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55話 ウェズの兄のことで知らせがくる

(もうこれはゴールした的な? え、もしかして子供もいける? 今なら誘っていける?)


 建国祭から戻ってきたウツィアはあまりの出来事に有頂天になっていた。

 男装して店を開いてても心ここにあらず。


(帰りも同じベッドで寝たし……いやまだだけど……恥ずかしくて誘ってもいないけど)


 幸い店の食器を割るといったミスまではしていないけれど、いつしてもおかしくないぐらいだ。


「どうかしたのか」

「あ、すみません。仕事中でした」


 ウェズは相変わらず女装してウツィアの店に来ていた。真実を告げてもいない。男装したウツィアは今日も女装したウェズが自分の夫であると気づかずに接している。


「いいことがあって」

「そうか。よかった」


 建国祭でのことが良い思い出になっているならウェズにとってもそれは幸いだった。なによりウツィアが自分を好きだと言ったことがウェズにとってもこの上ない幸せで思い出してはウェズも顔が緩みがちだ。


(うわ、デレが過剰)


 女装ウェズの微笑みの破壊力に、男装ウツィアはなにか話を聞いたのだろうかと思った。純粋に喜んでくれているように見え推しへの想いで溢れる。


(推し、優しい……)


「りょうし、あー、すみません」


 初めてだった。

 店にウェズの側近カツペルが来て男装したウツィアも女装したウェズも驚く。事情を知っている手前、領主のことを呼べず中途半端になったカツペルにウツィアが声をかけようとした時、ウェズが先に立ち上がった。


「……すまない、用事ができた」

「はい。またどうぞ」

(騎士関係でなにかあったのかな?)


 険しい顔をしたままウェズが出ていく。カツペルが深刻そうな顔をして話しかけているのを見てウツィアは妙な胸騒ぎがした。

 思わずカードをひく。


「話し合う必要がある……」

(私とウェズ? それとも他で?)


 ウツィアはすぐに店を閉めて屋敷に戻った。


「……」


 屋敷内の空気がひりついている。その出所である夫の執務室へ入った。机に肘をつき、両手で顔を覆い悩むウェズの姿がある。


「あ、奥様。今はちょっと」

「何があったのですか?」

「ええと……」


 側近のカツペルがウツィアとウェズを交互に見る。けれどウェズは反応を見せなかった。主が話すなと言わないのを見て、カツペルは自己判断でウツィアに事情を話す。


「領主様の実のお兄様が倒れたと報が入りました」

「え?」

「最初はお兄様の領地が海賊に襲われたところから始まりまして」

「海賊?」


 兄がいることは確かに聞き知っていたけれど、深く話を進められていなかった。領地が海沿いとなると、こことは王都を挟んで反対側にあるということか。


「まあ海賊は王都の騎士が援軍に来たのもあってどうにかなりましたけど、その後長期的な嵐がきたこともあって領地のダメージが大きく、その間に領主であるお兄様が倒れたというところです」

「それで? 援助を求めてきたの?」

「いいえ……その内容の報告だけが王子殿下からきただけです」


 報告がきただけでこんな空気になるの?

 余程のことが書いてないとこんなことにならないはず。しかも本人からくるんじゃなくて王子を経由するとはどういうことだろう。


「だからってこんなにこの人が悩むなんておかしいじゃない。手紙にはなんて書いてあったの」

「えと、さすがにそこまでは」

「じゃあいいわ。ちょっと席外して」

「ええと……」

「夫と二人にしてちょうだい」


 ウェズはなにも言わなかった。カツペルは珍しく強く主張するウツィアに負けて、執事のマテウシュと共に部屋を出ていく。二人きりになって、一つ息を吐いてからなるたけ穏やかな声でウェズを誘った。


「ウェズ」

「……」

「ウェズ、お茶を飲みましょう」

「……?」


 一際優しい声音がウェズの耳に届く。不思議と顔を上げてしまった。


「こっちです」


 ゆるゆると差し出される手をとって、執務机のそばのソファに座らされる。

 ウツィアは黙ってお茶を淹れた。


(私が店で好んで飲む茶だ)


 ウツィアが意図してその茶を選んだわけではないと分かっているものの、その一致が嬉しい。

 茶を飲むとウェズの肩の力が抜ける。思っていた以上に緊張を解いてくれた夫を見て、ウツィアも安心して話を進められた。

ウツィアのすごいところは彼女の発する言葉によって他人が従ってしまう程の力がある事ですね(魔法です)。もうちょっとで聖女要件をクリアできた子だったので、本人の自覚の有無に関わらず、聖女の能力としては高いものを所持しています。簡単に言うと隠れチートです(笑)。

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