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26話 女装夫、ラッキースケベに遭う

「秋の新作のお茶です」

(朝は心臓に悪かった……)


 いつも通り男装して店を開いたウツィアは先程の恥ずかしさに悶えていた。

 今日は常連のお嬢様三人組もいる。しっかり仕事しないとと自分を律した。


「ありがとう」

(気合いをいれてる……新しい茶に? それとも朝の乗馬に? 可愛いから構わないが)


 女装したウェズも変わらず来ている。いつものようにサービス精神旺盛にお茶を提供するウェズに令嬢陣が窓を指して何かを伝えた。戻ってきたウツィアに話しかける。


「どうかしたか?」

「あ、カーテン外れてて。今付け直しちゃいますね」

「……手伝う」


 その身長でやるには無理があるだろうと思い立ち上がるとウツィアは慌てた。


「いいですよ。お客様にやってもらうなんて」

「心配だから」

「ぐふっ」

(推し優しい)


 変な声をあげてしまったけれど女装ウェズは首を傾げるだけ。その様子を見ていた外野の令嬢たちは黄色い声をあげる。カーテン一つで盛り上がっているなとウツィアは内心苦笑した。


(いきなりデレくるし! 推し可愛いなあ)


 なおも男装ウツィアにやらせまいとする女装ウェズの態度に手伝いを頼むことにした。不服そうだけれど気にしない。


「無理しないで」

「はいっ」

(デレつよおおお)


 気を取り直し踏み台を持ってカーテンの前に立つ。真後ろにウェズが控え、カーテン専用の金具を渡してもらう。


(ウェズって本当に身長高いのね)


 踏み台に立つ自分の胸あたりに顔があった。踏み台一段でカーテンに届きそう。そんなウェズに集中していたら、もらうはずの金具を落としてしまった。


「あ」

「大丈夫。私が拾う」


 拾い上げるまでの間ウツィアも少し屈み気味だったのも原因だったけれど、ウェズが金具を拾い起き上がった瞬間、彼の顔がウツィアの胸に埋まる。

 むぎゅっという効果音でも出そうな勢いだった。


「?!」

「ふわ」


 目を白黒させる女装ウェズが近すぎて恥ずかしい一方、ウツィアはふわりと鼻を通る香りに懐かしさを覚える。


(柑橘の香り……旦那様と、同じ)


 閃きそうだった男装ウツィアの思考を止めんとばかりに女装ウェズが勢いよく離れた。


「すまない!」

「いえ、こちらこそ、えっと、あ」


 ウェズの慌てぶりが伝染してウツィアも急に恥ずかしくなる。思わず後ろに下がった。

 踏み台の上なので当然足が外れバランスを崩す。後ろに倒れそうになるけれど、先はカーテンと窓だ。落ちるのも痛いけど、窓にぶつかるのも痛そう。


「危ない!」

「ひゃ」


 ウェズがウツィアの手を取り引き寄せた。バランスを崩したウツィアは簡単に引き込まれる。そのまま再びウェズの顔がウツィアの胸に埋まった。前のめりになって落ちそうになるのをウェズの頭に腕を回し抱き締めるような形になってしまう。令嬢たちから黄色い声が上がった。


「?!」


 勢いで来たウツィアを受け止めるためにウェズの腕も自然とウツィアの腰回りに回った。相変わらず華奢な腰に状況把握も二の次で震えてしまう。


(柔らかい細い軽い)


 女装ウェズは混乱した。


「す、すみません…………ウェズ?」

 

 無言のまま回していた腕をほどき、腰に両手を添え縦に抱き上げた。ゆっくりした動作で踏み台からウツィアをおろす。


「……すまなかった」

「い、いえ」

(推しったら顔真っ赤)


 と思いつつもウツィアも負けじと顔を赤くしていた。

 口元を片手でおさえ、もう片方の手に金具を持ち少し背伸びをしてカーテンを直す。始めからウェズに任せてればよかったと顔の熱が離れないままウツィアは見守った。


「女性から攻めるのもありね」


 二人の様子を最後まで見ていた令嬢たちが楽しそうに話し始める。


「女性は奥ゆかしい淑女であれなんて古いですわ」

「男性には胸を使う……これは一つの手段ね」

「成程、あてるのですね!」


 いやいややめときなって、と心の中で令嬢たちにツッコミながらウツィアは踏み台を片付けた。


(いくら男装しているとはいえ、なんてことをしてしまったのだろうか)


 場所が場所だっただけに女装ウェズは頭を抱えたかった。胸を潰してるはずなのに柔らかさがきちんとあったなんて考えてはいけないと自分に言い聞かせる。


「ウェズ」

「……これは」

「さっきのお礼です。一杯サービス」

「……何もしてないのに」


 セクハラしかしていない、この思いが今だけ二人に共通していた。

 ウェズは女装をしているものの女性であるウツィアに無闇に触ったこと、ウツィアは女性であることを知られているものの男装している身で女性に無闇に触ったことに。すれ違いも甚だしい。


「おかげで怪我しないですみました。僕の気持ちです」

「……ああ」

(可愛い)


 ぎゅんと心臓を掴まれる。最近やたら多い気がした。


「ウェズには好きな人がいるのに僕が触れてしまって……不本意だったはずですし」

「そんなことない」

(ウツィアが好きな人だし)

「意中の方に見られたわけじゃないから大丈夫だと思いますけど、女性の気持ちとして好きでもない男性との接触ってどうなのかなって 」

「構わない」

(ウツィアが意中の人だし)


 思い出して顔が緩みそうになるのを理性を総動員して抑え込む。王城にいた時は考えられないことだった。


「その、怪我がないことの方が重要だから」

「ん……ありがと」


 推し、本当優しいと思いながら心の中で涙を流す勢いだった。


「明日も来る」

「はい、お待ちしてます」


 最後はいつも通りで別れる。理性が勝利しウェズはほっとしたまま用意した馬車で着替えた。

 ウツィアは店の看板をしまっていると店の名義人であるウツィア専属侍女マヤの親族が訪問し、別事業で生産しているワインを一瓶もらう。


「領主様と一緒にどうぞ」

「ありがとうございます」

いらっしゃい、ラッキースケベ\(^o^)/ ラッキースケベに動揺して心の声がウツィア好きしかなくなる男ウェズ(笑)。そして最後に親戚が酒を持ってくるというナイスアシストをしてきました。となればね!ね!


今日のちょこっと占い→いい知らせがあるかも。アンテナはっておきましょう!

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