42.次なる一手
昭和15年(1940年)4月初旬 東京 先端技術研究所
「よう、みんな。元気そうだな」
「そりゃあ、参謀総長や軍令部総長ほど、忙しくないからね」
「せや。俺らにも詳しい話、聞かせてくれや」
「そうそう、今後の改良に活かさないとな」
しばし太平洋が静かになっている中、俺たちは久しぶりに集まっていた。
それも軍機に関われない後島、中島、佐島の、たっての要望によるものだ。
俺と川島が座る間もなく、後島が情報をねだる。
「それで、アメリカ海軍の様子は、どうなんだ?」
「ああ、戦艦部隊はすっかり真珠湾に引きこもってる。そこにワスプが合流して、しきりに戦闘機を運んでるようだな」
「へえ、史実だとまだ就役してなかったよな。工事を急いだってとこか」
「ああ、2年近く戦争が早まってるからな。建造中のやつは、軒並み早めたんだろうよ」
史実で空母ワスプは、40年4月下旬に竣工している。
それが実働しているということは、訓練も含めて数ヶ月は早まっているのだろう。
「だよな。おまけにマリアナ沖海戦で、アメリカも空母の威力を思い知ったはずだ。今後はしゃかりきになって、空母を建造するんじゃないか?」
「俺もその可能性は高いと思う。しかしいくらアメリカでも、正規空母の建造に2年は掛かるだろう。その間にどれだけアメリカを叩けるかが、鍵になってくるだろうな。まあ、今年中にホーネットを竣工させるぐらいは、やるかもしれんが」
ヨークタウン級空母の3番艦であるホーネットは、史実で41年10月に竣工しているが、これもいくらかは早まっているだろう。
下手をすると年内に戦力化される可能性は、あると見ていた。
「それならエセックス級空母も、早まってるんじゃない?」
「いや、さすがにまだ発注もされてないからな。これから急いで造るはずだ。まあ、史実では最短15ヶ月くらいで竣工させてるから、油断はできないけどな」
「本当にとんでもないよね」
太平洋戦争後期に大活躍したエセックス級空母は、合計で24隻も造られ、その工期は2年を大きく切っている。
馬鹿げたほどの、アメリカの工業力を感じさせる話だ。
しかしさしものアメリカも、当面はワスプしか、使える正規空母はないのが実情だ。
「当面はワスプだけなら、ドゥーリットル爆撃隊はないか?」
「ああ、ワスプ自体、それほど大きくないからな。重爆なんて載らないだろう。ま、仮に来たとしても、返り討ちにしてやるけどな」
「それは頼もしいね」
史実ではアメリカの戦意を誇示するため、2隻の空母にB25爆撃機を載せ、日本本土を爆撃している。
これが有名なドゥーリットル爆撃隊で、被害はそれほどでなかったものの、帝都への爆撃を許したことが問題視された。
その焦りが後のミッドウェー海戦を招き、4空母喪失につながったことを考えると、その影響は馬鹿にできない。
しかし仮にアメリカ軍がそのようなことをやっても、警戒網や迎撃態勢を整えているため、むざむざと爆撃など許しはしない。
むしろやってくれた方が、アメリカに打撃を与えられるので、助かると思ってるぐらいだ。
「そうすると、いよいよハワイ攻撃か」
「ああ、補給と休養を済ませた艦隊が、ミッドウェーに集結中だ」
「でも今回は、アメリカの新鋭戦艦は生き残ってるんだよね? 前世とは違うよ」
「そこはそれ、やりようはあるさ。大和や天鶴も、加わるしな」
連合艦隊には大和、武蔵と共に、空母の天鶴、仙鶴も加わることで、格段に戦力が増している。
「でも、史実のような奇襲はできないでしょ? ハワイには今、山のように航空機が集められているんじゃないかな」
「ああ、正三の言うとおりだ。ハワイには続々と、P34やP40、F4Fなんかが集まっている。当然、爆撃機もな」
「そんなんじゃあ、無力化は大変なんじゃない? 下手をすると、連合艦隊が大打撃を受けるかもしれないよ」
「かもな」
中島の指摘に、俺と川島がニヤニヤしていると、佐島がキレた。
「こらっ、もったいぶっとらんで、はよ教え~や!」
「ハハハ、まあまあ、一応、軍事機密なんだぞ」
「俺らの間で、そんなもん関係あらへんやろ」
「まあ、そうなんだけどな」
ここで一拍おくと、みんなが体を乗り出した。
そんな彼らのために、俺は作戦の一部を明かす。
「潜水母艦を改造した空母をおとりにして、敵艦隊を釣り出すつもりだ」
「えっ、そんなの造ってたの?」
「あぁ、祥鳳型空母か」
「何、それ?」
史実でもやっていたことだが、日本は剣埼、高崎、大鯨という潜水母艦を持っていた。
これはワシントン条約で空母の保有が制限される中、いざという時に短期間(3ヶ月)で空母に改造できる母体を準備したわけだ。
現実には機関の換装などもあって、改造に1年以上かかってしまうのだが、これによって日本は祥鳳、瑞鳳、龍鳳の3空母を得た。
この世界でも日本は同様のことをやり、祥鳳型空母3隻を特急で仕立てたわけだ。
ちなみに機関は最初から蒸気タービンだったので、3ヶ月で改装は完了している。
【祥鳳】
全長x全幅:210x20m
基準排水量:1万4千トン
出力 :6万馬力
最大速力 :28ノット
機関 :ロ号艦本式専焼缶x4基
艦本式高低圧ギヤードタービンx2基、2軸
搭載機数 :50機
主要兵装 :38口径5インチ(12.7センチ)連装高角砲x4基
25ミリ機銃x40
それは鳳翔より少し小型だが、ほぼ同等の能力を持っている。
そして我が帝国海軍は、この鳳翔、祥鳳、瑞鳳、龍鳳の4隻を、おとりに用いることにした。
これらに戦艦4隻と巡洋艦を付け、偽の主力艦隊を編成するのだ。
さらに蒼龍型、翔鶴型の空母6隻に、他の戦艦6隻、そして多数の補助艦艇で、真の主力艦隊を編成する。
そしておとりで敵艦隊を釣りだしたところで、それを叩こうと考えていた。
それが成功すれば、アメリカに与える精神的衝撃は大きく、またハワイも無力化できるだろう。
ただしそれも相手の動き次第である。
はたしてアメリカ海軍は、この手に引っかかるだろうか。




