邂逅2
物事には全てに意味がある。
バラバラに見えるピースも重ねてみれば違う形が視えてくる。
一見は意味のないような事柄でも、“意味の無い”という意味を持っている。
それは無駄という価値観。
無駄があるから意味合いを持つものがより強く強調される。
ならこの空白に意味はあるのだろうか。
自分の発した声すらも聴こえないこの世界で、一体何の意味合いを見つめればいいというのだろうか。
「っはぁ!……はぁ、はぁ」
静止した時の中、あたしは呼吸することすらも忘れていた。喧騒と鳴り響く景色とともに、動き出した時間が新鮮な空気を肺に供給する。
気が付くと先ほど振り返った人物、少女はもう目の前にはいなかった。
そのまま真っ直ぐ見据えたまま、バクバクと騒ぎ立てる心臓の音が落ち着くのを静かに待った。
あたしを見渡すことはしなかった。きっと、少女は何処にもいないことが分かっていたから。
それに仮に見渡してみて、もし彼女を見つけてしまったら。また時間が止まってしまうかもしれない。そう考えると、目線を動かすことなんてとても出来なかった。
それよりも気になったことがある。
(なに、さっきの。あたしと“おんなじ顔”。気持ち悪い)
同じ顔だった。
一瞬だけだったのだ。もしかしたら他人の空似。顔が似てるだけの別人。よく見れば全く違う顔かもしれない。
目つきも、その全身から醸し出す、取り巻く空気のような物も違った。
けれど。
そんな見た目とか理屈とか、そういう話で説明できないほどの感覚。
言葉よりも先、心のもっと奥深く、魂に突き刺さるような。そんな強烈な印象。
その印象があたしと彼女は同じだと、あたしに強く訴えかけた。
「や」
「ひゃいぃいいぃ!?」
後ろから声とともに肩に軽く手を叩かれる。
「なーに、その反応。なんか怖い物でも見た?」
「え、えっと、いや、そんなことはない、けど」
嘘だ。
「えっと、あたしは待ってただけだよ」
嘘。
「あたしだってお留守番ぐらい出来るもん。それに怖い物なんて何もないし」
それは嘘。
「ほらそれに、このクッキー!あ、あれ?あたしクッキー買って」
「もしかしてこちらのことでしょうか?落ちていましたよ、千寿流ちゃん」
そういえばそうだった。さっき驚いてクッキーの袋を落としてしまっていたんだった。
額に滲む粒のような汗をぬぐいながら、クラマちゃんからクッキーの袋を受け取る。幸いにも落ちたことで中身が割れてしまった。ということはなさそうだった。
「あ ちずる!そのクッキー あたらしい やつでしょ!シャルルも たべてもいい?」
「う、うん!もちろんだよ!えひひひ、みんなも一緒に食べようよ!」
シャルちゃんはお菓子に目がない。新作でも旧作でもなんでもだ。そして、甘いお菓子ならどんなものでもすごく幸せそうに頬張る。
あたしもシャルちゃんが、美味しそうにお菓子を食べているのを見ると幸せな気分になるのだ。
シャルちゃんのナイスアシストで何とか話題を逸らせそうかな。そう思った時。
「ふーん。今日、そんなに暑い?」
ドキリとした。それと同時に表情を悟られないように俯いた。馬鹿だ。そんなことをしたら何か後ろめたいことがあると言っているようなものじゃないか。
あたしは嘘を吐くのが下手みたいだ。
「まあいいけどね。もし体の調子が悪いようなら早めに言いなよ。無理をしても誰も得しないからさ。ね」
「う、うん」
夜深ちゃんもそれ以上は言ってこないけど、きっとあたしが何か隠し事をしていると気づいているだろう。本当のことを言ったほうがいいのかな。でも、言っても困らせるだけかもしれない。
あたしは気絶してたって話だけど、大口では随分とみんなの足を引っ張っちゃったみたいだったし、できればみんなにこれ以上心配をかけたくない。
あたしはあたしなりに精一杯考えた末に、先ほどの出会いを黙っている事に決めた。
「ところでさ、夜深ちゃんたちはどうだったの?カフェでいろいろな話を聴いてきてくれたんでしょ?」
「ああ、そうだったね。確証ってわけじゃないけど。ここ藤沢市には大きなショッピングモールがあるでしょ?そこからさらに北方面に向かうとこれまた大きな廃病院があるんだよ。そこで魔獣を。件の、水性の魔獣を見かけたって話なんだよ」




