ハンターズカフェ
一行は来希の行先、しいては女性を襲うとされる水性の魔獣についての手掛かりを掴むため、大口を離れ藤沢市を訪れていた。
藤沢市は大口(旧鎌倉)に隣接する市である。
藤沢市は大都会とはいえないが、江ノ島などの観光地が近くにあり、一目見ようと外部からの観光客も多い。また、湘南モールフィルなど多くのテナントが入居している。治安も良く、非常に住みやすい街だ。
大口と同じく、導は藤沢市にも大きな爪痕を残していたが、絶望に落とされながらも必死に立ち上がる人々の懸命な努力により、かつての面影を感じられるまでに復興していた。
魔獣を狩るために組織されたギルドもこの藤沢市にはある。
他にもネットなど不特定多数の相手に発信できないような情報を交換するために設けられた、魔獣狩り御用達のハンターズカフェなんかもある。
原則として報酬を付与するのは公的機関と定められているため、自身が請け負った依頼以外に魔獣を狩るのは基本的に無駄な行為である。と思われるかもしれない。
実際、ギルドがつくられた当初は発見→報告→分析→依頼といった流れを取っていた。
しかし、それでは目の前に害を成すであろう魔獣がいるとわかって放置をする魔獣狩りばかりになるということで、近年になってシステムが改正されたのだ。
駆除したという証明できるものがあれば、特例として報酬が支払われる。ただ、魔獣は生命活動の停止と同時に消滅してしまうので、写真や動画などに収めておく必要はある。
仮に先に大口で出会った少女、遊馬来希が水性の魔獣の情報を掴んで、駆除するため大口に訪れていたのであれば、ギルドよりもハンターズカフェに向かったほうが有益な情報が得られるだろう。
「それはわかったけどさ、これ見てよ、失礼しちゃわない?」
そう言って千寿流はハンターズカフェの入口にある看板を指す。
そこには“十四歳未満の入店をお断りします”と書かれていた。
魔獣狩りとして仕事を受けることが出来るようになるのが中学生、つまり最低でも十二歳以上である。そして最初の半年から一年は研修期間ということで、最低ランクの仕事しか受注することが出来ない。
能力者、能無しに問わず、基本的に誰でも魔獣狩りの資格を得ることは出来るのだが、事務的な面接は設けられ、あまりにも向いていないと判断されれば落とされることもある。
まあ、この辺りは命を懸ける仕事ということもあり、犬死にだけはしてほしくないというギルド側の配慮である。
これらはあくまでも形式として設けられているものであり、実際はそれ以下の年齢で勝手に活動している変わり者もいる。
また、面接の結果次第では補佐が必要と判断されればバディを組まされることもある。ただ、常に人員不足のギルドにとって、そういった部分に人を割くのは稀な話ではある。
話は戻るが、十四歳未満禁止という文句は、最低限情報交換をする価値のある年齢という決まりなのだ。
「あはは、残念だったね、君はここでジュースでも飲んで待ってるといいよ。はい、お金」
そう言って五百円玉を千寿流に渡す。
「え!?えひひひ、いいの、夜深ちゃん!ありがとっ!二本買っちゃってもいいよね?」
ちょうど喉が渇いていた千寿流は、入店を断られたことなど忘れて、嬉々として自販機を探して走り去っていくのだった。なんともチョロい彼女だが、あれだけ隙だらけだと一人で行かせて良かったのか、と心配になる。
「だいじょうぶだよ! ちずるは あれでも しっかり してるもん!いこ!ふたりとも!」
そう言ってシャルは一人スタスタと入口に続く階段を下りて行ってしまった。
「行こうかクラマちゃん。あ、一応年齢確認。十四歳以上だよね?」
「え、は、はい。十五で今年十六になります。なので、問題ありません」
クラマは千寿流が駆けていったほうを見ていた。どうやら彼女のことが心配のようだ。
「大丈夫さ、ここは治安の良いと噂される藤沢市だよ。千寿流ちゃんももう十歳だろう。ちょっとのお留守番ぐらい出来るはずだよ」
「そ、そうですね。はい、行きましょう、夜深様」
ハンターズカフェ『ベラトール』の入り口は階段を下った先、重々しい鉄製の扉の先にある。通路は大人二人並んでギリギリ通れるぐらいの幅しかない。
外観はいかにもアングラといった雰囲気だ。そういったこともあり、一般の客は好き好んで寄り付くことはないだろう。
「へえ、僕もこういう場所に来るのは初めてだけど、中の雰囲気は悪くないんじゃないかな」
扉を開けて初めに飛び込んできたのはちょっとした地下街。コンビニのようなお店から、書店、魔獣退治に使えそうな武器の数々を扱う武具店。また、照明も寒色で明るく、清潔感すら感じさせる造りとなっていた。
「こういった場所は初めて訪れましたが、さすが、ハンターズと銘打っているだけありますね。コンビニも書店もそちら方面の物が随分と充実しているようですよ」
クラマの言う通り、よく見るとコンビニには栄養剤や持ち運びに適した携帯食料、書店には魔獣関連の書籍が数を占めていた。
「カフェは むこうのさきに あるみたい!」
通路の先、突き当りに数人が座って会話をしているのが見えた。カフェは白と茶色を基調としたシンプルな空間にテーブルを置いた、おしゃれなデザインとなっている。
何も知らない人がいたのであれば、そのまま席に座り注文してしまうだろう。それ程に違和感を感じさせないデザインとなっていた。
昼間ということもあり、そこまで人が集まっている様子もない。とりあえず四人掛けのテーブルを見つけ腰を落ち着けることにする。どうやら一般的なカフェと違い、メニューはタッチパネルで注文する形をとっているようだ。
「よう、いらっしゃい」
一行が何にしようかと悩んでいると、注文も取っていないのに男が声をかけてきた。




