14.招かれざる客
シオンが辺境伯領に到着して、7日目。
ゾフィア率いる第2陣が到着した、翌日の朝。
領主館2階に設置された作戦会議室にて。
シオンが、ゾフィアにこれまでの経緯を説明していると、外から誰かが叫んでいる声が聞こえてきた。
怪訝に思って窓の外を見ると、そこに止まっていたのは、黒塗りの立派な馬車。
シオンは目を細めた。
――なんだか、すっごく嫌な予感がする。
ゾフィアと共に急いで下に降りてみると、そこには究極に機嫌の悪そうな辺境伯と、偉そうな顔をしたヒゲの神官が、睨み合うように立っていた。
2人を取り囲んでいるのは、殺伐とした雰囲気の辺境伯所属の騎士達と、白い鎧を着た教会騎士達。
シオンは暗い気分になった。
――出発前に、何度も「慰問禁止」って通知したのに、なんで来てるんだよ……。
シオンが近づいていくと、神官の男が偉そうな顔をして言った。
「貴殿が総司令官のタダ・シオン殿ですな。お初にお目にかかる。プレリウス教司祭のリヒテルと申す」
「タダ・シオンです。ご用件はなんでしょうか」
「これから聖女シャーロット様がこの地を訪れます。つきましては、歓待の準備をするように」
ゾフィアが、ボソッと呟いた。
「歓待の準備って、 王宮と同じクオリティの待遇を準備しろってことよね。勝手に押しかけておいて、よくそんなことが言えるわね~」
シオンは呆れ果てた。
辺境伯領は、魔王討伐準備や避難民の世話でてんてこまいだ。
館内の使用人も騎士達も、皆走り回っている。
この忙しい状況を目の当たりにして、よくもそんなことが言えるものだ。
神官の男が、偉そうに口ひげを引っ張った。
「私は教会の代理として来ております。私の言葉をお断りになるのであれば、教会が黙っておりませんぞ」
シオンの中に、沸々と怒りがこみあげてきた。
辺境伯領に着いてから、シオン達は寝る時間も惜しんで頑張ってきた。
人的・物理的被害を最小限に抑えようと、策を練り、みんなで協力して取り組んできた。
――それなのに、こいつらは自分のことしか考えてない。
――ふざけるなよ、この野郎!
シオンは、軽く息を吐くと、低い声で言った。
「お断りします」
神官の男が、目を剥いた。
「なっ! 今の話を聞いていたのか!」
「聞いていましたが、それが何か?」
「な、生意気な! きょ、教会を敵に回すつもりか?! この下賤な異世界人め!」
シオンは、カッとなった。
――下賤はお前だ、ふざけるな!
彼は使者の男を睨みつけながら、冷たい声で言った。
「私の仕事は、魔王討伐するために最善を尽くすことで、教会の機嫌を取ることじゃありません。そもそも訪問自体を禁止しているのに、なぜここにいるんですか?」
「き、貴様っ! どこの骨とも分からぬ平民の分際で! 平民は平民らしく大人しく我らに従え!」
口汚く罵る神官と、殺気立つ教会騎士達。
その瞬間。
シオンの中で、何かがブチッと切れる音がした。
怒りと共に、魔力が体内から漏れ出す。
「な、な……!!!」
「……ひ、ひぃぃぃ……!」
その圧倒的強者のオーラに、ガタガタと震えだす騎士達。
「た、た、助けてくれ!!!!」
ぺたんと尻もちをついて、怯え切って叫ぶ神官。
ゾフィアは、彼等の情けない様子を見て、クスリと笑うと、鋭く相手を睨みつけているシオンの肩を、ポンポン、と、叩いた。
「まあまあ~、総司令官。落ち着いてくださいな。来たいと言うなら来て頂けばいいじゃないですか。
ただし、こちらは王女の部屋を準備するだけ。食事も特別に用意しないし、騎士達の面倒を見なくていい。教会側は、こちらの許可なしに行動しないと約束する。
――これでいいですよね~、使者さん?」
「し、仕方あるまい。譲歩する!」
「じゃあ、その旨一筆書いて下さいな~。後から揉めると困りますので」
「し、しかし……」
「教会の代表なんでしょ~? サインくらいできますよね~?」
「わ、分かった!」
その旨記載された書類にサインをして、逃げるように去っていく使者たち。
その後ろ姿を見ながら、ゾフィアは大笑いした。
「面白かったわ~。ざまみろよね~」
辺境伯が苦笑いした。
「やれやれ、教会というのは本当にロクでもないですな。こちらの弱みに付け込むことしか考えていない」
「引き返して、その途中に怪我なんかしたら、それこそ全部こちらの責任になりますからね~」
「つくづく呆れた奴らだ」
シオンは、何度も深呼吸して心を落ち着けると、ハアッと溜息をついた。
怒りのあまり、我を忘れそうになってしまった。
ゾフィアが出てきてくれなかったら、何かとんでもないことをしてしまった気がする。
――怒るのはいいけど、我を忘れちゃ駄目だよな。
ほんのちょっぴりだけ反省するシオン。
そして、溜息をつきながら思った。
やっぱり来るのか、と。
――シャーロット王女と教会は、明らかに破滅フラグだ。
――本気で注意しないと絶対にヤバいことになる。
シオンは気合を入れ直した。
色々と気を付けることはある。
だが、まずは、兎にも角にも、前回(召喚1回目)のように現場を引っ掻き回されないようにせねば。
ここは総司令官である俺が頑張るしかない、と。
そして、この数時間後。
シャーロット王女一行が到着。
神官が作った契約書は無効だとか、王族に対して生意気だとか、王女の慰問が第一優先だ、とか、そんな感じでゴネまくったが、シオンの
「これは総司令の命令だ。従えないのであれば懲罰対象とする」
という、逆らえば実力行使も辞さない構えを見て、沈黙。
顔を引き攣らせたシャーロット王女とエミールは、領主館の離れにある客間へ。
護衛騎士達は、臨時テントに案内されていった。




