上だった。


 周りを良く見渡すと俺はどうやらベッドの上に寝かされているようで、お腹の上には白いシーツの様なものが掛けられている。

 目の端にはいろいろな道具と瓶等が入った棚、他にもいくつもベッドがある。

 だが、俺以外には誰もいないようだ。


「……っ!?」


 起き上がろうとしたが全身に神経を針で刺されるような激痛が走り、背中をベッドに落とす同時に背中にも激しい痛みが走った。


 苦しい息と心臓がバクバク言い始め、寝ぼけていたのか先ほどから全身に激痛が走っているのだった。


 な、何が……。

 いや、俺は迷宮で倒れたはずだ。

 そして、神様といろいろと話し……そうだ! 俺の肌!


 俺は痛む体を無理して持ち上げ、動きやすい体制を取ると右手をシーツの中から取り出し窓から差し込む太陽の光に当てながら観察する。


 その手は浅黒い紫色の肌ではなく、本当に色素がなくなった真っ白な肌だった。

 シミ一つないと言うのが正しい。


 そういえばここはどこだ?

 なぜ太陽の光が?

 俺は助かったのか?


 そこまで考えると部屋の隅からドアが開く音がし、俺の方へ近づいてきた。


「起きられたのですね。意識はしっかりありますか?」


 俺にそう投げかけて来たのはブロンドの艶やかな長髪を精巧な装飾がされた白い帽子で留め、神官のような白と青と金で作られたローブを着ている。

 手には金の輪っかが付き振るとシャランと音が鳴る錫杖を持っている。


 俺はその女性に無表情でコクリと頷く。


「良かったです」


 胸を押さえてホッと息を付く女性。


「私はシャリーと言います。あなたのお名前を教えてくれますか?」


 俺は女神様から貰った大切な名前を言う。


「ソ、ソフィアノス……」


 そういうと女性は「いい名前ですね。智慧・叡智等賢いという意味がありますね」と言い、隣の椅子を取って座った。


「まず聞きますが、あなたがどこにいたのか覚えていますか?」


 それに対して大丈夫だろうと考え頷く。


「そうですか。話してくれますか? あそこは知っているかもしれませんが、迷宮と呼ばれるところです。あなたのような幼い子供がなぜいたのですか? しかも最下層のボスの部屋に」


 助けてくれたのはこの人のようだな。

 差し障りのないように答えておくか。

 記憶喪失というのがいいだろう。

 幼いしショックで忘れた、と受け入れてもらおう。


「お、俺は、気付いたらあそこにいた。その前のことは何も覚えていない。ボスの部屋にいたのは進んでいったら階段を見つけたから。下に降りればいいと思った」


 俺は出来るだけ片言っぽく伝える。

 そうすることで相手の不安と同情を引き出す。


 現に女性は悲しそうな心配そうな表情になっている。


「魔物はどうしたのですか? 青色のぷよぷよと動く【スライム】や緑色のくねくね動く【キャタピラー】、あなたと同じくらいで緑色の肌をした【ゴブリン】、そして最下層のボスは?」


 ああ、そこも考えるのか。

 そうだなぁ……。


「【スライム】? から逃げて人の死体を見つけた。そこで剣を見つけて適当に振りながら倒した。【スライム】を倒したら食べ物が落ちてきたからそれを食べて過ごしてた。それでもう一度死体の所に戻って何かないか探した。そこで絵が描かれた丸いのと文字が書かれた四角いのを見つけた」


 さすがにお金とカードといったら拙いだろう。

 ここはほとんど知らない無知としていこう。

 そういえば何で俺は文字が読めたんだ?


「で、剣を使って【キャタピラー】も【ゴブリン】も倒した。最下層のボス? は出口かと思って門の中に入ったら出て来た。だから、戦って倒した」


 倒したのは拙かったか?

