23.意外な動機と日本への帰還(1)
謁見終了後のことを、シオンはよく覚えていない。
うっすらと覚えているのは、眠くて眠くて仕方がなかったこと。
フラフラと歩いていたら、アリスに、「シオン寝ながら歩いてる」と、指摘されたこと。
みんなに寝てこいと勧められ、ジャックスに抱えられるようにして、王宮の元自室に運ばれたこと。
そして、泥のように眠って気がつけば、3日後の夕方。
ほとんど飲み食いもせず、3日間寝ていたらしい。
その後、半分寝た状態で食事や入浴をして、再び爆睡。
翌朝、叩き起こされ、何が何だか分からないまま綺麗な服に着替えて、パレードと魔王討伐記念式典に参加。
総司令の挨拶を、気合と勢いで何とか乗り切った。
後に、辺境伯に、「あの挨拶、勢いがあって良かったぞ!」と、褒められ、シオンは苦笑いした。
日本にいた頃は、授業で当てられて答えるだけでも緊張していた。
しかし、今や数万人の前でも普通にしゃべれる。
慣れとは本当に恐ろしい。
そして、パーティが終わった後、再び爆睡。
寝ても寝ても疲れが取れず。
ようやくまともに起きだしたのは、パーティから4日後の昼過ぎであった。
初夏の雰囲気が漂い始めた窓の外を見ながら、シオンはボーっと思った。
思えば、こちらの世界に来て約1年。
寝る時も油断できず、ずっと気を張り詰めてきた。
全てが終わり、一気に緊張の糸が緩んだのかもしれない。
とりあえず入浴し、持ってきてもらったあまり美味しくない軽食をもそもそと食べるシオン。
そこに、シオンが起きたことを聞きつけた、ジャックス、ウィリアム、アリスの3人がやってきた。
3人は、シオンを見てホッとしたような顔をした。
「やっと目が覚めたか。もう一生目が覚めないかと心配したぜ」
「ん。つねっても起きないし」
「起きないのを心配して、王宮中が大騒ぎになってますよ」
シオンは頭を掻いた。
まさかそんな大げさな話になっていようとは。
なんかごめんな、と、謝った後、シオンが尋ねた。
「俺が寝ている間、何かあったか?」
「そうですね。まず、残っていた仕事は全てカルロス団長とゾフィア師団長、それに辺境伯をはじめとした貴族達が終わらせてくれました」
「……そっか。ありがたいな」
「それと、バクスター侯爵をはじめとするプレリウス教の処分が決まりました」
もう決まったのか、と、シオンが目を丸くした。
「……どうなったんだ?」
「まず、バクスター侯爵家は取り潰しになりました。
侯爵とエミールは、流刑。離島の鉱山で一生働くことになります。3親等以内の者も同様に島に送られる予定です」
ウィリアムの話では、叩いたら凄まじい量のホコリが出たらしい。
「シオン召喚の件の黒幕も彼等でしたし、脱税に不正。最後は国王の暗殺計画まで出て来ました」
「……今までよくバレなかったね」
「プレリウス教という隠れ蓑がありましたからね。それを取っ払ったら、実に酷いものでしたよ」
シオンは苦笑した。
なんか悪そうだったもんな、あのオッサン。
「プレリウス教はどうなったんだ?」
ジャックスが答えた。
「信者が多いから、さすがに取り潰しはできなくてな。上を全部挿げ替えて、しばらくは国の監視下に置くことになった。ため込んでた金も没収されたし、聖水とか浄化の商売も禁止された。
どんどん廃れていくだろうな」
シオンはホッとした。
あのインチキ商売がなくなって何よりだ。
アリスが口を開いた。
「あとは、シャーロット王女が自供した」
「え! あんなに頑なだったのに?!」
「ん。自供して一生塔に幽閉か、黙秘して侯爵と一緒に流刑か、の2択で迫られて、吐いたみたい」
1度口を割ったシャーロット王女は非常に饒舌だったらしい。
「聞いてもないことをペラペラ喋ったらしいぜ。俺達をミノタウルスに襲わせた理由は、自分達が魔王討伐したことにするため、だってさ」
「……は?」
シオンは呆気にとられた。
それは流石に無理があるだろう。
ジャックスが肩を竦めた。
「魔王がいなくなれば瘴気がなくなる、って話を逆手に取ろうとしたんだ。
魔道具によって生み出した瘴気にまみれたミノタウルスに街を襲わせて、魔王が生きているように見せかける。
その後、時間が経ってミノタウルスから瘴気が消えれば、たった今魔王が倒されたように見える、って訳だ」
「実際に討伐したメンバーをミノタウルスに殺させれば、死人に口なしですからね」
苦笑するウィリアム。
シオンは溜息をついた。
「……なんで、そんなことを」
「魔王討伐の手柄を立てれば、国王になれると信じていたようです」
「……プレリウス教は?」
「教会の方は、王女を国王にして、国の実質支配をしようと思っていたようです」
まあ、王女の方は、教会を支配して国を牛耳ろうとしていたみたいだから、どっちもどっちだけどな、と、笑うジャックス。
シオンは首を傾げた。
今回、シオンはとことん教会とシャーロット王女に対して反抗的だった。
シオンを殺そうとした理由も分かる。
――でも、なんで前回(1回目召喚)は殺されたんだ?
前回のシオンは、教会とシャーロット王女に完全に取り込まれ、忠犬化していた。
殺す理由が思い当たらない。
シオンが何を考えているのか察したのか、ウィリアムが苦笑いしながら言った。
「殺された原因は、恐らく国王陛下の失言だと思います」
「失言?」
「陛下が、シオンに王位を譲ってもいい、と漏らしたようなのです」
シオンは目を見開いた。
「え、それ、冗談だろ?」
「本当です。シオンが学園行きを決めた大貴族会議の前に、王女2人の前で漏らしたそうです。それを聞いて、教会とシャーロット王女はシオンを始末することに決めたそうです」
異世界人が神聖なる王位につくのが許せないと思ったみたいですね、と、苦笑するウィリアム。
シオンは呆気にとられた。
「え、じゃあ、前回俺が死んだのと、今回の殺されそうになったのは、その失言のせいってこと?」
「大変言いにくいのですが、そうなりますね」
「……それ、本当に『失言』なのか? わざと言ったんじゃないのか? あの人、そういうことをポロっと言う人じゃないだろ」
ジト目で、以前の彼からは想像もつかないほどまともな反応をする、元騙されやすい男シオン。
ジャックスが苦笑した。
「まあ、誰だってそう思うよな。俺も、シャーロット王女を介してプレリウス教を焚きつけるために言ったんじゃないか、って思ってる。これを切っ掛けに潰すつもりだったんじゃないか」
「ん。私もそう思う。多分プレリウス教狙いだった。――あと、国王陛下は相当性格が悪い」
淡々と言うアリスに、シオンは苦笑いしながら思った。
それについては、俺も激しく同意するよ、と。
2に続きます。
仕事が落ち着いてきたので、来週からペースアップできると思います。




