02.シャーロット王女に会おう
異世界召喚されて、3日目。
窓から暖かい日差しが差し込む、静かな冬の午後。
シオンは、カーテンが閉められた天蓋付きベッドの中で、憂鬱な気分で筋トレをしていた。
(はあ~、疲れた……)
この3日間、シオンは異世界の人々相手に、ゴネにゴネまくった。
メイドに、「うるさい! 向こうへ行け!」と、叫んで部屋を追い出し。
会いに来たお偉いさんに、「勝手に呼んで勇者とかふざけるなよ。元の世界に帰せ!」と喚き。
「飯がマズイ!」と、ハンガーストライキを決行し。
「外になんか出ないぞ!」と、ただひたすら部屋に籠った。
なぜ、シオンがこんな反抗期の中学生みたいなことをしているか。
それは、ひとえに「やることリストNo.1」通り、シャーロット王女と会うため、である。
――――
<やることリスト> No.1
・シャーロット王女に会う ★これ!
・前回召喚された日本人の手記をGETする
・ローズタニア王国について勉強する
――――
――前回、1回目。
シオンは、召喚されたことを嘆き、泣き喚いた。
メイドに出て行けと怒鳴り散らし、ご飯も食べず、部屋に引き籠った。
そんな時に現れたのが、この国の第2王女であるシャーロット。
ゴネる彼の世話係に任命された彼女は、部屋を訪れて、シオンを優しく説得。
彼を部屋の外に連れ出した。
だから、シオンは考えた。
「今回も、前回みたいにゴネまくれば、シャーロット王女が部屋に来てくれる。
今回も、思い切りゴネよう!」
そして、前回同様、ゴネたりハンガーストライキをして、シャーロット王女が来るのを待っているのだが……。
(うぅ……。辛い、辛すぎる……)
これが思った以上にしんどいのだ。
冷静に考えてみれば、メイドに何の罪もない。
ただ、異世界人の面倒を見ろ、と、言われただけ。
にもかかわらず、枕を投げられ(当たらないように気を付けてはいるが)、暴言を吐かれる。
仕事とはいえ、よくもまあこんな理不尽に耐えているものだ。
申し訳なくて仕方ない。
(はあ。いつまで続けるんだろ、これ……)
申し訳なささに押しつぶされそうになる、シオン。
もうこんなこと止めて、別の方法を考えるべきじゃないか。
そんなこと真剣に考え始めたーー、その時。
廊下が急に騒がしくなった。
耳を澄ますと、複数の女性がしゃべっている声がしてくる。
そして、トントントン、というノックの音がして。
緊張したようなメイドの声が聞こえてきた。
「シオン様。シャーロット第2王女様がいらっしゃいました」
よっしゃ!
と、シオンが密かにガッツポーズを決めたのは言うまでもない。
* * *
――20分後。
シオンは、シャーロット王女と向かい合って座っていた。
白いドレスを着て品よく座る王女と。
ふてくされた様子で足を組み、そっぽを向いて座るシオン。
普段礼儀正しい彼が、なぜこんな斜に構えた感じで座っているのか。
理由は簡単。
シャーロット王女が、あまりにもキラキラすぎて、直視できないからだ。
艶のある紺色の髪に、紺の瞳。
美しく整った顔立ちに、清潔感の漂う上品そうな雰囲気。
動くたびに、いいにおいが漂ってきて、クラリと意識を持って行かれそうになる。
シオンは思った。
おかしい。
なんか、いきなり試練っぽいのが始まったぞ、と。
意識を持っていかれないように懸命に堪えるシオンに、シャーロットは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「この度、勝手にお呼びしてしまったことを、心からお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」
シャーロットは深々と頭を下げると、今の状況について説明し始めた。
・この国の名前は、ローズタニア王国。海に囲まれた島国である
・ここ数年、瘴気(魔獣を発生させたり、動物を狂暴化させる淀み)が異常発生し、人々の生活に大きな影響を与えていること
・瘴気を消すためには『異世界の勇者が必要』という伝承があり、実際200年前に『日本』という国から勇者が呼ばれ、ピンチを乗り切ったこと
・一部の王族と貴族が、独断で召喚の儀を行ってしまい、シオンが召喚されたこと
・召喚に関わった者は厳罰に処される予定で、国王がシオンを保護することに決まったこと
・国王に任命され、シャーロット王女が世話役になったこと
前回と全く同じ説明だな、と思いながら、黙って話を聞くシオン。
そして、シャーロット王女の話が終わると。
彼は軽く息を吐いた。
さあ、ここからが本番だ。
シオンは、そっぽを向いたまま、あらかじめ決めておいた台詞を冷たく言い放った。
「申し訳ないけど、あなたの話は信じられません。そもそも、本当に200年前に日本から人を呼んだんですか? そこからして胡散臭い」
シャーロット王女が困ったような顔をした。
「はい。本当のことですわ。王家の歴史書にも記載がございます」
「そちらが作ったものは、信じられません」
「……では、何があれば信じて頂けるでしょうか」
王女の問いに、考え込むフリをして黙り込むシオン。
そして、さも今思いついたように、ゆっくりと口を開いた。
「……なにか、召喚された日本人が書いたものはありませんか。手記のようなものとか。それを見れば信じられるかと」
シャーロット王女が、ホッ、としたような顔で言った。
「ありますわ。勇者様が書かれた本があります。禁書扱いですので許可は必要ですが、急いで取ってまいります。明日の午後で如何でしょう?」
「……分かりました」
「では、明日またお伺いいたしますわ」
ごきげんよう、と、丁寧なお辞儀をして去るシャーロット王女。
そして、扉が閉まり、足音が廊下を遠ざかっていくのを確認すると。
シオンは、ドサッ、と、ソファーに倒れこんで、大きく息を吐いた。
(はあ。良かった。うまくいった)
ちなみに、王女の言っていた「勇者の書いた本」とは、200年前に召喚された日本人の手記のことだ。
大半が日本語で書かれており、その内容は、日本への帰還方法について。
前回は、閲覧して終わってしまったので、今回はガッチリ手に入れたいと考えていた。
事が上手く運んで、ホっと胸をなでおろすシオン。
そして、思った。
それにしても。
シャーロット王女の美しさって、兵器みたいだよな、と。
久々に見た王女は、直視できないほどの美しさだった。
微笑みかけられると天にも昇る気持ちになるし、悲しい顔をされると罪悪感を覚える。
美貌は武器とかいうけど、ここまで美人だと武器というより兵器に近い気がする。
前回の自分が焦がれてやまなかった理由がよく分かる。
(……でも、あんな美人でも、柚子胡椒に比べると、そこまでじゃない感じなんだよな)
シオンは、胸のポケットからパスケースを取り出した。
そこには、自然に笑う柚子胡椒の写真。
彼は、その笑顔を見ながら、小さくつぶやいた。
「柚子胡椒の方が断然可愛く見えるんだから、好き、って、本当に不思議だよな」
――そして、その日の夜。
シャーロット王女から「禁書閲覧の許可が取れた」という連絡があり。
翌日、シオンは王宮内にある図書館に行くことになった。