 だが、あそこには証拠があったはずだ。

 アイテムと紫色の石が。

 誰かが助けてくれたといっても俺がいつ助けられたかによって変わるから墓穴を掘ることになる。

 無難なのは無理そうだが戦って倒したことにする。


 女性はやはり驚いているが、納得もしているようだ。


「そうですか。ボスは何でしたか? 何か覚えていますか?」


 そう問われたので思わず心の中で思っていた魔物の名前を言ってしまった。


「……【デブリン】」

「で、でぶ?」

「お、大きな【ゴブリン】! 最後にところで出て来た【ゴブリン】と同じ色をしていた。多分親戚か親だと思う。体は俺の一〇倍はあって、大きな石のハンマーを持ってた。でも、デブかった」


 どうだ、誤魔化せたか……。


 女性を見るが微笑んでいるだけなのでよくわからない。

 そこへ再び眠気が襲い、瞼を閉じてしまった。


「あら? まだ疲れていたようですね。ではまた来ます。ゆっくり休んでください、ソフィアノス君」


 僕はそう言われて意識を手放した。




 揺れが収まり、静かになった門を開けた四人は武器を構えながら飛び込んだ。


 だが、そこには何もなく、いや、破壊され尽くした大地と燃え盛り目の前で魔石とアイテムと化したボス以外何もなかった。


 剣士は慎重に辺りを見渡し、背後を見た瞬間驚いたように駆け寄った。

 それにつられて三人も近づき、すぐに神官であるシャリーは回復魔法を唱え施すのだった。


「『ハイヒール』」


 暖かい緑色の光がシャリーの手から現れ、主人公――ソフィアノスの身体を優しく包んでいった。

 ボスにやられた打撃痕や石の破片で切った切傷、打ち身、左腕の骨折、焦げ付いた右腕が綺麗に回復していく。

 だが、全力で施しても体の疲労は取れず、いくら呼びかけても目を覚まさない。

 心臓に耳を当てると微かに心音が聞こえ、息も僅かにしていることが分かった。


 そこで改めてみると肌に色が真っ白ですでに女神から願いをかなえてもらった後のようだ。

 時間が違うのだろう。


 剣士と戦士は辺りを警戒し、シャリーと魔法使いはソフィアノスの状態を詳しく確かめる。


 そして、安堵したように息を吐き、ソフィアノスに再び、今度は体力回復魔法を掛けた。


「『バイタリィヒール』」


 今度は黄色い光がソフィアノスの身体を包み込み、吸い込まれるかのように吸収しソフィアノスの減少した体力を回復させていく。


 ソフィアノスの消えかけていた息は元に戻り、鼓動は大きく脈打つ。


「これで大丈夫でしょう。後はアレッグに担いで帰ってもらいましょう」

「それがいい」


 アレッグとは鎧戦士である。

 魔法使いの名前はクレリア。

 剣士の名前はフォルファーといい、【ホピュス】きってのA級パーティーなのだ。


 フォルファーは警戒しながら先ほど消滅したボスの魔石と出現したアイテムである【緑鬼王の小刀】を拾い上げる。

 小刀という名前だがそれはあの【デブリン】から見てという話なので実際は一メートルを超える大きさがある。


 アレッグは折れ曲がった盾を拾い上げ、自身の持つ袋の中に入れた。


「そいつが倒したのか……。信じられん」


 剣と魔石を袋に仕舞ったフォルファーは驚愕して近寄って来た。

 シャリーとクレリアは顔を上げて訊ねた。


「ボスはなんだったのですか?」

「……【ボスゴブリン】」

「え?」

「だから、【ボスゴブリン】だ! 俺も信じられねえよ! 何でこんなガキがBランクである【ボスゴブリン】を倒せるんだよ!」


 フォルファーは夢でも見ているんだ! と喚き眠っているソフィアノスを指さす。

 この心境は分からないこともないシャリーとクレリアだが、治した傷と負傷したのを見る限り倒したのだろうし、ここまで来たことでそれなりに実力があることを理解している。


 だが、それを許さないのが常識という名の囲いだ。


 普通に考えればボス部屋にソフィアノスしかいないことが分かり、ソフィアノスが倒したと理解できる。

 それを常識が許さないのだ。


「どうしてだ! 俺達でも油断していると殺されるんだぞ! 絶対何かの間違いだ!」


 喚き散らすフォルファーの肩にアレッグが手を置き、首を振った。


「誰が倒したというのだ。この子しかありえないだろう。それにこの子のやったことを見てきたはずだ。燃えていたところを見ると魔法を使って倒したのだろう。しかも右腕が焦げていたということは恐らく手でも突っ込んで思いっ切り爆発させたのかもしれん」


