幕間: 流星攻撃隊、奮戦す
俺の名は田中正治。
しがない海軍の艦攻乗りだ。
5年ほど前に海軍に入隊して、そろそろ除隊しようかと思ってたら、その前に戦争が起こっちまった。
なんと超大国のアメリカが、日本に因縁をつけてきたってんだ。
奴らは日本の海防艦を沈めたうえで、こっちに責任をなすりつけてきたらしい。
なんてひでえ話だ。
もちろんそんなことをされて、日本も黙ってるわけがない。
毅然とアメリカを非難して、戦争準備に入った。
戦争なんてやりたくはないが、受け身に回るだけじゃあ、やられちまうからな。
幸いにもマリアナや台湾では、敵の攻撃を払いのけたらしい。
そしていよいよ艦隊決戦だってんで、俺たちも出動だ。
俺は空母翔鶴の攻撃隊員として、マリアナ近海へ乗り出した。
やがて敵艦隊が発見され、俺たちに発進命令が下る。
「我々はこれから、敵艦隊の攻撃に発進する。敵は大国のアメリカだが、それほど心配することはない。我が国の航空機は、決して奴らには劣っていないからな。敵艦のどてっぱらに、爆弾や魚雷をぶち込んでやれ。それから万一、撃墜されても、簡単に諦めないようにな。お前らの訓練には、莫大な時間と金が掛かっとるんだ。なるべく助けに行くから、生き残る努力をするように。それでは解散」
「「「はっ!」」」
俺たちはすぐさま、99式艦上攻撃機 流星に乗りこんだ。
この流星は、爆撃も雷撃もできる万能機で、速度性能も戦闘機並みなんだぜ。
こんな機体は欧米でも実現してないっていうから、日本の技術力は大したもんだ。
俺がやったことじゃないけど、なんか誇らしい。
おまけに今、俺たちが抱えてる99式航空魚雷が、これまた凄い。
すばらしい高速性能と航続距離だけでなく、敵艦に向かっていく誘導機能まであるんだぜ。
魚雷ってのは従来、敵艦から2千メートル以内、必中を狙うなら千メートルまで近づいて撃つもんだった。
それが3千メートル以内でいいっていうんだから、夢のような話だ。
おかげで敵の対空砲火にやられる恐れが、激減したんだからな。
この魚雷を開発したヤツになら、俺の姉さんを嫁にやってもいいぐらいだ。
まあ、あんな姉貴でよければ、だがな。
やがて攻撃隊の発進が始まり、俺たちも空に飛び立った。
部隊が全て上がると、俺たちは編隊を組んで、先導役の彩雲についていく。
彩雲には電探っていう機械が付いていて、敵艦まで的確に導いてくれるんだぜ。
おかげで俺たちは空振りになったり、迷子になったりする可能性が減って、万々歳だ。
それにこの機体にも、高性能な無線機が付いてるから、意思の疎通がしやすくて助かる。
流星、サイコー。
しばらく飛んでいると、やがて敵艦隊が見えてきた。
すでに敵の戦闘機は駆逐され、制空権は確保されてるみたいだ。
さすがは97艦戦だな。
さらに俺たちより先行していた攻撃隊が、敵輪形陣に穴を開けている。
それを見て取った隊長機から、攻撃指示が下された。
よし、俺たちの獲物は、空母だな。
俺は高度を下げて、輪形陣の穴に針路を取った。
そしてグングン標的に近づくと、やがて雷撃距離に到達した手応えを感じる。
「投下よう~い、テッ!」
魚雷を投下した途端、フワリと機体が浮き上がるのが分かった。
同時に右に操縦桿を切って、戦場からの離脱を図る。
「魚雷は無事に着水しました」
「了解。当たるといいがな」
「99式魚雷なら大丈夫でしょう」
後席の山田隊員が、魚雷の状況を教えてくれる。
やがて戦場を抜け出して、上空で待機していると、後席から嬉しそうな声が上がった。
「やった! 空母の後部に水柱が上がってます。たぶんウチのですよ」
「そうか。それは良かった」
「お見事でした」
どうやらちゃんと仕事は、果たせたようだな。
これで胸を張って帰れる。
その後もチラチラ海上を見ていると、何度も水柱や爆炎が上がるのが見て取れた。
すでにほとんどの空母は足が止まり、息も絶え絶えな感じである。
やがて翔鶴攻撃隊が集合すると、無線で帰投命令が伝えられる。
俺たちは再び彩雲に導かれて、母艦への帰路についた。
すると山田隊員が、上機嫌で話しかけてくる。
「やりましたね、機長。これでアメリカの空母は、壊滅状態ですよ」
「ああ、そうだな。だけど敵の攻撃隊も、日本艦隊に向かったんだろ? 帰ったら同じ目にあってるかもしれないぜ」
「ん~、たぶん、大丈夫じゃないですかね。俺のダチが防空班にいるんですけど、なんか凄いらしいですよ。我が軍の対空射撃は」
「へ~、そうなのか? まあ、直掩の戦闘機もいるし、なんとかなるのかな。無傷とは言わないまでも、なんとか着艦できればいいな」
「そうですね」
そんな話ができるほど、俺たちの気分は軽かった。
そのまま迷いもせずに、艦隊を見つけたが、煙のひと筋も上がっていない。
どうやら本当に無傷で切り抜けたらしい。
無事に着艦して、敵の攻撃について聞くと、被害はほとんど無かったという。
さすがにアメリカ人にも根性のあるヤツがいて、至近弾は食らったらしいが、それだけだと。
我が艦隊の対空砲火は、本当に凄いらしいな。
う~ん、これならアメリカにも、負けないですむのかな。




