15.サバイバル訓練+α
異世界から戻ってきて、約8カ月。
召喚されるまで、あと4カ月。
春を思わせる日差しがまぶしい3月。
これまでの成果は下記。
<筋トレ・体重>
・筋トレプログラム、剣術稽古、動体視力と反射神経を鍛えるゲームを継続中
・腹筋ローラーを導入 ★New!
・体重が16kg減った!
<勉強>
・「無人島で暮らす方法」を読破!
・「文明と人間」を読破!
・「あなたのその宗教大丈夫?」読破 ⇒腹黒小学生お勧め本
・期末テストで7/40位を取った!
<その他>
・柚子胡椒とサバイバル特訓を行い、基本的なことは大体できるようになった
柚子胡椒とのサバイバル訓練は、意外な方向に進んだ。
まず、2人は3回に分けて、火を熾して料理をしたり、雨水をろ過するなど、サバイバルで求められるスキル訓練を一通り行った。
コツは掴んだので、あとは自己練習に励めばいいだけ。
本来ならば柚子胡椒のサバイバル講習は、ここで終わる予定であった。
しかし、最終日。
紫苑が、「せっかくだから、もっと色々やってみたい」と、言い出した。
柚子胡椒と話ながら行うサバイバル訓練がとても楽しく、もっと一緒に色々やってみたいと思ったからだ。
柚子胡椒は、これを快諾。
じゃあ、ということで、「灰汁を使った石鹸作り」と、「ナイフと木の枝を使った箸作り」の2つを行うことになった。
そして、その終了日。
今度は柚子胡椒が、「キャンプ場に行って実践訓練してみようよ」と、言い出し。
次は、紫苑が、「今度は、別のキャンプ場に行ってみたい」と、言い出し。
……とまあ、こんな感じで。
気付けば、紫苑のサバイバルスキルは驚くほど上がり、それと同時に2人はかなり頻繁に会う仲になっていた。
――そして、春とはいえまだまだ底冷えが厳しい、3月のとある土曜日。
誰もいないキャンプ場で、作ったカレーライスを食べながら。
紫苑は、とうとう今まで黙っていた異世界料理のマズさについて、柚子胡椒に語り始めた。
「実はさ、異世界って、食事がかなり美味しくないんだ」
柚子胡椒はきょとんとした顔をした。
「え? そうなの? 何も言わないから、てっきり普通なのかと思ってた」
「うーん。なんていうか、食べれなくはないんだけど、美味しくない感じ」
「どんな味なの?」
「基本的に全部薄塩味。あと、何を食べても口の中にエグみと生臭さが残る感じ」
柚子胡椒が気の毒そうな顔をした。
「あー……。多分、出汁とかスパイスがないんだね。あと、下処理とかもしてなさそう」
紫苑は溜息をついた。
「だからさ、腹黒小学生さんに、『何か持って行きたいものはないのか』って聞かれて、真っ先にカレールーが浮かんだんだよね。あれがあれば、とりあえず生きていける気がして」
「言えば良かったのに」
「いやいや、さすがにあの真面目な雰囲気の中、『カレールーを持って行きたい』とは言えないでしょ。必需品じゃないし、かさばるし、アホっぽいし」
うーん、と、スプーン片手に考え込む柚子胡椒。
そして、しばらく黙った後、首を傾げながら言った。
「ご飯がマズイなら、異世界の材料で作れる美味しい料理を覚えていけばいいんじゃないか、って気もするんだけど、違うの?」
紫苑は目を見開いた。
その発想はなかった。
なんだこいつ。天才か。
紫苑は、柚子胡椒と一緒に、異世界にありそうな食材と調味料を紙に整理した。
・米食が中心
・野菜は似たようなものがある
・海鮮はあまり見かけない
・肉はクセが強い
・ソーセージとかベーコンみたいな肉の加工品はない
・調味料は、多分、塩と砂糖だけ
紙を見ながら、柚子胡椒が言った。
