04.もしやこれが歴史の強制力
異世界召喚されて、6日目。
しとしとと冷たい雨が降る、寒い午後。
シオンは、雨音を聞きながら、図書室で借りてきた本を読んでいた。
本の内容は、この国に伝わるおとぎ話や英雄譚、伝記。
日本で言うところの、一寸法師や桃太郎、織田信長や西郷隆盛の伝記といったところだ。
ちなみに、読んだ感想は、
「意外と異世界人っていうのはメジャーなんだな」
前回は、全く関心がなかったので知らなかったが、本の中には数多くの異世界人と思われる人間が出てきた。
彼等は、「紙」や「建築物」の作り方を伝え、この世界の文明の発展に貢献。
農業を発展させた清水さんと思わしき異世界人の話もあった。
「もしかすると、呼ばれたのは清水さんが初めてだったかもしれないけど、過去に地球から何人もが来ているのかもしれない」
こうなってくると、この国の歴史書を読んでみたいところだ。
と、シオンがそんなことを考えていた、――その時。
コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえてきた。
どうぞ、と声をかけるシオン。
ゆっくりとドアが開いて、シャーロット王女が入ってきた。
彼女は優美にカーテシーをすると、シオンに向かって天使のような笑顔で微笑みかけた。
「こんにちは、シオン様。お邪魔でしたか?」
「……いえ、大丈夫です。何か用ですか?」
何となく照れて、微妙に視線を逸らしながら答えるシオン。
シャーロット王女は機嫌が良さそうにクスリと笑った。
「はい。よろしければ、王宮内をご案内できたらと思いまして。途中で図書室に寄って、本を借りることもできますよ」
シオンは苦笑いした。
どうやら彼女は、シオンが本を読み終わる頃を狙って来たらしい。
断る理由もなく、シオンは答えた。
「分かりました。図書館に寄れるのなら、よろしくお願いします」
* * *
部屋を出たシオンは、シャーロットに連れられて王宮の様々な場所を歩き回った。
音楽室、芸術室、舞踏室など、まるで学校のようだ。(学校の数十倍豪華なのだが)
シオンは、笑顔で案内をしてくれるシャーロットを横目で見た。
(親切で優しいのは変わらないんだけど、なんとなく前と違う気がするんだよな……)
何が違うかわからないが、なんとなく違和感がある。
前の方が、もっとニコニコしていたような、ボディタッチがあったりしてフレンドリーだったような……。
と、シオンがそんなことを考えていると。
ボーン、ボーン、ボーン
王宮内を鐘の音が鳴り響いた。
シャーロットが言った。
「もう3時ですので、今日はここまでにいたしましょう。最後は図書館ですわね」
「はい。お願いします」
階段を降りて、1階の図書室に向かうシオン達。
そして、図書室に通じる廊下を歩いていると。
反対側から金髪碧眼の王子様風美青年が歩いて来るのが目に入った。
青年は、シャーロット王女を見ると、丁寧なお辞儀をした。
「シャーロット様。ご機嫌麗しゅう」
「こんにちは、エミール」
笑顔で挨拶を返すシャーロット王女。
そして、振り向くと、シオンに言った。
「こちら、エミール・ バクスター様です。バクスター侯爵家のご子息で、プレリウス教の司祭を務めていらっしゃいます。
エミール、こちらは、タダ・シオン様ですわ」
エミールは、にっこり笑った。
「初めまして、シオン様。エミール・バクスターでございます。以後お見知りおきを」
「初めまして。タダ・シオンです」
挨拶を返しながら 、シオンは懐かしい気持ちでいっぱいになった。
(おお~! エミールだ! 相変わらずイケメンだな~)
エミールは、年齢はシオンの6歳上。
前回、シオンの面倒を見てくれた恩人の1人だ。
エミールは、ニコニコしながら尋ねた。
「お2人とも、これからどこへ行かれるのですか?」
「図書館ですわ」
「そうですか。王宮の図書館は立派ですからね。どうぞ楽しんできてください」
「ありがとうございます」
笑顔で爽やかに去っていくエミール。
その姿を見送りながら、シャーロットが言った。
「わたくし、聖女として教会のお仕事をさせて頂いているのですが、彼はとても頼りになる方なんですよ」
「そうなんですか」
「ええ。きっとシオン様の良き相談相手になると思いますわ。今度一緒にお茶でもいかがですか」
輝くような笑顔で誘うシャーロット王女。
思わず、前回と同じ調子で、「もちろんです!」と、言ってしまいそうになるシオン。
しかし、彼は何とかそれを抑え込むと、申し訳なさそうに首を横に振った。
「……すみません。今はまだそんな気になれないのです」
シオンの言葉に、驚いたような顔をするシャーロット王女。
しばらく黙った後、残念そうに微笑んだ。
「……そう、ですよね。すみません。シオン様のお気持ちを考えておりませんでした。気が向いたら是非おっしゃってくださいませ」
「分かりました、ありがとうございます」
その後、図書館で少し詳しめの子供用の歴史本を借りるシオン。
そして、シャーロット王女と別れて部屋に戻った後。
彼は、フウッ、と息を吐いて、ぐったりとソファに座り込んだ。
「あ、危なかった……」
――前回、召喚1回目。
エミールは、異世界から連れてこられたシオンをとても同情し、親身に世話を焼いてくれた。
訓練を嫌がるシオンの意を汲み、教会に呼ぶなどして、厳しい訓練から遠ざけてくれたりした。
しかし、蓋を開けてみれば、シオンの訓練不足が原因で仲間達は死亡。
己の努力不足を死ぬほど後悔するという結果になってしまった。
エミールの優しさが、裏目に出てしまった形だ。
だから、今回、シオンは決めていた
残念だけど、エミールと距離を取ろう、と。
(それなのに、こんなに早々に会うとか、どういうことだよ……)
シオンは頭を抱えた。
まだ召喚6日目なのに、いきなりエミールと遭遇。
会うだけだったら嬉しいが、シャーロット王女から、一緒にお茶をしようという、まさかの提案付き。
(……やっぱり、『歴史の強制力』みたいなものがあるのだろうか)
もしかして、自分はエミールと仲良くなって、甘やかされて、訓練をサボる運命にあるのだろうか。
謎の力を感じ、若干不安を覚えるシオン。
でも、逆に言えば、エミールを避けることができれば、未来を変えられるということ。
ここはがんばるしかない。
ーーこの日。
シオンは、エミールの誘いを全て断ることを決めた。




