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未来から吹いた風2 《軍人転生編》  作者: 青雲あゆむ
第4章 太平洋戦争編

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幕間: 潜水空母、パナマ沖に奮戦す

 私の名は栢原かやはら 保親やすちか

 海軍中佐であり、今は伊500潜の艦長を務めている。


 この伊500型潜水艦とは、我が帝国海軍が生み出した”潜水空母”である。

 その内に2機の攻撃機を搭載し、目標近くで浮上すると、その矢を撃ち放つのだ。

 従来では考えもつかなかったような、すばらしい艦である。


 まさか空母が海中に潜るとはな。

 すでに伊400型という、飛行爆弾を運用する潜水艦があるので、全く不可能というわけでもない。

 しかし有人の飛行機まで運用するとは、我が大日本帝国の技術力には、驚くばかりだ。


 そしてその運用方法を聞くと、たしかに有用である。

 それは敵の警戒が厳しい要地まで、潜水艦で攻撃機を運び、その鼻先で発進させるのだ。

 飛行爆弾のように撃ちっ放しというわけでなく、確実に当てるべき目標であれば、有人でなければならぬ。


 そしてその最有力候補こそが、パナマ運河だ。

 それはアメリカの東海岸と西海岸をつなぐ、海上輸送の近道であり、アメリカ艦艇の通路でもある。

 もしもこれを破壊できれば、その影響はとんでもないものになるだろう。

 もっとも、アメリカはそれを半年から1年で直すというのだから、これまたとんでもない話であるが。


 いずれにしろ我らは伊500潜の就役後、パナマ運河の攻撃を想定して、訓練を積み重ねた。

 おかげでなんとか手応えを感じつつある頃、とうとう攻撃の命が下ったのだ。


「いよいよ出港か。長い旅になるな、先任」

「ええ、しかしやりがいのある仕事です。なんてったって、パナマ運河を破壊するんですからね」

「しかし命がけだぞ。生きて戻れんかもしれん」

「そんなことは今さらですよ。さあ、行きましょう」

「ああ、出港だ」


 こうして俺たちは、ミッドウェー島の基地を出港した。


 その後、途中で母艦とも別れ、我々はひたすらパナマ運河を目指す。

 昼は主にシュノーケルを出して潜行し、夜は浮上航行だ。


「しかしこのシュノーケルというのは、便利なものですなぁ。潜行していてもエンジンを回せるし、空気も濁りにくい」

「ああ、そうだな。おまけに冷房も効いてるし、昔では考えられん快適さだ」

「昔は蒸し暑くて、往生しましたからなぁ」

「ああ、眠ってる時に、汗が耳に入った時の気持ち悪さときたら、ひどいもんだった」

「ハハハ、そんなこともありましたなぁ」


 そんな話を笑ってできるほど、余裕があった。

 なにしろこの伊500型潜水艦は、乗員の居住性向上に、大きな努力を払っているのだ。

 冷房は効いているし、食料の備蓄量も豊富。

 トイレだって水中で使えるし、何より空間が広くていい。


 さらに艦の静粛性は高いし、聴音機や電探、逆探も高性能だ。

 おかげで敵に見つかりにくいから、航海も順調である。

 まさかこれほど上手くいくとはな。


 そんな航海を半月ちょっと続けると、ようやくパナマ近海にたどりついた。


「艦長、もうじき目標地点です」

「よし、潜望鏡深度へ浮上。到達後、潜望鏡とアンテナを展開だ」

「了解。潜望鏡深度へ浮上~」


 やがて潜望鏡深度に到達すると、各種機器を海上に出して、安全を確認した。


「逆探、電探ともに感なし」

「よし、周囲に艦影もなしっと。海面に浮上するぞ。”晴嵐”の発進を準備せよ」

「海面に浮上~。”晴嵐”発進準備~」


 そのまま海面まで浮上すると、航海艦橋に上がって周囲を警戒する。

 やがて水密格納筒の扉が開かれ、晴嵐が引き出されてきた。