 アレッグがそういうと三人は息を飲んで観察する。

 明らかに避けまくり穴だらけになった大地に微かにだが足掻いた跡が見え、此処まで来るのに聞いた絶叫と爆発音に納得する。


「確かにあれだけの爆発音がすれば分かる。あの威力があれば倒せるはず」


 魔法職のクレリアが言うのだから間違いないだろう。


「それに回復させてわかりましたが気力の方も命を削って使っています。調べたところ大丈夫なようでしたが」


 それにホッとする三人だが、それでも倒したことに納得がいかない。

 まだ死体だった男性が倒していたほうが納得できるのだ。

 七歳児だと思っていたが実際はもっと幼く、武器らしい武器も、装備らしい装備もしていないのだから尚更だ。


「……仕方ない。一度帰ってマスターの指示を仰ぐ」


 フォルファーはそう皆に指示を出し、アレッグがソフィアノスを担ぐと四人で移動し、奥の壁にあった古めかしい装置の宝玉に手を置くと魔方陣が現れ、輝き出すと目が眩むほどの光量を発し消えていった。




「――以上が俺達が見た迷宮での出来事だ」


 フォルファーが少しぶしつけに報告するとギルドマスター――ロードスは難しい顔で三人の顔を見ている。

 直に見ていないロードスは三人が報告したことを信じられず、真実かどうか測りかねているのだ。


 と、そこへソフィアノスから事情聴衆を聞き取り終えたシャリーが帰って来た。


「どうだった?」


 すぐにクレリアが心配そうに訊ねた。

 それに対してシャリーは優しく笑って答える。


「大丈夫ですよ。先ほど目を覚ましまた眠りに就きました。相当疲れているのでしょう」

「そう」


 クレリアはそう呟くと息を吐いてロードスの方を向く。

 ロードスは看病に行ったシャリーに聞く。


「事情は聞けたか?」

「はい。彼の名前はソフィアノス。どうやら迷宮で目が覚め、それ以前のことは覚えていないようです。何かしらのショックでも起きたのでしょう」


 ソフィアノスが考えた通り記憶喪失だと思ってくれたようだ。


 冒険者をしていればショックで記憶がなくなることなど日常茶飯事なのだ。

 だが、ほとんどのことをなくすとなると少し話は変わってくる。

 だが、相手が五歳児となると分からないこともない。


 この場にいる者は皆魔物の襲撃などを想像しただろう。



「あと、彼はなくなった冒険者の剣を見つけそれで魔物を倒したそうです。下へ向かったのは階段を見つけそちらに向かえばいいと考えたからのようです。ボスはどうやら【ボスゴブリン】で間違いないようです。大きく、太っていたと言っていました」


 再び沈黙が流れる。

 いろいろと拙いのだ。

 子供が出来て二か月ほどしか経っていない迷宮にいたこと、その子に記憶がないから確かめられないこと、子供が踏破した迷宮であること、ソフィアノスが自身よりも遥かに強いであろう【ボスゴブリン】に打ち勝ったこと、しかも未熟な装備で。

 幸い奴隷じゃないのが救いだろう。


 子供が踏破したことがばれれば多くの新人冒険者が向かうだろう。

 確かにその迷宮は三層しかなく、誰でも倒せる。

 だが、それが冒険者でもなく十歳にもなっていない子供が踏破したとなると話が全く違うのだ。

 恐らく、迷宮を侮る者やソフィアノスにちょっかいを掛ける者等いろいろと出てくるはずだ。


 今回の件はまだ目撃者が少なく、向かわせたのがA級パーティーのフォルファーたちで良かっただろう。


 またソフィアノスが奴隷でなかったのが幸いしたのは、奴隷であった場合主人が死ねば自由に離れるが、誰かに見つかった場合キーワードを言うことで再度奴隷にすることが出来るのだ。

