50話 ウツィアの瞳の色の宝石
「ウツィア、入っても?」
「はい、どうぞ」
ほぼ仕上がったところで夫が迎えにきた。
立ち上がり出迎える。部屋に入ってすぐにウェズは足を止めた。
(可愛い)
動かずじっとしているウェズを不思議に思い、ウツィアから近づくと彼はすぐに我に返った。
(顔に出さないようにしなければ……緩まない緩めない)
心の中で念じながらウツィアに視線を合わせる。
(やっぱり可愛い)
二度自分の妻を見て隠せる自信がなくなった。
「……少し、いいか?」
「はい」
マヤを下がらせ二人きりになった所でウェズは箱をウツィアの前に差し出した。箱を開けるとネックレスとイヤリングが入っている。
「今日のドレスに合わせて用意した」
「綺麗ですね」
深い青色の宝石はウツィアの瞳を連想させる。それだけの理由でウェズはこの宝石を選んだ。
「色を変える宝石なんだ」
「色が変わるんですか?」
「ああ。太陽の下は青、蝋燭の灯りを当てると赤に変わる」
そんな石聞いたこともない。宝飾品が好きな王女キンガですら、この宝石の話をしていなかった。
「東南の遠い国からとれるものを取り寄せた。あまり市場にはないだろうな」
近場でも同じ種類の石はあるようだけれど、より希少性の高いものをウェズは選んだ。望む青色がその国でとれるからというのもあったけれど。
「そんな貴重なものを」
「いいんだ。ウツィアの青い瞳は一度見たら忘れられない……綺麗な色だからずっと同じ色の物を用意したかった」
それこそデビュタントで初めてウツィアの瞳を見てからずっと考えていた、なんてさすがに言えない。あの時はあの庭で贈れる日がくると思っていたけれど、こうして別の形で贈ることになったのはウェズにとって不思議な感覚だった。
「あ、ありがとうございます」
(デレが過剰すぎる)
「……私がつけてもいいか?」
「は、はいっ」
姿見の前にウツィアが立ち、ネックレスを手にウェズが後ろに立った。再び距離が近いことに今更気づいたウェズはなるたけウツィアに触れないよう、でもスマートにつけようと試みる。
(あ)
つけてもらうことにどきどきしていたウツィアが姿見にうつるウェズの姿に気づいた。
(ウェズったら顔、真っ赤)
触れないようにネックレスをつけることに夢中なウェズは当然ウツィアの視線に気づかない。
ウェズの姿に緊張のとけたウツィアはさらに気づく。
(柑橘の香り……いつもウェズがつけてる)
ずっとこの懐かしさが分からなかった。王城に行くからか、記憶が呼び起こされる。
(あの人も、同じ香りだった)
王城で顔を見ずに何度も会っていたウツィアの初恋の相手。
(まさか、ね)
同一人物なら言ってくれてもいいはずだし、隣国セモツを越えた南の国と我が国との交易は多少なりともある。王城庭のあの人以外が使っていてもおかしくはない。
(よし、うまくいった……おや)
赤面したままネックレスをつけ終わったウェズも安心したのかウツィアの纏う香りに気づく。
「この香り……」
「苦手な香りでした?」
ウツィアの香水の香りに覚えがあった。
「いや……珍しいものだなと」
「ふふ、そうなんです。昔お世話になった方がくださって。大事な時につけようと思って、今日つけてみました。この宝石と同じ、東南の方でとれる花の香りだそうです」
ぎゅんと心臓を掴まれる。
(それは私が贈ったもので……大事な時に使う……ああ、こんなにも嬉しいとは)
再び赤面してしまったウェズだけれど、心が満たされてそれどころではなかった。
(まだ顔赤い……それに嬉しそう)
そんな態度をされると本当に好かれていると勘違いしそうだとウツィアもきゅっと心臓を掴まれる。
「あ、あの耳飾りは」
「あ、ああそうだな……」
思ったウェズはぎくしゃくしたまま耳飾りの箱を手にし、今度こそ触れてしまうと思って「侍女に」と短く応えた。ウツィアとしても気恥ずかしかったので丁度良かった。
マヤを招き入れ、ウェズは挙動不審のままソファで座り、ウツィアの身なりが整うまで待つ。落ち着かない夫婦を見てマヤは一人笑みを深めた。夫婦仲が良いことは仕える者として至上の幸いだからだ。
「奥様」
「ありがとう、マヤ」
ウェズもソファから立ち上がり、ウツィアと向かい合う。やっぱり耳飾りもウェズにつけてもらえばよかったかもと少し残念に感じた。
「ウツィア、綺麗だ」
「旦那様は格好良いです」
そして簡単に心臓を掴まれるウェズだった。
「……行こう」
(可愛い)
「はい」
というわけで、6月誕生石・アレキサンドライト(インド産)でお送りしました~。この時代この国だと電気はまだ先の話なんですよね~白熱灯の下と太陽の下で色がどうこうって話をしたかったです。にしても普段顔を緩ませないようにって頑張ってるのに鏡にうつってバレてんのしょうもないですね(笑)。




