07.謁見と相談
王女との悪夢のお茶会から1週間後。
王宮の謁見の間にて。
シオンは、騎士団長カルロスと魔法師団長ゾフィアと共に跪いていた。
壇上にいるのは、立派な椅子に座っている国王と、その斜め後ろに立つ宰相であるラディシュ公爵。
横に並んでいるのは、大貴族会議のメンバーである有力貴族10名だ。
宰相の声が、高い天井に響き渡った。
「面を上げよ」
ゆっくりと顔を上げる3人。
宰相は軽く頷くと、声を張り上げて巻物のような紙を読み上げた。
「この度の遠征で、騎士団および魔法師団が、タダ・シオン殿と共に、領民を苦しめる魔獣を討伐をしたことを称え、『第1級功績』とする。騎士団および魔法士団の団員達には、金一封。各団長には金一封に加え、それぞれに青色勲章を与えることとする」
にこやかに拍手をする貴族達。
すると、黙っていた国王が、視線をシオンに向けた。
「シオン殿。今回貴殿は勲章を望まないと聞いたが、それは確かか」
シオンは頷いた。
勲章もらうと、領地と爵位がセットで付いてくるからだ。
しかし、そのまま答える訳にもいかないので、彼は、ウィリアムに用意してもらった無難な理由を答えた。
「はい。国王陛下。勲章は名誉なことですが、若輩者の私には過ぎたものでございます」
「では、貴殿は何を望む? 前回の恩賞の話もまだであるぞ」
シオンは内心首を傾げた。
――前回の恩賞って、何だっけ? もしかして、「勝手に召喚したけど立場的に謝れないから何かで償わさせて」というアレか?
すると、宰相が国王を宥めるように言った。
「国王陛下。彼はまだ学生の身です。まだ自ら欲するものが定まっていないのではないでしょうか」
「……であるか。では、卒業するまで待つとしよう」
ありがとうございます、と、頭を下げるシオン。
すると、突然。
聖職者の服を着たバクスター侯爵が、にこやかに手を挙げた。
「陛下。宜しいでしょうか」
「……良かろう。申してみよ」
バクスター侯爵は、国王に会釈すると、微笑みながら言った。
「恩賞として、シオン殿に、我がプレリウス教騎士団の筆頭騎士になって頂く、というのは如何でしょうか?」
――……は?
シオンは、思わずポカンと口を開けた。
――いきなり何を言い出すんだ、このオッサン。それって、恩賞じゃなくて罰ゲームだよな?
しかし、そんなシオンの心とは裏腹に、「それは良いアイディアですな」と、盛り上がり始める、教会派の貴族達。
シオンは焦った。
――また変な話になってる! なんでこういう展開になるんだよ! 教会と絡むとロクなことがない!
ジャックスの父親であるプロディア辺境伯が呆れたように言った。
「……バクスターよ。それは恩賞になっていないのではないか」
バクスター侯爵が忌々しそうに辺境伯を睨みつけた。
「何を言う! 教会騎士団の筆頭騎士はこれ以上ない名誉であるぞ!」
「それは名誉の押し付けであろう」
「これほどの名誉を押し付けとは何事だ!」
前の貴族会議の時のように、ギャーギャーやり合い始める2人。
シオンは心の中で、必死にプロディア辺境伯を応援した。
――がんばれ! 辺境伯! 俺、筆頭騎士とか絶対なりたくない!
国王は苦笑しながら2人を制すると、シオンの目を見ながら尋ねた。
「どうですかな。シオン殿。貴殿は教会騎士団の筆頭騎士になりたいですかな?」
「いえ! なりたくありません!」
食い気味に即答するシオンに、笑い出しそうな顔をする貴族達。
国王は頷くと、バクスター侯爵に言った。
「バクスターよ。本人が望んでいないものは恩賞として認められんぞ」
「しかし……」
どこまでも食い下がろうとする侯爵。
国王は不機嫌そうに言った。
「少々度が過ぎておるぞ、バクスター。この話は終いだ。二度とするな」
唇を噛むバクスター侯爵。
そして、悔しそうな顔で歯ぎしりをすると、「御意」と深々とお辞儀をした。
* * *
謁見の間を退出し、王宮の外に出ると、シオンはカルロスとゾフィアに頭を下げた。
「ウィリアムから、恩賞の件で、お2人が押してくれたと聞きました。ありがとうございました」
ゾフィアが微笑んだ。
「気にしなくていいのよ~。騎士団と魔法士団への恩賞だけだと、シオンくんは何ももらえないからね~」
「ゾフィアの言う通りだ。俺達はやるべきことをやっただけだ」
何でもないことだから気にするな、と、言う2人。
ゾフィアが、それにしても、と、呆れたように口を開いた。
「しかし、バクスター侯爵にはびっくりしたわよね~。どこをどう考えたら教会騎士筆頭が恩賞になるのかしら」
シオンは苦笑いした。
「俺もそう思いました。恩賞じゃないですよね、あれ」
「本当よね~。みんなそう思ったと思うわ。
……でも、まあ、あの場であんなことを言うってことは、それだけ焦ってるってことなんでしょうけどね」
「……焦ってる、ですか」
「そうよ~。異世界人信奉のプレリウス教が、『光の勇者様』を取り込めてないんだもの。
本来なら、もっと強引にいくところなんだろうけど、シオンくんのバックが強すぎて、思うように手が出せないんでしょうね」
だから、謁見の間で強硬手段に出たんじゃないかしら、と、苦笑するゾフィア。
カルロスが口を開いた。
「プレリウス教を否定する気はない。だが、彼等は独特で強引だ。気を付けるに越したことはない」
「そうね。困ったことがあったら、いつでも言ってちょうだい」
2人の目に浮かぶのは、深い心配の色。
シオンを本気で心配してくれているのが見て取れる。
シオンは、思った。
前回も、この2人は、身を挺して自分を守ってくれた。
今回もこうやって気にかけ、助けようとしてくれる。
彼等は間違いなく信頼できる人物だ。
ウィリアム達とも、前回の被害者であるカルロスとゾフィアには事情を話した方が良いのではないかと話していた。
これを機に、2人に全ての事情を説明しよう。
死亡END回避に向けて、助力を乞おう。
シオンは意を決すると、2人に向かって言った。
「実は、相談したいことがあるのです。近いうちにお時間頂けませんか」