「エンジン始動!」

「エンジンしど~う」


 すかさず搭乗員が乗りこんで、エンジンに火を入れると、快調に回り出す。

 これもあらかじめ艦内で油と水を温めて、エンジンに循環させていたおかげだ。


「主翼展開!」

「主翼てんか~い」


 折りたたまれていた主翼を、作業員が広げて固定する。

 これでもう、発進準備は完了だ。


「発進準備、完了!」

「よ~し、カタパルトよ~い……発進っ!」


 晴嵐のエンジンがうなりを上げると同時に、油圧カタパルトが作動し、見事に晴嵐が飛び立った。

 そのままグングンと高度を上げていき、旋回飛行に入る。


 すぐに2号機が引き出されてきて、同じ作業が繰り返される。

 ほんの数分で2機の晴嵐を打ち上げると、彼らは編隊を組んで、パナマ運河へと向かっていった。

 作業員が帽子を振りながら、それを見送っている。


「みんな、よくやった。潜行するぞ」

「はっ、潜行準備~!」


 慌ただしく艦内に引っこむと、ただちに潜行する。

 深度30mに達すると、我々は晴嵐の回収地点へと向かった。

 がんばれよ、晴嵐隊。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「機長、ミラ・フローレス閘門こうもんが見えてきました」

「よし、爆弾倉を開け」

「爆弾倉、開きます」


 晴嵐の腹が開いて、800kg爆弾の投下準備が完了する。

 俺は晴嵐を閘門への爆撃コースに乗せた。


「機長、少し右へ。もうちょい。ヨーソロー」


 後席の爆撃手の指示に従い、俺は晴嵐を操作する。

 やがて閘門が目の前に迫る寸前。


「爆撃よ~い~、てっ!」


 爆撃手の掛け声と共に、機体がフワリと浮き上がる。

 すかさず操縦桿を操って、晴嵐を離脱コースへ乗せた。

 やがて爆撃手が、大きな声を上げる。


「やりましたっ、機長! 目標に命中です!」

「ああ、良くやった。これで胸を張って帰れるな」

「はい、無事に帰れれば、ですが」

「そこは任せとけよ。飛ばすぞ」

「はい」


 俺は針路を海側へ向けると、フルスロットルを掛けた。

 なにしろこの晴嵐は、最高で時速560キロも出るシロモノだ。

 重たい爆弾を降ろした今なら、下手な戦闘機に追いつかれることはないだろう。


 その後、幸いにも大した追撃も受けず、母艦との会合地点へ向かう。

 そろそろ会合地点かと思って速度を落とすと、後ろから声が掛かった。


「機長、母艦の電波を捉えました。このまま進んでください」

「了解、よろしく頼むぞ」


 爆撃手の案内で進むと、やがて航跡が見えてきた。

 母艦がシュノーケルを出して、潜行しているのだ。

 やがてこちらの連絡を受けた母艦が、浮上してきた。


「よ~し、不時着するぞ。衝撃に備えろよ」

「はい、お手柔らかに頼みます」

「何回も練習してるから、大丈夫さ」


 俺は練習したとおりに、海面への不時着を実行した。

 無事に着水すると、すぐに母艦が近寄ってくる。

 そして近くまで来ると、縄つきの浮き輪を放ってくれた。

 そんな作業員に、俺は訊ねる。


「機体を回収する時間はあるのか?」

「いや、破棄しろとの命令だ」

「そうか……短い間だったが、世話になったな」


 俺はそう言いながら、自沈装置のレバーを引く。

 すると機体内の浮袋が破れ、早くも機体が沈みはじめた。

 俺と爆撃手はそんな晴嵐に別れを告げつつ、母艦に帰還したのだ。


 なんともぜいたくな作戦だったが、俺たちはそれを成功させた。

 その価値は十分にあったと、思いたいものである。

栢原保親中佐(最終、少将)も有名な潜水艦長ですね。

9隻の商船を沈めた伊10潜の艦長として活躍しました。

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