情報の価値とその重さ
「けどさ、何でハンターズカフェじゃないと情報って貰えない感じなの?別に魔獣狩り専用のカフェじゃなくてもネットとかで、みんなに見てもらったほうが襲われる人とかも減るよね?」
「それはですね。情報という嘘に振り回されないようにするために、大々的に情報統制を敷いているんですよ」
クラマちゃんが口元に人差し指を重ねそう言った。
規制をかける。つまり、魔獣の正体を知っていてもあえて伝えないということだ。
人は良くも悪くも情報に踊らされる。過去の出来事を見てみても、誰かが発信したデマが水面に落とした石ころの如く、波紋となり広がり続け、間違いだと気が付いたときは収拾がつかなくなっていたというケースは多々ある。
それが人々の生命を脅かす魔獣ともなれば、より慎重に取り扱わなければならないだろう。
「千寿流ちゃん。世の中には良い人間の他に悪い人間もいるんだよ。だから、現代では地区ごとに情報が漏洩しないように規制をかけているんだ。ほら、思い出してみてごらん。君にも心当たりがあるんじゃないかな?」
こめかみに指を当てて、必死で思い出してみることにする。
確かにそうだった。
結九里では川崎で呪いを振りまいていた影の魔獣についての噂は全く聴かなかった。
もし仮に結九里から出ないで過ごしていたのであれば、川崎に住む人たちが魔獣の呪いに苦しんでいるなんて気が付かないまま一生を終える。そうなっていたかもしれない。
そういえば、川崎に来た時、周りの人々から変な目で見られたことがあったっけ。それはきっと、外から厄介事を持ち込んできたのかもしれないと疑っていたのかもしれない。
あたしたちにその気はなくても、そこに住んでいる人たちにとっては、それ以上不安となる種を蒔いてほしくないから。
そして、ここ藤沢市では影の魔獣についての話は一回も聴いていない。もちろん来たばかり、というのもあるだろうけど、この感じだとここに住んでいる人たちは、そもそも影の魔獣について何も知らないのだろう。
「この時代において、情報はより厳しく管理される。ネットなどでの不用意な情報漏洩はID管理下の元、厳しく処罰される。執行人として特化した機関もあるようだよ。人類が魔獣に対抗するための異能を人殺しのために使うなんて怖い話だよね」
夜深ちゃんがそう言った。
情報についての価値。あたしにはまだ全部はよくわからないけど、何かを知ることで未然に防げたり、逆に不安を作り出してしまうこともあるってことだ。
流してしまったでは済まない。知らなかったでは通らない。世界はあたしを中心に回っているわけじゃないんだ。あたしに記憶が無くても、この世界は長い時をかけて今を築き上げてきた。
「しんぱいないよ ちずるは いいこだもん。シャルルはしってるから!だから しんぱいない!」
シャルちゃんの顔を見る。キラキラと光る真っ直ぐな瞳。
そうだ、記憶がないわけじゃない。
その輝きに支えられてこれまで歩いてきた。
あたしにはその記憶があるじゃないか。
そして、その記憶はこれからも続いていくんだ。
「その廃病院に行ってみよう!水性の魔獣が悪いことをしてるっていうなら、あたし、絶対にやっつけなきゃいけないと思う!だって、それが情報を知った“あたしたちに出来る事”でしょ?」




