40話 女装も男装もせず、遠乗りをする
街とは正反対に静かな中進んでいく。
ウェズと並んで遠乗りができるなんて結婚当初は想像もしていなかった。
(ここまで開拓・整備してたら言うことないわね)
奥に進むと水の音が聞こえた。高く聳え立つ木々の中では分からないけれど、雪から雨に変わったのかもしれない。
「ウツィア、こっちだ」
「はい……あ」
聳え立つ木々を抜けると大きな川に出た。
「ウツィアにはこの川を見せたかった」
この川があるからウェズはこの領地を賜ると決めた。ウツィアがカード占いで出した、水があるといいという領地。彼女の占い通り、ここを選んだおかげで今がある。あの時占ってもらったことは未だお礼を言えていないけれど 、せめて心の中で言えればとウェズは考えていた。
「……雨の音かと思いました」
「え?」
川に近づき見つめる瞳が川の水を反射して輝いている。
「川の音だったんですね」
正面から微笑まれた。ウツィアの表情を見られることが無性に嬉しくなる。
「……面白いことを言うんだな」
「え?」
「少し休憩しよう」
隣国セモツ境界の自然地帯は川沿い、森の中、それぞれ一定間隔で小屋を設置している。その一つを使って休憩することにした。
「こんなところに小屋があるんですね」
「こうした小屋はいくつか用意している。避難用、採掘や材木関係の仕事があった時の拠点も兼ねているな」
今は必要ないけれどセモツとの争いがあった時に使うことも想定していた。結局和平が結ばれたので領民の仕事メインで使ってもらっている。
「領民に優しいですね」
「……」
(今日はすごく褒めてくれる……嬉しい)
「……ウェズ?」
(笑った! なんだか嬉しそう……本当ギャップがすごいわ)
しばらく無音の時間を味わった。
小屋にはウッドデッキもあり、寒さはあれどそこから眺める川の流れはとても静かで癒される。
「……なんだかちゃんと息してる気がします」
不思議な表現だったけれど、表情が穏やかだった。ウェズはウツィアの笑顔に安心する。
「気に入ったのか」
「はい」
「ここは四季折々で風景も変わる。またここに来よう」
「はい」
ウェズの言葉に驚くと共に嬉しさが込み上げた。
(これからがあるってこと? 少なくとも今すぐ離縁はないって期待していいのかしら?)
「夏には星がよく見える。今年は過ぎてしまったが、来年はここで星を見ないか?」
「はい、是非!」
春先に出会ってすぐ迎えた夏、ウェズはウツィアを誘えなかった。契約結婚であることを守ろうとしていただけだけれど、今ではウツィアと同じ時間を過ごしたい気持ちが勝っている。それに気づかずウェズはウツィアに占ってもらった時のことを思い出していた。
会話の少ない中、側にいるウェズの横顔を見ると、すっかり渋面は消えている。ウツィアの視線に気づいて「どうした」と柔らかく笑いながら見つめてくる姿にどきりとした。
「ありがとうございます」
「?」
「こんな素敵な領地を案内してくださって……私を受け入れて下さって、ありがとうございます」
それはこちらの台詞だとウェズは強く思った。
最初に自分を受け入れて知ろうとしてくれたのはウツィアで、それは結婚してからも同じ。いつだって救われているのは自分の方なのにとウェズは全部話してしまおうかとさえ思った。
「……来月」
「はい」
飲み込んだ。
もう一つ、話したいことを進める選択肢をとった。
「来月、王都に出る。滞在は一週間程だ」
「そうなると行き帰り合わせて二週間ぐらいかかりますね」
ここ最近は毎日会って食事をしたり乗馬の練習をしたりしていた手前、二週間が急に長く感じる。
(結構会わないなあ……折角少し仲良くなってきたのに)
落ち込むウツィアに対し、ウェズは指先に力を入れて緊張の面持ちで先を続けた。
「一緒に行かないか?」
「え?」
「建国祭だから、王城の社交界にも参加するが、そういうのが煩わしいなら参加しなくていい。ただ雰囲気だけでもウツィアと一緒に楽しめればと思って」
視線を逸らして言うウェズの誘いにウツィアはぱっと表情を明るくさせる。
「ぜひ! 行きます!」
(これは本格的に仲良くなれるんじゃ? 二人で遠出、しかも社交界……妻として公に隣に立てるの?)
ウェズが認めてくれたような気がして嬉しくなった。
「ああ、嫌なことはしなくていいから」
「いいえ、大丈夫です」
一緒に行きますと満面の笑みで返すウツィアに安心し、嬉しさにウェズの目元が緩む。
「……ありがとう」
(好きだ)
初めて川キャンプした時に川の音で目覚めた瞬間、雨かあと思った記憶があったのをそのまま小説にしてみました。
にしてもいい加減言っちゃえばいいのにねー!ここで話したところで問題ないというか、ウツィアからすればウェズがド直球に好意を見せてくれることがハピエンなんですけどね!いつかお別れする(契約結婚)ってのが頭からポーンしてそうなウェズです。いっそくっつけ!