「ぱっと見て、ベーコンとソーセージ、あと、コンソメは作れそうだよね」
「おお……」
「あと、そんなに嵩張らなくて長持ちする胡椒みたいな調味料を持って行けばいいんじゃないかな。調理の幅も広がるし」
「おお!!!」
楽しそうだから、色々作ってみようよ、と、笑顔で言う柚子胡椒。
本来ならば、これは、とても有難い申出。
しかし、紫苑は躊躇した。
柚子胡椒と一緒にいるのはとても楽しい。
それもあって、ついつい彼女の好意に甘え、色々と教えてもらった。
でも、これ以上何かしてもらうのは、どうなんだろうか。
流石に甘えすぎだし、迷惑なんじゃないだろうか。
紫苑は、言葉を選びながら、柚子胡椒に尋ねた。
「なあ、柚子胡椒」
「ん? なに?」
「俺はさ、すごく不器用だし、本を見て作っても変な料理ができるし、とにかく壊滅的に何かが駄目でさ」
「ああ、うん。前に作ってくれた暴発塩プリンを見てそれは思った」
無邪気な柚子胡椒の言葉。
紫苑は、ぐふっ、と、胸に手を当てた。
「……あれは忘れて欲しい」
「……ごめん。話の腰を折った。続けて」
済まなそうな顔で口を閉じる柚子胡椒。
紫苑は気を取り直すと、話を続けた。
「ええっと、だから、柚子胡椒に手伝ってもらえるのは、すごく嬉しいんだけど、これ以上甘えたり負担をかけるのは悪いような気がしてるんだ」
「……どうして?」
「いや、だって。こんな不器用なやつに教えるの大変そうだし、柚子胡椒には柚子胡椒の生活があるわけで」
「大げさだな~。週1回ぐらい、大した話じゃないよ」
「いや、まあ、そうかもしれないけど……」
はぁ、とため息をつく柚子胡椒。
そして、視線を軽く足元に向けると、小さな声で行った。
「もしかして、シオンは1人でやりたい感じなの?」
紫苑は、慌てて首を横に振った。
「そういうわけじゃない。俺はもちろん柚子胡椒が一緒にやってくれるならそれが一番嬉しいと思ってる。でも、俺のことなのに、ここまでしてもらって悪い気がして……」
柚子胡椒は、再びため息をつくと、うつむき加減で言った。
「僕はさ、趣味が男子っぽいから、なかなか本音を話して盛り上がれる友人ができなくて、寂しい思いをしてたんだよね。
女子って、話題がお洒落とか芸能人とかカッコイイ男子のことなんだけど、僕、そういうのに興味なくて」
ニコニコ笑って聞いてはいるけど、本当はつまらなくて仕方なかったんだ、と、寂しそうに笑う柚子胡椒。
「だから、シオンとこうやって思い切り趣味の話をしながら、好きなことを一緒にできるのがとても楽しいんだ。それに、がんばってる紫苑のこと、応援したいなと思ってる。
だから、これからも一緒に色々出来たら嬉しい……と、思ってますです。はい」
少し赤くなりながら、視線を彷徨わせながら、小さな声で言う柚子胡椒。
紫苑は呆気にとられた。
柚子胡椒が、一緒に楽しんでくれているのは何となく分かっていた。
でも、ここまで楽しいと思っていてくれたとは。
嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。
でも、こういう時に何を言ったら良いか分からない。
それは柚子胡椒も同じらしく、居心地悪そうに、恥ずかしそうに焚火を見つめている。
2人はそのまま無言で火を見つめた後。
「あ、あの。えっと。俺も、一緒にやっていきたいと思っているので、ええと、その、次もよろしくお願いします」
「う、うん」
「ら、来週の土曜日とかどうかな」
「だ、大丈夫」
「詳細はSNSで連絡するよ」
「う、うん。分かった。待ってる」
なんて会話をぎこちなくした後、お互い何となく照れながら、ゆっくりと帰路についた。




