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自作小説倶楽部 第19冊/2019年下半期(第109-114集)  作者: 自作小説倶楽部
第112集(2019年10月)/「運動会・学祭(※選手)」&「夕刻」
18/30

04 紅之蘭 著  運動会(選手)『ガリア戦記 04』

【あらすじ】

出世に出遅れたローマ共和国キャリア官僚カエサルは、人妻にモテるということ以外さして取り柄がなかった。おまけに派手好きで家は破産寸前。だがそんな彼も四十を超えたところで転機を迎え、イベリア半島西部にある属州総督に抜擢された。財を得て帰国したカエサルは、実力者のポンペイオスやクラッススと組んで三頭政治を開始し、元老院派に対抗した。

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「槍投」




    第4話 オンリンピュア 


 カエサルが、スイス人・ヘルウェアィ族との戦闘を行うべく隊列を組んで行軍しているとき、ローマと誼を結ぶヘドウェイ族の羊飼いの少年が横合いで眺めているのを見かけた。少年は馬上にいた。

 ガリア人とは騎馬の民だなとカエサルは改めて思った。

 スイス人のヘルウェアィ族も、ガリア人のヘドウェイ族も騎馬民族だ。

 かのハンニバルがローマのあるイタリア本土に深く進攻できたのは、騎馬民族諸族の協力があったからだということをカエサルは知っている。

 馬上の三属州総督は一門のある少年を思い出した。

 あの子は今年五歳になるな。

 

 カエサルが気にかけているのはオクタビアヌスという姪の息子だ。身体が弱いのだが頭の良い少年で、家庭教師から文字や計算を習い覚え、最近では現役の元老院議員であるキケロが著した『国家について』を読み始めていることを比較的裕福な騎士の家に嫁いだ姪から聞かされていた。

 元老院は、ポンペイウス、クラッスス、そしてカエサルが主流派だ。

 非主流派はあのハンニバル戦争のとき大功を立てた大スキピオを国家中枢から追い落とした元老院議員の論客大カトーの末裔小カトーが、その大スキピオの末裔であるスキピオを仲間にして共和制保守派をなしていた。

 キケロはバリバリの共和主義者だ。だが彼はスキピオ同様、内心は共和制よりも君主制のほうが有事に対処しやすいはずだとキケロは考えているようだ。そんなふうにカエサルは『国家について』の読後に感じた。


 昨年、総督への就任が決まったとき、屋敷に祝いにやってきた姪の家族の中にオクタビアヌスの姿をみかけた。貴族・上級市民としては、さほど珍しくもない色白でやせた綺麗な男の子というだけの印象だった。

 混雑した宴席の大広間でカエサルが姪アティアとその娘オクタビア、そして息子オクタビアヌスを見かけ声をかけた。ごくありふれたあたりさわりのない質問だ。

「成人したら何をしたい?」

「オリンピュアに出とうございます」

「ほお、面白い奴だ。分かった、君が成人した暁には、その願いを叶えてやろう」

 少年はくったくのない笑みを浮かべ大叔父にお辞儀をした。

 

 オリンピュア大祭とは、古代ギリシャのエーリス地方オリンピュア神殿で催された競技大会で、紀元前三六九年に第一回大会が行われ、以降四年ごとに絶えることなく開催された。それはローマがギリシャを征服してからも連綿として受け継がれ、キリスト教がローマ国教となり他の宗教を異端として神殿を破壊した三九三年の第二九三回大会をもって最終回となった約七百年にも及んだ一大イベントだった。

 出場資格は、純血・混血を問わずギリシャ人の血を引いている男子であればそれで良かった。

 ローマが地中海の覇権を握る前、ギリシャ諸都市は地中海一帯に植民都市を築き、その後、ギリシャ本土同様ローマに服属した。このため本土はもちろん、地中海一帯にあるギリシャ系植民都市から青年たちが、莫大な優勝賞金に魅せられてやってきた。

 ローマはギリシャ神話にあるトロヤの王族がローマの地に落ち延びて再興させたという一節を根拠に出場資格を得ていた。

 オリンピュア大会は、年代によって競技種目は少しずつ増えていくのだが、走り幅跳び、円盤投げ、短・中・長距離走、槍投げ、レスリング・ボクシング・パンクラティオンなどの格闘技、そして戦車といったものがあった。

