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懐かしの我が家。

 メリークリスマス、僕は仕事をしていますが。

 昼更新しておきます。

オルドネス公に促されて門をくぐると、がらんとした部屋にでた。

 オフィスの跡地のような何もない殺風景な部屋の真ん中には魔法陣が描かれていて、小さめの窓にはカーテンが引かれている。

 遠くから車のクラクションとか音楽が聞こえてきた。


 カーテンをめくると、夕暮れ時の懐かしいような見慣れたような渋谷の景色が目に飛び込んできた。

 今一つ実感が無いけど、本当に戻ってきたらしい。


「この部屋は何?」

「借りたんだよ」


 こともなげにオルドネス公が言う。

 でも戸籍も身分証明もないはずなのに、どうやって?


「この世界のお金はいくらでもあったからね、ほら」


 疑問を察したように、オルドネス公が財布から札束を見せてくれた。

 そういえば、確かに渋谷とかの店を探せばお札はどれだけでも見つかる。とは言っても向こうではお金としては機能しないから意味はないんだけど。


 コインは状態が良い奇麗なものが好事家に引き取られてるらしい。

 お札は今一つ使い道が無くて、試験的に探索者ギルドの割符の代わりに使われている程度だ。

 確かに余ってるだろうな。


「お金があれば、多少の無理は通る。それはここでもガルフブルグでも変わらないみたいだね」


 そういってオルドネス公が部屋を出ていく。

 廊下にも誰もいなくて、並んだドアにも明かりはついていないし、人の気配もない。

 どうやらビルの一フロアを借り切っているらしい。


 慣れた様子でドアに鍵をかけると、オルドネス公がエレベーターに乗り込んで手招きする。

 セリエが恐る恐るって感じでエレベーターの乗りこんできた。


 ビルから出るとひんやりした冬の空気がして、沢山の音が耳に飛び込んできた。

 歩行者信号のチャイム、車のエンジン音とパトカーか何かのサイレン、音楽と何処かのドラッグストアのCMソング。

 ビルの前の細い路地は何度か通った覚えがある……といっても異世界側の話だけど。


 路地から表通りに出ると沢山の人が行きかっていた。異世界側の渋谷も結構人は増えてきたけど、さすがにレベルが違うな。

 セリエがフードを抑えながらお上りさんよろしく周りを見回す。


 QFRONTビルの巨大ビジョンには奇麗なアナウンサーがニュースが読む姿が映っていた。

 クリスマスのイルミネーションがビルを飾っている。今はそういう時期らしい。向こうに居るとあんまりその辺が分からなくなるけど。

 高架の上を轟音を挙げて山手線が走っていって、セリエが驚いたように身を竦めた。


「信じられない世界ですね」


 暫く立ちすくんでいたセリエがしみじみと言う。

 なまじ全く同じ光景なだけに電気がついてきらびやかなのがすごく見えるのかもしれない。



 実家に行くのは2年ぶりくらいだろうか。

 そしてまともに電車に乗るのも2年ぶりくらいで、窓口とか色々と変わってはいたけど、やり方は覚えていた。


 セリエと二人分の切符を買っていると、オルドネス公がICカードをこれ見よがしにちらつかせながらさっさと改札をくぐっていった。

 ……異世界側の貴族より僕の方が遅れているのはなんとなく腹立つな。


 実家があるのは府中だ。井の頭線で明大前に出て本線に乗り換える。帰宅時間より早いせいか、京王線の中は其処まで混雑していなかった。 

 オルドネス公はなれているのか、電車の中でも落ち着き払っているけど、セリエが不安げに寄り添ってきた。


 大きめのベージュのロングコートのフードを目深にかぶって、これまた大きめのニットキャップをかぶって念入りに獣耳を隠している。

 外見的には人間と変わりないはずだけどチラチラ見られている気がして落ち着かない。


 何事もなく電車が着いて、府中駅を出た。

 前見た時と駅前の店がいくつも入れ替わっているけど、懐かしい我が町って感じだ。

 ごちゃごちゃした高架を歩いて居酒屋の呼び込みを無視して人通りが少ない路地に入るとようやく気分が落ち着いた。


 周りを興味深そうに見るセリエと、もうこういう景色は見慣れたって感じのオルドネス公を先導して駅から歩くこと15分ほど。

 住宅地の中に立つ実家の前に滞りなく着いた。


 着いたというか……着いてしまった、という感じだけど。

 風戸の表札が昔と変わらず玄関にはめ込まれている。ここまで来たらもう引っ込みはつかないか。


 何度か深呼吸してインターホンを押す。

 電子音が鳴って、気が遠くなるほど長く感じた間があって、ドアの向こうから足音が聞こえる。

 ドアが開いて顔を出したのは父さんだった。



 最後にあった時とあまり変わりがない父さんが僕をしばらく見つめた。

 驚いたり怒られたりするのかと思ったけど、そんな様子はない。


「あー、父さん、僕は……」

「澄人か。ようやく帰ってきたな。うん、良かったよ」


 父さんがあんまり驚いてないって顔で言う


「本当に生きていたのか……そっちはお客さんか?」

「まあ、そうだけど」


「じゃあ上がってもらえ。母さん、澄人が帰ってきたよ」


 そう言って父さんが家に上がっていく。まるで旅行から帰ってきたときのような、拍子抜けするほどあっさりした反応だ。

 オルドネス公とセリエに目配せする。

 セリエは恐る恐るって感じだけど、オルドネス公は手慣れた感じで靴を脱いで家に上がった。


 奥の居間からテレビの音が聞こえてくる。

 あまりにも前と変わっていなさ過ぎて、僕の方がおかしくなったのかと思いかけたけど……後ろを振り向くとセリエたちがいるんだから、現実だよな。


 居間に入ると、母さんがお茶を入れて待っていてくれた


「お帰り、澄人」



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