途切れた道2
切り立った崖の向こう側は土砂崩れで出来たのか、砕けたビル群が墓標のように折り重なり、鉄骨が肋骨のように空へ突き出している
それはかつて横浜市として栄えていた街並みの成れ果ての景色。それはあまりにも惨く、崩壊の際は多くの人間が犠牲になったことが窺える。きっと、当時の人が見たら地面に突っ伏して放心してしまうだろう。
地形が崩壊し、縫合されたこの世界では、その間にノイズがいくつも形成されており、正確な距離など測ることもできないが、海沿いの川崎から次の場所へ向かうにはこの崖の向こう側に渡るしかないようだった。
「う~ん、クラマちゃんが本当に向こうに向かったのか気になるよね? こんなのクラマちゃんでも渡れないと思うし。もしかしたらさ、もう三日月館に戻ってるのかも」
「ふむ、けど、シャルちゃんのスマホには彼女からの連絡はないんだろう? もし彼女が無事な状態なら連絡が来るはずだよ。それ以外の要因ももちろん考えられるかもしれないけど、“何らかのトラブルに巻き込まれて連絡を取ることができない”と考えるのが普通だ」
連絡がないということは連絡のできない状況にある。そうだ、だからここまであたしたちは来たんだ。
シャルちゃんも口には出さないけど、きっとどこかでそう思ってる。しれっと三日月館に戻ってる可能性なんて始めからないはずだ。
「あ、もし誘拐されたと考えても連絡がこなきゃおかしいから、その線はないかもね。亡くなってるって可能性はあるけれど」
さらっと怖いことを付け足す夜深。冗談でもそういうことは言わないでほしいのだが。
「あう、渡らなきゃいけないのか。じゃあどうしよ。あそこまで結構距離あるよね。シャルちゃん、夜深ちゃん、一回街まで戻ろっか? なんか梯子みたいなの買ってきてから渡るしかなさそうだよ」
一瞬シャルの顔がむっとなったのを横目で見て、話題を逸らすため、慌ててそう言いながら千寿流は向かいの山岳地帯を指さす。
距離にしておよそ二十メートルほど。工夫を凝らせば渡れない距離というわけではないが、近くにある瓦礫片や手持ちの道具では流石に不可能だというしかなかった。
「あ そうだ シャルル いいこと おもいついた! これ すごいことだよ! ぜんだいみもん!」
両手で握りこぶしをつくりながらシャルが言う。
「ちずる このまえの アニメでみたんだけどね。ふくを むすんで むこうがわに ひっかけるの! そうすれば それをわたって むこうまで いけるとおもう!」
前代未聞という割には原始的というか、素直に賛同できない方法だった。
そもそも、全員の服を合わせても距離が届くのかわからない。
よしんば距離を確保できたとしても、服などいくら伸ばしても耐久性を考えると安全とはいかないだろうし、途中で結んでいた服がほどけたり、破れたりすることがあれば、そのまま奈落へ一直線だ。
しかも、向こう側に上手く引っかけれるイメージも湧いてこない。正直なところ、アニメだから成立していただけでかなり危険な提案である。
とはいっても、ほかに良い方法が思いついたわけでもないので、とりあえずその方向で考えてみようとする。
「じゃあ シャルル ふく ぬぐね」
「う、うん。あ、上着だけねシャルちゃん。夜深ちゃんは?」
「僕はいいや。服汚れるし。君たちだけでやってみてよ」
脱いだ服を互いに結んだ結果、くるくると遠心力を付けて向かい側へ投げてみるものの、当たり前のようにまったく距離が届かない。具体的にいうと半分の半分も届いていない。
足りないのであれば足せばいいという安直な考えで、タイツやスカートも結んで試してみるもののやっぱり届かない。
というか寒い。あの雨の夜も相当な寒さではあったが、年が離れているとはいえ異性の前で下着姿になっていることからの羞恥心なども相まって、千寿流はよく分からない寒さを感じていた。
「うぅ、下は寒くて顔だけ熱い。なんか変な感じだよぉ。ね、ねえシャルちゃん、やっぱりほかの方法を考えようよ……」
そう言いながらシャルを見てみると、納得がいかないのか、あちら側に届かないか服の結び方など試行錯誤している姿が見える。「アニメでは できてたから シャルルにも できるはず」と真に受け、虚心に何度も試し続けていた。
シャルには恥じらいなどないのだろうか。下着姿で投げ縄の様に服を振り回す姿は、なんだかターザンのようで逞しかった。
そんなシャルを見て、気のすむまでやらせてあげたいなと思った。
(……っていやいや、それは困る困る。服返してくれなきゃあたし、風邪ひいちゃうよ)




