幕間: 日本領土を攻撃せよ
私の名はヘンリー・アーノルド。
アメリカ陸軍航空軍の司令官だ。
なにやら怪しい理由で、我が国は日本と戦争をすることになった。
それに対し、我が航空軍は当面、フィリピンやグアムから爆撃をするものと思っていた。
しかしその攻撃はあっさりとはね返され、両基地を失陥してしまう。
おまけに太平洋艦隊が大敗北を喫すると、大統領がとんでもないことを言いだした。
アリューシャン列島から、日本の首都を爆撃しろと言うのだ。
優に2千マイル(約3200キロ)以上あるのに、どうやってやれというのだ。
私は腹心の部下と共に、爆撃案を検討する。
「アッツ島からトーキョーでは、2千マイル以上ある。これではどんな爆撃機を使っても、片道飛行になってしまうぞ。私は兵士にそんなことは、命令できない」
「そうですね。B17では片道すら届きませんし、YB24(B24の増加試作機)でも往復は不可能です。いっそのこと、トーキョーは諦めては?」
「トーキョーでなければ、どこを爆撃するのだね?」
「ここです。このエトロフ島なら、アッツから1200マイル程度です。爆弾を減らせば、YB24で帰還できるかもしれません」
「う~む、日本の最果てで、しかも爆弾を減らすとなれば、ほとんど被害など与えられないだろう?」
「それでもいいのです。聞けば日本の家屋は、木と紙でできているそうじゃないですか。焼夷弾をばら撒けば、それなりの効果は得られますよ」
私は部下の提案にうなずきつつも、別の案が閃いた。
「なるほど……いや、待てよ。少量の焼夷弾であれば、飛行艇でもいいのではないか? たしか海軍には、PB2Yコロネドがあったはずだ。あれなら飛行場も要らないし、海上で燃料補給できる」
「ああ、それはいいですね。手っ取り早く成果を求めるなら、そちらの方がいいかもしれません」
「よし、YB24とPB2Yの両方で、爆撃案を作成して、大統領に判断してもらおう」
「はい」
その後、2つの案を作り、大統領に提案してみた。
「これらの状況から、我々はこの2つの爆撃案を提案いたします」
「むう、アッツ島から爆撃機を発進させるか、飛行艇を使うか、か。しかし飛行艇では、大した攻撃はできないだろう?」
「それはそうなのですが、YB24は8機しかありませんし、往復のためには爆弾を減らさざるを得ません。結果的には、むしろPB2Yの方が落とせる爆弾は多くなります」
「そういうことか……ならばPB2Yで、トーキョーを空襲できんかね?」
やはりそう来たか。
しかしそれはあまりにも危険だ。
「さすがに首都を狙うとなりますと、強い反撃を受ける可能性が高いと思われます。先のマリアナ沖海戦の結果から見て、日本の迎撃能力を侮るべきではないかと」
「しかし一度でも爆撃をすれば、次からはさらに警戒が厳しくなるぞ」
「現状では戦力も時間も足りません。ここは高い目標を追うのではなく、確実な成果を求めるべきでしょう」
「ふむ……そうだな。PB2Yでエトロフを爆撃する計画を、進めてくれ」
「は、了解いたしました」
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俺の名はマイク・スミス。
アメリカ海軍の飛行艇乗りだ。
そして今、俺はPB2Y飛行艇に乗り、日本へ向かっている。
エトロフとかいう島を、爆撃するためだ。
ジャップの野郎ども、小癪にも我らが太平洋艦隊を、ボコボコにしてくれやがった。
その報復として、日本固有の領土を爆撃して、俺たちの抗戦意思を示してやるのだ。
聞けば日本の家屋は、木と紙でできてるから、よく燃えるらしい。
だから積める限りの焼夷弾を、積んできてやったぜ。
ちなみに我らがPB2Yは、こんな飛行艇だ。
【PB2Y コロネド】
長さx幅:24.2x35.1m
自重 :19トン
エンジン:P&Wツインワスプ 空冷星型14気筒x4
出力 :1200馬力x4
最大速度:毎時360キロ
航続距離:3717km
武装 :12.7ミリ機銃x8
450kg爆弾x12
乗員 :10名
どうだ、凄い性能だろ?
これがあればジャップの領土を、多少は焼き払ってやれるって寸法だ。
ククク、今に見てろよ。
俺たちは20機で編隊を組んで、北太平洋を西進していた。
そろそろエトロフが見えてこようかという頃、見張り兵から警報がもたらされる。
「2時上空に敵機! 速いです」
「なんだと! なんで上につかれてんだよ?」
「おそらく日本のレーダーに、引っかかったんでしょう」
「馬鹿な! イエローモンキーがそんなもん、持ってるはずがねえ!」
「敵、来ます!」
「うわ~~っ!」
その後は悲惨だった。
味方以上の数の戦闘機に襲いかかられ、バタバタと味方機が落ちていく。
俺は早々に爆弾を捨て、回避行動に移ったのだが、やはり甘くはなかった。
「右側エンジン停止。左も時間の問題です。ぐあっ!」
「ぐふっ……マ、マジかよ。こんなとこで、死ぬなんて……」




