27話 夜這いの決意
その夜、ウツィアは一つ決意をした上で夫の部屋へ向かっていた。
ウェズは夫婦の寝室を使わない。執務室の隣の部屋で寝ているとウツィア専属侍女のマヤから聞いていた。そこに一人で向かっている。手には先程閉店時にマヤの親族から貰ったワインを一瓶といくらかつまめるものをバスケットに入れていた。
「今日令嬢ちゃんたちも女性から積極的になるのはありだって言ってたわね。巷もそういう風潮をよしとしてきてる」
さすがに胸をあてるのはどうかと思うけれど、女性から話しかけてくれるのをよしとしている夫ならお酒の誘いだって大丈夫だろうと思った。子供云々以前に親睦を深めることは可能のはず。
「乗馬だって毎日だし、食事も一緒にするようになったわ。緊張感も薄れてきた気がするし」
最初の頃の渋面はだいぶ緩和された。微笑みだってある。立派に自分たちの関係は進んでいるはずだとウツィアは自分を鼓舞した。
「夜這いよ!」
寝込み襲うわけでもないし子作りを迫るつもりもなかったけれど、気合いを入れる為に拳を掲げた。
* * *
(柔らかかった)
一方、ウェズは未だウツィアに迂闊に触れたことに赤面していた。
そんなところに扉が叩かれ「そちらへ入ってもよろしいでしょうか 」と妻の声が聞こえて肩が鳴る。けれど仕事もとうに終えていた為、断る理由がなかった。
「ああ、どうした」
「あの、お酒でもどうでしょう?」
扉を開けると厚手の長いガウンを着たウツィアがウェズを見上げる。
男装してなくても可愛いと思いつつ、彼女を部屋に促しソファへ案内した。
「領地で新しいのができたようで」
「ああ」
ウェズは女装時の店通いと剣の鍛錬、女装をしてない時の食事やお茶・乗馬でウツィアとの関わりが増えていた。それがあって当たり前のように受け入れてしまう。
(ガードが緩くなった……少しは許してくれてる?)
軽食とワインをテーブルに置きつつ、夫の様子を見てみるけれど、特段警戒している様子はなかった。そこに柔らかさすら感じる。
と、ソファの端に書類がいくらか置かれていた。
「あ、お仕事されてました?」
「それはもう終わっているものだ」
今日の男装したウツィアの感触を忘れる為に終わった仕事を見直していただけとは当然言えない。ウツィアはちらりと覗き見た。
「領地内の農作物の生産量、ですか」
「昨年収穫量が低かったものの内、不作の傾向が出ているかの確認だな」
「こっちは輸出入の記録ですね」
「戦争で塞がれた輸出入ルートが回復したのでこちらは順調だ。ウツィアの実家の領地とも繋がっているから注視していた」
孤児院に行ってから三回に一回ぐらいは名前で呼んでくれる。それが嬉しくてこそばゆいが、それよりも彼が未だ自分の実家の領地に気を配っている事に驚いた。
「そこまで私の実家のことを考えて下さってたんですか?」
「当然だろう。あの戦争でこのあたり一帯の民には損害が出た。もっとうまく戦をおさめていたら損害もなく済んだはずだ」
「けど戦いといったら多くの騎士を連れて、命のやり取りを行うんですよね? 戦に集中して連れ立つ騎士たちに注視して、領地の民にまで気を配るというのは大変です」
「それが戦を行う者の責任だろう」
(この人、真面目すぎる)
真剣に言う夫の姿になにもそこまでと思う反面、そこまで思ってくれることが嬉しくて仕方ない。普段の渋面や避けられている時は分からなかったけれど、本来はとても優しい人だと分かる。今こうして関わって仲が深まってきたからこそ分かるウェズの素晴らしさにウツィアは胸が苦しくなった。
「あ、ええと、その、お酒! お酒飲みましょう?」
「ああ、頂こう」
ちょっとしたことで夫に動揺するようになったことを隠したくて当初の目的へ戻ろうとした。
もらったワインは非常にコクがあり飲みやすい。
「美味しい」
目を見張る夫の素直な感想が嬉しかった。ウツィアが作ったわけではないけれど、彼はいいものはいいと身分関係なく褒めてくれる人だ。
「今季の新作です。侍女のマヤの実家から一本頂いて」
「すごく味がいい。そういえば、ワイン用のぶどう生産は安定しているな」
寄せて置きっぱなしにしていた資料を再度見る。ウツィアも興味本位で夫の手に持つ資料を覗いた。
触れる程近い距離にウェズの心臓は跳ねたけれど、自制した上で彼女が資料を読み終わるのを待ち、その間にワインを飲み進めた。
「ワイン加工も右上がりですね」
(あれ? 飲みっぷりがよくなったかしら?)
まあその方が夜這いに向いてるしいいかとスルーする。
「新商品として王都へ通すのもいいな。今度両殿下に送ろう」
「いいですね」
あの二人ならいいものと判断すれば、すぐに王室で買うか王都での販売を要求するはずだ。いいものを自分が手の届く範囲に起きたがるタイプだし、外交で諸外国に勧めて自国の輸出益をあげることに糸目をつけない。
「酒がなくなったな」
「数本買ってくればよかったですね」
「いや、充分だ」
ウェズが穏やかに笑う。
不覚にもウツィアは見入ってしまった。
「ありがとう。ウツィアはいつも最適なタイミングで最高の知らせをくれる」
こんなに話してくれて、微笑んでくれて、感謝もしてくれる。ここまで関係を築けたことに感動しつつ、ゆっくりした動作でウツィアは夫の肩に手を添える。拒否の色はなかった。
なにも夜這いまですることないじゃない(笑)。発想力がすごいウツィア(笑)。そしてガードがゆるくウツィアにより甘くなったウェズは迎え入れてしまうという。モデルにした国では時代的にあまりワインの生産はないのですが、あるにはあったので採用した次第。まあワインのことよりも夜這いの方が気になりますよね!ね!夜這いひゃっはー!




