28話 夜這いの結果
こんなに話してくれて、微笑んでくれて、感謝もしてくれる。ここまで関係を築けたことに感動しつつ、ゆっくりした動作でウツィアは夫の肩に手を添える。拒否の色はなかった。
「……」
(触っても大丈夫だわ)
「どうした?」
もう片方の手ももう片方の肩に添え、そのまま押すとウェズはソファにもたれかかる。抵抗もなく不思議そうに見ているあたり何をされているか分かっていない。あまりに危機感が薄れていてウツィアは呆れた。
本当にこの人は戦争の英雄なの?
ワインのおかげで程よく酔ったのか思いの外、積極的になっていたウツィアはウェズからの言葉と態度に舞い上がっていた。
「私に慣れてくれました?」
「え?」
「夫婦と言っても結婚が初対面だったからか、ウェズはいつも緊張してました。最近……少しは、緊張しなくなったかなって」
見下ろす妻の瞳がとろんとしているのを可愛いと思いながらウェズは彼女の言葉を反芻した。
(そんなに緊張してただろうか)
と考えてる間にウツィアがウェズの膝に乗り上げてくる。急に距離を詰めてきてびくっと震えてしまう。
「ち、近い」
「やっぱりだめですか?」
「何が」
「私を妻として受け入れてくれることです」
本当は子を作るかを問いたいところだけど、膝に乗ったぐらいで驚きに震えたぐらいだ。ここは言葉を濁しておく。まずは夫婦として仲を深めることから。その後に、ここぞという時に子供の話をすればいい。
酔った頭でも冷静に考えられる自分にウツィアは感心した。ここで再び結婚初期の距離感に戻ってもショックだからウツィアはウェズの返事をじっと待つ。
「それは……」
本当は妻として一緒にいてほしい。
あたたかい家庭を二人で築きたい。
こんなにも歩み寄ってくれている妻に報いたい。
けどウェズは自分のような人間が幸せにできるとも思えなかった。
「……こたえ、られない」
「ふうん」
はっきりと応えてくれないウェズにウツィアは煮え切らない。
着てきた長いガウンを脱いだ。中は寝衣で、普段着だと思っていた夫は目を開いた。
「う、上着を」
「だめですか」
寝衣だって厚地で露出のないものを選んだ。巷で流行りの夫婦の夜用ではないから、そこまで驚くこともないのにと思うけれど、寝衣というだけでウェズには目の毒だった。
「妻として見て下さるなら、口付けてくれませんか?」
人差し指で彼の唇に触れる。ウェズの肩が僅かに鳴った。額でも頬でもないことはウェズにも充分理解できる仕草だ。
「っ……」
駄目とは言えなかった。吐く息が浅くなる。
少し起き上がって近づいてくるウェズにウツィアはもしかしてと期待した。キスの有無で今日に至るまで夫婦として仲を深められたのか夫としての答えが出るはず。
目の前のウェズの様子をじっと見つめながらウツィアは待った。
「……ウツィア」
(このまましても、いいかもしれない)
そのぐらい近づいた瞬間、ウェズの頭に契約の二文字が点灯した。
「!」
華奢な肩を掴み、距離をとる。ウツィアが驚いている間にソファに落ちたガウンを取り、ウツィアに着せると言うよりは巻き付けた。
「ウェ、ズっ」
そのまま横抱きにして、部屋にあるベッドへ足早に進む。
(まさかその気になったの?!)
夫婦の部屋のベッドではないけれど、かまわなかった。
ゆっくり優しくベッドにおろされ、そのままウェズもベッドに入ってくる。覆いかぶさる夫の姿に期待に胸が膨らんだ。
(これは! 本当に本当?!)
近づく夫に思わず瞳を閉じるとすぐに額に触れる感触があった。
「え?」
「……お休み」
求めた口付けは額だった。
「そんな!」
起き上がろうとするとガウンごと抱き込まれ動けない。
「……すまない」
「!」
ここまで仲を深めて拒絶されるなんてと悲しみに泣きそうになる。横を向いて間近な夫を見るとなぜか泣きそうな顔をしていた。
僅かな明かりに照らされた顔が赤いようにも見える。
「その、こんな、急には……じ、かんが」
ほしい、と消え入りそうな声で囁かれる。心の準備が、とも掠れた声でなんとか伝えた。
「時間がほしい?」
こくりと頷く夫はやっぱり恥ずかしさに顔を赤くしていた。
(なにそれ女子?!)
心の叫びで抑えられた自分を褒めたい。ウツィアが黙って見つめてくるのに耐えられなくなったウェズは自身の胸にウツィア抱え込んで見えなくした。
(あれでもこれって添い寝? もしかして進歩してる?)
夫の動揺にあてられたのか、混乱しつつもその後しばらくしてウツィアも寝てしまうのだった。
誰よりもヒロインらしいヒロインな夫ウェズなわけですな!(笑) いちおう全年齢で投稿しているので当然こういうオチですとも! 御存知のことと存じますが。




