2回目
「……なあ、霧嶋。最近は体調は大丈夫なのか?」
「えっ……あ、うん。大、丈夫」
追試が終わり、それなりに解けたと伊織にメッセージを送ったところで、後ろから声を掛けられた。普通なら「大丈夫。心配してくれてありがとう」とでも返すところだし、実際にクラスメイトが心配して声をかけてくれたときはそう言った。でも、口ごもってしまったのは、相手が康太の友達である百山君だったからだ。
「そっか。それは良かった。……んで、フラフラだった原因は康太とのことか?」
思考が一瞬止まる。……それも一瞬ですぐに頭は働き始めたのだけど、なんて言っていいのか結論が出ない。
「えっと……」
「まあ、違うなら別にいいんだけど。……もしそうなら、やめてくんないか?」
「っ……」
「康太は優しいやつだから、心配しちまうんだよ。たとえ、お前といるのは恥ずかしいとか、一生話しかけんなとか言ってきたやつでも、自分が原因かもしれないとなると悪いことをしたって思うやつなんだよ」
「……」
「だから……康太が原因で体調崩すとか、そういうのはやめてくれ」
百山君はそう言いながら席を立ち、「じゃ」と言って鞄を持ち教室を出ていった。
教室に残された私は、その場から動けなくなってしまっていた。
百山君に言われたことを思い出して、意識だけが別世界に飛ばされているような感覚になる。無意識にしていた記憶の蓋がこじ開けられたようだった。
『ああ、もう来てたんだ』
『うん。話って何?』
『……私、あんたと絶交するから』
『……え?』
『もう一生私に話しかけないで。あんたなんかと幼馴染なんて、恥ずかしくて絶対みんなに知られたくないから』
血の気が引いていくのを感じる。教室にはもう誰もいなくなっていた。
すぐに鞄を持って、走り出す。
学校の外に出て、走り続けて、何回か転びそうになりながらも駅に着くと、次に目的の電車が来るのは2分後だった。
乱れた息を整えながら電車を待つ。
……あっ、伊織に連絡してない。
鞄から携帯を取り出すと、いくつか通知が来ている。ロックを解除すると、『おーい、かな?』『まだ?』とメッセージが来ていた。
『ごめん。先に帰るね』
『ええ!?』
『本当にごめん』
メッセージを送っていると、電車がやってくる。
いつも乗っている電車をいつもの時間だけ乗っていたはずなのに、凄い長い時間乗っていたような気がする。最寄り駅で電車を降り、今度は康太の家まで走った。
「はあ……、はあ……」
息が上がって、汗だくになって髪もぼさぼさになっている。でも、その分早く着くことができた。
少し休んで、息を整え、ぼさぼさになった髪も整える。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸をして、コータの家のインターフォンを押す。少し待っているとプツッという音がして、声が聞こえてくる。
『ちょっと待ってて』
聞こえてきたのはコータの声だった。コータの家のインターフォンはカメラがついているタイプなので、私なのを確認してそう言ったのだろう。
しばらくして、コータが家から出てきた。
「あーっと……、俺に用があるんでいいのかな……?」
「うん」
ゆっくりと歩いて、コータが私の前までやってくる。その足が止まるのを確認して、口が渇く中、私は意を決して息を吸った。
「中2の、今くらいの時期、体育館裏に呼び出して、絶交するとか、一生話しかけるなとか、幼馴染なのが恥ずかしいとか……酷いこと言って、ごめんなさい!本当に、後悔してる。……本当に、ごめんなさい」
「……」
頭を下げて、コータの声を待った。しばらく、コータは何も言わずに黙っていたけど、ふぅ、と息を吐く音が聞こえて、コータは喋り出した。




