16.2人ともすごくね?
本日2話目です。
アリスの妹の症状が、日本で言うところの脚気だと話しながら。
シオンは日本での会話を思い出した。
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シオン:
「異世界の食事は、白米がメインなんですよ」
すみれ:
「栄養が不足しそうね。脚気とか大丈夫なの?」
シオン:
「脚気?」
柚子胡椒:
「ビタミン B 1が不足すると起こる症状で、白米にはビタミン B 1がほとんど含まれていないんだよ。今度、そのことが書いてある漫画を貸してあげるよ」
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その後、彼女が貸してくれた漫画には、ビタミン B 1が不足について書いてあり、解決方法も記されていた。
(要は、ビタミン B 1を補充すればいいんだよな)
シオンの記憶では、ビタミン B 1が豊富に含まれているのは、豚肉と麦。
確か、麦を混ぜたご飯を食べて脚気予防に成功した話があったので、麦ごはんを食べるようにすれば予防は可能だろう。
(となると、問題は、アリスの妹か)
アリスの話を聞く限り、妹の症状は相当進んでいるようだった。
食事も食べれないということは、麦ごはんを食べるのは厳しいのかもしれない。
一番確実なのは、すみれに勧められて持ってきた、マルチビタミンのサプリメントを分けてあげることだろうが……。
シオンは迷うような目で、アリスを見た。
もちろん、彼女の妹を助けたいという気持ちはある。
でも、アリスはスパイとして自分のそばにいる。
そんな彼女に、日本から極秘で持ち込んだサプリメントを簡単に渡すのは、何か違う気がする。
矛盾した2つの気持ちに、悩み始めるシオン。
すると、黙って話を聞いていたジャックスが、苦笑しながら言った。
「……まあ、シオンが悩むのも、もっともだよな」
そしてアリスの方を向くと、すっと目を細めて言った。
「言おうかどうか迷っていたけど、この際だからはっきり言う。
ーーーお前って、足音しないよな」
黙りこむアリス。
ジャックスは、そんなアリスから目を離さずに言った。
「お前の動きは、無駄がなさすぎる。シオンもそれに気付いているから、治療方法を簡単に言えないんだろう?」
しれっと「その通りだ」という顔で頷きながら、シオンは内心驚愕した。
足音がしないとか、全く気がついていなかった。
ジャックス、すごすぎだろ。
ウィリアムも、眼鏡をクイッと上げながら笑顔で言った。
「実は、私も、君について調べていてね。疑問がたくさんあるのですよ。
例えば、素性は作られたようにしっかりしているし、寮に住んでいるはずなのに、なぜ夕方になるとスラム街に消えていくのか、とかね」
どんどん顔色が悪くなっていく、アリス。
その真っ白な顔を見ながら、シオンは思った。
二人が言う通り、アリスは怪しい。
でも、前回(召喚1回目)、アリスの近くにいたシオンは知っている。
コミュ障で愛想はないけど、彼女は根本的にいい奴だ。
ここで得体が知れないからと、アリスを突き放すこともできる。
でも、世界を救う男が、過去命を助けられた人間の妹を見捨てるのはナシな気がする。
シオンは、覚悟を決めると、下を向いているアリスに言った。
「俺の予想が正しければ、アリスの妹の病気は治る」
「……!」
「ただ、その治療ができるのは、この世界で俺1人だ」
ウィリアムが冷たく笑った。
「相手がシオンで良かったですね。普通なら見捨てますよ」
「……はい」
「ただ、シオンが治療する前に、あなた達のことを、嘘偽りなく全部話して下さい。もしも嘘が混じったら……、その時は、どうなるかは分かりますね?」
アリスは力強く頷いた。
「――ー分かった。全部話す」
** *
アリスは小さく息を吐くと、小さな声で話し始めた。
「もともと、私達は南方に住んでいた」
冒険者だった父母は、アリスに斥候の技術を叩き込んだ。
元々才能があったアリスは、瞬く間にその地域では有名な斥候になったらしい。
しかし、父母が死亡。
妹が病にかかり、聖水自体が希少で手に入らず。
どうしようもなくなっていた時、家に1人の男が現れた。
「仕事の依頼を受けるのならば、定期的に聖水を渡そう」
アリスは、その話に飛びついた。
怪しいとは思ったけれど、選択肢はなかった。
「その仕事の内容が、シオンの従者になることだった」
しかし、仕事の内容は急に変わった。
「つい2カ月くらい前。急に『学園に入学して、対象と友達になり、言動を逐一報告しろ』と言われた」
シオンは思わず息を飲んだ。
おそらく、普通に行けば、前回(召喚1回目)と同じく、アリスは自分の従者になったのだろう。
しかし、自分が従者はいらないと必死に抵抗したため、急遽学友になるように言われたに違いない。
(てことは、前回(召喚1回目)もアリスは誰かに雇われて、俺を監視してたってことか)
予想はしていたものの、実際に聞いてショックを受けるシオン。
難しい顔をしてアリスの話を聞いていたウィリアムが口を開いた。
「……あなたは一体誰に雇われていたのですか?」
「分からない。男はいつも黒いローブを着ていて、顔もよく見えなかった。週に1回、南にある公園の木のうろに報告書を入れておくと、翌日聖水が置いてあった」
「週に1回か。前回はいつですか?」
「昨日行ってきたから、一週間後」
2人のやりとりを聞きながら、シオンはとてつもなく嫌な予感に襲われた。
定期的に高額な聖水が用意できて、アリスをシオンの従僕に推せる人物が、只者とは思えない。
これはとんでもなく大事なんじゃないだろうか。
同じように思ったらしく、ジャックスが呟いた。
「俺は、シオンの英知を狙うケチな奴らが使ってるスパイだと思ってたんだ。だけど、話を聞いている限り、ケチどころか相当上の連中が絡んでるな」
「そのようですね」と、冷静につぶやくウイリアム。
シンと静まり返る室内。
アリスが恐る恐る口を開いた。
「これで、全部話した。妹は……」
シオンはハッと我に返った。
そうだ。まずは治療しないと。
「分かった。治療に行くから、今夜、家に案内してくれ」
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