01.砦の密談1
月のない夜。
辺境伯領の外れにある北の砦にて。
パチパチと音を立てる焚き火を見つめながら、シオンは、ぽつりぽつりと話はじめた。
・自分が、約半年後の未来から来たこと
・その未来で、魔王を討伐したものの、直後にミノタウルスが急襲。自分とジャックス、アリス、カルロス団長、ゾフィア師団長の5人が殺されてしまったこと
今まで、シオンは魔王討伐前に関わることを思い出すのを、避けてきた。
思い出すと、ひどい頭痛と吐き気に襲われるからだ。
しかし、もうそんな甘えたことは言っていられない。
襲ってくる眩暈と吐き気と戦いながら、懸命に話すシオン
そして、ようやく話が終わり。
しばしの沈黙の後。
ジャックスが軽く溜息をつきながら、口の端を歪めて笑った。
「ははは。なんか死刑宣告された気分だな……。半年後に死ぬ、か。……想像もしてなかったな」
「ん……。さすがにショック」
「……なるほど。道理でこちらに来てからの様子が変だと思いましたよ」
ショックを隠し切れず黙り込むジャックスとアリスに、考え込むウィリアム。
聞こえるのは、夜鳥が鳴く声と、焚火がパチパチと燃える音のみ。
――そして、しばらくの沈黙の後。
シオンが遠慮がちに口を開いた。
「あ、あのさ。めちゃめちゃ突拍子もない話してると思うんだけど、そんなにあっさり信じて良いの?」
ジャックスが苦笑いした。
「信じて欲しいのか、欲しくないのか、どっちだよ」
「そりゃ信じて欲しいけど、あまりにもあっさり信じてくれたから、却って心配になったというか」
ウィリアムが、眼鏡をクイッと上げながら言った。
「まあ。確かに突拍子もない話ではあります。でも、あまり疑うところがないのですよ」
「そうなの?」
「ええ。そもそもシオンが嘘をつく理由がないですからね」
うんうん、と、頷く、ジャックスとアリス。
「嘘だったら、シオン、すごい俳優になれる。普通の人、あんなに真っ青になったりできない」
「だな。それに、未来から来たんだったら、この砦の存在を知っていたのも納得だし、そもそも、お前は嘘つくような人間じゃないしな」
ありがとう、と、呟くシオン。
そして、シオンの話は本当だという合意形成がなされ。
ジャックスがゆっくりと口を開いた。
「……それで、シオンはこれからどうするつもりなんだ?」
「私達に話したということは、何か目的があるのでしょう?」
こくりと頷くシオン。
そして、しばらく黙った後。
彼は苦しそうな表情を浮かべながら口を開いた。
「……俺さ、死んで日本に戻った時、みんなが殺されたのは俺のせいだと思ったんだ。俺が鍛練とか勉強をサボってたから、みんなを死なせたんだって。だから、今回こそはみんなを死なせないようにと思って、一生懸命頑張ったんだ。
……でも、最近。これは俺ががんばっただけで、どうにかなる問題じゃない、って気がしてるんだ」
シオンは、ポケットから1枚の紙を取り出し、3人に差し出した。
「これは?」
「シャーロット王女が俺に『寝るとき以外ずっと着ていてください』って、押し付けてきた魔道具の機能解析書だ」
――――
魔道具名:
『身体能力向上の魔道具』
効果:
身に付けると、魔力を消費して身体能力を2.5倍にする
副作用:
1日6時間以上の着用で、魔力回復力の低下、元の身体能力の低下が認められた
複数の人体実験の結果は下記。
・魔力回復力 :60%低下
・元の身体能力:30~50%低下
――――
「ッ! これ……!」
思わず息を飲むアリス。
ウィリアムが、紙を見ながら冷静に尋ねた。
「……この魔道具は、前回(召喚1回目)の時も、シャーロット様から渡されたのですか?」
「ああ。その時はエミールからだった。心配だから四六時中着ていて下さい、と言われた」
魔力量減少も弱体化も、着用してれば気にならないから、副作用があるなんて全然気が付いてなかった、と、呟くシオン。
「しかも、ミノタウルスに襲撃された時、この魔道具がなぜか寝室からなくなってたんだ。脱いで椅子にかけておいたのに、だ。
当時は、気が動転してたから、どこかにやってしまったのかと思っていた。でも、今は……」
ひどい頭痛を堪えながら、シオンは大きく息を吐くと、絞り出すように言った。
「……信じたくないし、考えたくもないけど。俺は、前回、俺達は殺されたんじゃないかと思ってる」




