邂逅
「わ、ハイスコア更新しちゃった!あたしってやっぱりすごいかもっ」
一人取り残されたあたしは近くのベンチに座ってスマホゲームを楽しんでいた。今めちゃくちゃ熱い、落ちてきた家の形をしたブロックをくっつけて、一つの大きなお城を作るパズルゲームだ。
シンプルながらに得点を競っていかに効率よく落とすかを考えさせられる、頭を使うタイプのゲーム。単純なんだけど、ついつい時間を忘れて熱中してしまう。しかも、このゲームの良いところは充電をあんまり消費しないということ。
まあでも、実はあたしは電池なんてあんまり気にしたことがない。
今のスマホは昔の物と違って、二十四時間フルで使っても充電が切れるようなことはない。けれど、そのせいか電池が無くなっているのに気が付かず、充電をよく忘れる。
きっと、そのせいで三日月館でもスマホの充電が切れてしまっていたんだろう。
(えっと、あたしのスマホは)
「あう、六パー。もうすぐ充電切れそう。そういえば二日前だったかな、最後に充電したの」
あたしはこのままゲームをし続けていたら、いくら充電の減りが少ないと噂のパズルゲームでも切れてしまうと思ったのでポケットにしまう。
さっき自販機で買ったジュースが二百四十円。貰った五百円はまだ半分以上も残っている。
(うん、何回数えても二百六十円ある!)
不安になって何度も数えてちゃんと二百六十円残っているのを確認すると、近くでチョコレートでも買おうかなと思い、コンビニを探して歩き始めることにした。
コンビニというものは日本人のライフスタイルそのものといってもいいほどに日常に密着した存在だ。日常生活に必要なものはコンビニに行けば大抵手に入る。
飲食物に限らず、衣服、雑誌、スマホの充電器やトランプなどの娯楽まで何でも手に入る。そしてそのほとんどが時間帯を縛らず二十四時間営業しているという点も魅力的だ。
また、コンビニは買い物だけに留まらず、ATMや公共料金の払込み、宅配便といったサービスも兼ね備えている。例えるなら現代における万事屋、まさに何でも屋なのだ。
フランチャイズ方式に当てはまるコンビニは一時までは店舗を増加し続けていた。
しかし、コンビニの数は年々減りつつある。
あらゆる物価の価値が上がり続ける中、突如現れた魔獣の存在。それらに伴い増える軽犯罪。それに対してコンビニ側も様々な戦略を立ててきたが、それを加味しても魔獣による被害などの影響は想像以上に大きかったのだろう。
あたしはたまたま近くに見つけたコンビニに目を輝かせ、意気揚々と入ることにした。
(んー、クーラーが効いていて涼しいなー!えひひひ、二百六十円で何を買おうかな?)
お小遣いと合わせてちょっぴり高いものを買おうかとも考えたが、あとで夜深ちゃんに無駄遣いを咎められるのも嫌なので、手元にある二百六十円で買えるものを探すことにする。
(あ、この漫画、新しいの出たんだ!でもさすがにこのお金じゃ買えないよなぁ)
一通りコンビニの中を見回してさんざん悩んだ挙句、結局は初めに目をつけていた新作のクッキーの袋詰めを手に取り、うきうき気分でレジに持っていく。
「えひひひ、これ、前に見かけた時絶対食べたいと思ってたんだよねー。って、あ。こんなことだったらジュース取っておけばよかった」
クッキーは美味しいけど、口の中がぱさぱさになるだろう。パッケージにはサクサク、しっとりの食感と書いてはあるが、絶対に飲み物が欲しくなる。
歩きながら己の中で葛藤する。
今からコンビニに戻って、手持ちの小遣いを使ってでもクッキーに合いそうな紅茶でも買おうか。
けど、夜深ちゃんにバレたら怒られてしまう。
(いや、待てよ。うまくごまかせるかな?)
自販機に売っていなかったとしても、さっき買ってきたと言えばすんなり誤魔化せるのではないか。夜深ちゃんもきっとそこまでしっかり見ないだろうし。
あたしは馬鹿じゃないって事見せつけるチャンスだよね。絶対誤魔化せるはず!
千寿流の頭の中に浅はかな企みが走る。そう決めたならもう迷うことはない。紅茶を求めて再度コンビニに向かうことにした。
「ありがとうございましたー!」
目的の紅茶を手に入れてほくほく顔の千寿流。
(ん、なかなか開かない。こっちからのほうが開けやすいかな)
クッキーの袋に悪戦苦闘するあたし。この手の袋は上手く開けないと中身が全部バラバラに飛び出してしまうのだ。何回か経験がある。これがなかなかに難しい。
歩きながら袋を開けることに夢中になっていたので、あたしは前が視えていなかった。だから必然、相手も前方を疎かにしていたのであれば。
「痛っ!?あぅわ!?ごご、ごめんなさいっ!えと、前視ててなくて!」
「……」
その人物は黙ったまま通り過ぎる。
始めからぶつかったことなんか気にも留めていないかのように。
きっと、気を悪くしてしまったんだろう。あたしは地面に落ちたクッキーの袋を拾い上げることも忘れて謝罪をする。
「そ、そのっ!ほんとにごめんなさいっ!」
背丈はあたしと同じくらいに視えた。髪型は判らない。だって全身を薄茶色のローブのようなもので覆っていたから。
九月といえどこの時期はまだ暑い。それなのに、砂嵐も吹きつけないこんな街中でローブを纏っているのは、違和感としかいいようがなかった。
ローブを着た人物がゆっくりと振り返る。
「……」
声が出なかった。
その瞬間。
声帯も聴覚も失ったように世界が静止した。
地の文。千寿流にしては賢すぎますが、読みやすさ重視でこの感じで行きます。