 後年、カエサルはオクタビアヌスとの約束を守ってオリンピュア大会に出場させた。それはカエサルがガリアを平定した後、クラッススが死んだことで三頭政治の一角が崩れ、残った巨頭ポンペイウスと抗争。その後、エジプトの王位継承戦争に介入するアフリカ遠征に向かった。

 オクタビアヌスは大伯父に従って遠征を望んだのだが、母アティアの反対で叶わなかった。

 紀元前四六年、大神官を兼務する将軍カエサルはウェヌス神殿を建造した。その記念として、失意の中にあった二十三歳になる姪の息子に、オリンピックに出てこい」と命じた。

オクタビアヌスの子孫である暴君ネロ帝が、賄賂をつかって、オリンピュア大会に優勝したというのだが、オクタビアヌスの成績は伝わっていない。大叔父に似てひょろっと背が高い青年は優勝すれば誇らしげに記録を残すだろう。

 インテリ青年オクタビアヌスは、成人してからも子供のころからの虚弱体質を引きずっていた。ゆえに武勲の大半は親友のアグリッパに譲った。オクタビアヌスは疲れたら無理せず身体を休め七十五歳の長寿を全うした。他方、嫡子が夭折したため、アグリッパの家に嫁がせた娘が生んだ子供を養子に迎え帝位を継承させていく。そういうわけだから著者は、オクタビアヌスがオリンピュアで好成績を残したように思えない。

 同年、オクタビアヌスは、アフリカを平定し、ヒスパニア遠征に向かった大伯父の後を追った。

 このときオクタビアヌスが乗った船は嵐に遭遇、敵の支配地域に流れついた。虚弱体質ながらも度胸のいいオクタビアヌスは、生き残りを集めて指揮を執り、敵中突破をして大伯父の元へたどり着いた。ために彼はカエサルから後継者に指名されることになる。


 では本題。

 第十軍団六千名とともにカエサルが、長蛇の列をなして移動中であったスイス人ヘルウェアィ族非戦闘員の横腹を衝く格好になった。だがカエサルの手駒に対し向こうは九万の兵があった。それでもローマという名がスイス人たちを恐怖させた。

 スイス人たちは、カエサルに講和使節を送りローマ領内の通行許可を請うたが、カエサルは検討するので半月後に再度くるように言った。そして半月後になってやってくると、今度はきっぱりと断った。その間にカエサル配下の全軍団が到着。さらに盟友であるガリア人ヘドウェイ族騎兵が駆けつけてきた。

 スイス人たちは撤収を始めたのだがカエサル側の要求は飲まず、あくまでも目的地ブリタニア半島への移動を試みた。

 ここで追撃をすれば打撃を与えられえるのだが、スイス人たちにとって幸運だったのは、カエサル軍に本国からの糧秣輸送が滞っていたということだ。補給をおびやかされたとき、カエサルは無理をせず静かに待った。

 そのためスイス人たち三十七万人は易々と追手であるカエサルを振り切って、ローヌ川沿いを遡っていった。

 だがカエサルは斥候を出し、スイス人たちの動きを監視していた。

 ローマからようやく糧秣が届いたころ、斥候が、スイス人たちがローヌ川の支流を渡ったことを報告した。

 ここにきてカエサルは追撃を始めた。

 スイス人たちは筏をつかって四分の三を向こう岸へ渡し終えていた。

「四分の一か、各個撃破ができる」

 カエサルは、まだ渡り切っていないスイス人の戦闘員・非戦闘員九万人に奇襲をかけた。

 百人隊長のなかに、オリンピュア大会参加の元選手がいた。

 オリンピュア競技種目には投槍があった。投槍を得意とする百人隊長と、彼が鍛えた部下たちが投げた槍はスイス人の盾を突き破った。ローマの投槍はしなるようにできていて、スイス人戦士の盾に刺さると曲がったので、スイス人が引き抜こうにも引き抜けず、盾を捨てざるを得なくなった。

 現場に踏みとどまっていたのはスイス人戦闘員二万と非戦闘員七万だ。

 カエサル軍全軍三万とガリア人ヘドウェイ族騎兵が、スキピオ流の包囲殲滅陣形で、スイス人を殲滅した。

 直後、あらかじめパーツを準備していたローマ軍が、圧倒的な土木技術をして、わずか一日で橋を組み立て終えてしまったので、驚愕した残る四分の三のスイス人たちは再び講和を求めてきた。

          つづく

【登場人物】

カエサル……後にローマの独裁官となる男。民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

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