 しかも首輪を外すには金貨五〇枚かかる。


 だから、幸いしたのだ。

 折角助けても奴隷に落ちたのでは意味がなく、もしこの歳で迷宮を踏破し、【ボスゴブリン】を倒せる実力持ちならばぜひとも冒険者ギルドで囲んでおきたい存在だ。

 だが、金貨五〇枚の出費は結構大きい。


「……他に何か言っていたか?」


 ロードスが口を開き訊ねる。

 だが、シャリーは首をふてその前に眠ったことを伝えた。


「わかるのは服装から高貴な出ではなく平民、肌と髪の色からこの辺りの子ではない。実力は申し分ないが見ていないのでわからず、魔法と気力を使うことが出来る。威力はD級冒険者並だが、本気でやればお前達に勝るかもしれない」


 報告書を読み上げるかのように今回の報告を整えて言うロードス。

 四人はそれに頷き、補足を伝える。


「目の色は赤。珍しくありません。後肌は異様に白いので北の生まれではないかと」

「全ての魔物を倒して進んだ可能性もある。第三階層では【ゴブリンの腰布】が大量に放置されていた」

「少なくとも一カ月はあの場で生活していただろう。第一階層で生活していたと思われる穴倉を発見した」


 アレッグがそういうとシャリーが声を上げて補足説明をする。


「確かに生活しているということを言っていました。なんでも【スライム】が落とした食べ物を食べて過ごしていた、と」


 それを聞いてこの場にいた全員が驚く。

 確かに【スライムの体液】は食用だ。

 だがあれは加工しなければ食べられないはずなのだ。

 通常の人間が食べると中に菌が多く入っており、体の調子を崩してしまうのだ。

 その菌は熱に弱く、加熱することで美味しさも増すのだ。


「た、体調はどうだった!?」

「いえ、特に何も言っていなかったです」

「そ、そうか……」


 不思議な空気が流れる。


「あ、あと、あいつのポケットにカードが入ってたぜ」


 フォルファーはソフィアノスのポケットから取り出したカードをロードスに手渡した。

 ロードスはそれを特殊な機械に通し確かめると唸るような声を出した。


「むむぅ、こいつは……」

「マスター? もしかして登録者ですか?」

「いや、知っている通りギルドは何があっても一〇歳以上でしか登録させん。このカードは半年前に登録したグロウリー・バウナーの物だ」


 グロウリー・バウナーはこの街の領主の息子で、やんちゃ過ぎ、騒ぎ過ぎたので勘当され冒険者に身を落とした貴族だった。

 領主の爵位は伯爵。

 息子が二人、娘が一人いる。

 捜索願を出していたが最近は音沙汰もなくなり、打ち切りになっていたのだ。

 それを持っているということはあの死体がそうだということになる。


 四人は何とも言えない気持ちになり浄化魔法を使ったことを伝えた。

 ロードスは分かったと答え後日伝えに行くつもりだ。

 悲しむだろうが、すでに覚悟をしているだろうから仕方ないだろう。


「それでいろいろと確かめたのだろうな。【薬草】が採り尽されていたのはカードがあったからだろう」


 本人は便利な道具程度にしか思っていないこのカードはギルドカードと呼ばれ、どこの国でも使える身分証なのだ。

 効力は自動車免許に匹敵する。


「わかった。後のことは俺が処理する。お前達は絶対に口外するな。ソフィアノスという子が目を覚ましたら事情を説明し、お前達が【ボスゴブリン】を倒したことにする」


 ソフィアノスには気の毒だと思うが、本人の性格からして少しも残念に思わないだろう。

 魔石と剣が取られれば別だろうが……。


魔法は基本英語でいきますね。

武器の名前とドロップアイテム、魔物等の名前を募集します。

武器は低級から上級まで何でもお願いしたいです。

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