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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第九章 灰かぶりの少女は魔女の夢を観る
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明日の笑顔の為に

(今の音、動物なんかじゃない! 間違いないっ、魔獣(マインドイーター)の鳴き声っ!)


 洞窟の奥は、まるで肺の内側のように湿っていた。壁に張り付いた苔が、じっとりと光を吸い込み、天井から垂れる水滴がぽたり、ぽたりと一定の間隔で地に落ちる。音はそれだけ。あれだけ喧しく吹いていた風の音も聴こえない。


 ゴクリ――呼吸をすれば、すぐに空気が咥内を侵し、饐えたような不快な臭いが鼻腔を満たす。

 アリシアは、光を絞ったライトをビキニの紐に通し、音を立てないよう慎重に摺り足を運ぶ。靴底が氷混じりの泥を踏むたびに、足首を何度も何度も撫でる。それはまさに警告音。まるで洞窟そのものが彼女を引き留めようとしているかのようだった。


(……近い、ですね)


 それは感覚。空気の密度が変わったような気がしただけ。自分はベテランの冒険者でも手練れのトレジャーハンターでもない。経験則なんてまるで無い。けれど、覚悟は出来ている。懐に忍ばせている銀に光るナイフは、その未熟な覚悟をいつだって裏付けてくれている。

 やがて、通路の先が扇状に開け、黒い空間がぽっかりと開けた。アリシアは身を屈め、崖縁のような岩陰に身を潜める。


 洞窟の中なのに光が拡がっている。

 つまり、何かが“居る”。

 視線の先――広間の中央で、何かが蠢いていた。

 その“影”は、まるで闇の中から滲み出てきたかのように現れた。


 最初に目に映ったのは――赤。血流のように脈打つ赤い線が、黒一色の体表にいくつも走っている。狼に似たソレは狼であって狼ではない。それは異形。肩のあたりから不規則に突き出した骨の棘が、生理的嫌悪感を否が応でも押し付けてくる。


(っう)


 その威容に自身の意思とは関係なく自然と後退る。

 あれだけ息巻いていた覚悟は鳴りを潜めていた。


 ――キィン!

 一旦様子を見ようと後退を考えるアリシアの耳元に、場違いな金属音が鳴り響く。

 対峙している男、自分よりも小柄な少年がいた。自分と同じくらい、十五歳前後だろう。肩まで伸びたブロンドの髪、頬に泥。手には鉄パイプのような何か。息を荒げ、膝を震わせながら、それでも眼だけは獣から逸らしていなかった。

  アリシアは息を呑む。狼の体躯は成人男性ほどもある。少年の顔に浮かぶ焦燥。それはあまりにも無謀、逆転の様子など微塵もない。刺し違えるつもりだろうか? とてもじゃないが、勝機の無いギャンブルと言わざるを得ない。


(さっきの声はコイツのものですか。けど、あの魔獣(マインドイーター)の特徴は妹を殺した魔獣(やつ)じゃない。だから、わたしの目的じゃない。あの男の子、イレギュラーではありますが好都合です、見つかる前に退散しましょう)


 狼はその鋭い双眸を外すことなく、意を決めると少年が踏み込んだ。空気を切り裂く音。だが獲物は届かない。魔獣(マインドイーター)は姿勢を屈め、少年の足元に潜り込むと、腹部をその鋭い牙で喰い抉る。

 血が音を立てて床を打つ。悲鳴を押し殺しながら、少年の身体が折れる。唯一勝機に繋がるかもしれない鉄パイプは、痛みで手から離れてしまっている。絶望、そんな言葉しか見つからなかった。

 少年の背中越し、見なくても解る。彼は死ぬと。そして、あの少年のお陰で自分はこの場から安全に離れることが出来ると。


(本当にその選択(それ)でいいのか?)


 見ず知らずの誰かを救いたいなんて大義は持ち合わせてはいない。人は死ぬものだと思うし、ましてや自分の命を危険に晒してまで助ける気なんてさらさらない。

 少年は武器を持っている。恐らくは魔獣狩り(ハンター)の真似事。要するに魔獣(マインドイーター)の一匹や二匹、サクッとやっつけて小遣い稼ぎをしてやろうという話。言ってしまえば金銭目的。命を張る価値があると納得しての行動ならば自業自得だ。


(そうじゃない、と思う)


 助けることが出来るかもしれない立場にいる自分が、気づかれていないからと、それだけの理由で見捨てていいのだろうか?

 そうして逃げ帰った時、自分に納得できるのだろうか?


(いや、できない。アリシア・フェルメールという女はそこまで非情に成れない)


 だって、心までも見失ったら、もう本当の意味で笑えなくなってしまうから。


 思考よりも早く身体が動いていた。彼女は気づかれても構わないと岩壁を蹴り、最短で狼のもとへと駆けだした。次の瞬間、閃光が走る。アリシアの手に握られた短剣が、魔獣(マインドイーター)の片腕を裂いたと同時に軌跡に沿って爆炎が立ち昇る。

 倒す必要はない。怒涛の攻めで押し切って逃げる時間を稼ぐだけでいいのだ。


「宝石魔術。ぶっつけ本番にしちゃ、上出来ですよね!」

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