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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第九章 灰かぶりの少女は魔女の夢を観る
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わたしと雪と沙希

 洞窟の入口は思ったよりも暗く、そして予想以上に低く鋭い空気が流れ込んできた。雪原とはまた違う、種類の違う冷たさが剥き出しの肌を裂くように撫でる。洞窟の端には牙のように氷柱(つらら)がいくつも形成されており、まるで大口を開けた巨大な獣に吸い込まれそうな錯覚を覚える。

 気が付けば身体は震えていた。しかし、これは寒いからではない。日常と隔てられた異世界を目の当たりにした興奮。いわば武者震いのようなものだ。


「……ゴクリ」


「おいおい、ゴクリ、なんて声に出す奴初めて見たよあたしゃ」


 案の定、すかさずツッコミを入れてきたのは沙希。形式美を初っ端壊してくるのは彼女の十八番だ。“間”っていうモノをまるで理解してくれないのだ。


「ムッキーっ! こういうのは雰囲気が大事なんですよっ、雰囲気がっ! 沙希はそういうロマンっていうモノが、まーるで解っていないんですよ!」


 ロマンの欠片もない顔で腕を組んでいる沙希を前に、私はぷんすかと抗議する。


「ロマンで飯が食えるかっつーの。あたしは現実主義(リアリスト)なんだよ」


「はぁ、どこが現実主義(リアリスト)なんですか。わたしに付いてきてる時点で説得力ないですよ」


 その返しに沙希が一瞬むっとしたような顔をして、でもすぐにニヤッと笑った。


「まあ、そう言うなよ。アリシア、アンタといるとあたしはわくわくするんだよ」


「沙希……」


 それは嬉しい。素直に嬉しい。沙希はムードーメーカーとは少し違うが、わたしにも雪にも無いモノを持っている。なんだか顔が火照るのを感じる。風邪でないことを祈りたいが。


「あれなー、小学生の頃だったかな? 近所の友だちと集まって、お菓子に付いてきたオモチャを見せ合いっこした時のような、そんな感じが近いかね。いわばアンタはあたしのオモチャってことだよ。ほら、雪もそうだろ?」


 はい。照れたわたしが馬鹿でした。


「い、いえいえいえいえいっ! 玩具だなんてっ! そんなハレンチな!」


 雪がわたわたと両手を振り回す。耳あてがぴょこぴょこ揺れて、まるで雪ウサギのようだ。その様子があまりに可笑しくて笑いがこみ上げてくる。


「は? ハレンチ? どういう意味って――おいおい、なに想像してんだよ」


「いい、いえ! な、何もっ! そそそ、想像してませんっ!」


「雪はえっちな子ですからねえ。しょうがないですよ」


 顔を赤くして抗議をする雪に、わたしはにんまりと悪戯っぽく笑いかけた。ただでさえ上気している顔が、茹蛸の様に真っ赤になる。


「え、えっちじゃないですぅ!」


 わたしたちの笑い声が、雪原に小さく響いては、すぐに白い息の中へと溶けていった。日常を冒険に。けれど、わたしたちの本質は結局はこういうところにあるのかもしれない。

 くだらないことで笑い合って、ふとした瞬間に胸の奥が温かくなる。そんな日常の断片の積み重ね。だって雪も沙希も、わたしみたいに未知の領域を探索するのが何よりも好き、って性格じゃない。

 沙希は楽しければ何でもいいってタイプだし、雪は――


 うん。学校で少し嫌なことが続いて、ちょっとだけ逃げてきただけだ。最近、やっと笑ってくれるようになってきた。わたしは雪にもっと、ずっと笑っていてほしい。哀しい思いをするのはわたしだけで十分だ。

 沙希はそのことを顔に出すことはないけれど、きっと同じ気持ちなんだって、わたしは思ってる。


「なにアンニュイな顔してんの。らしくないね」


「い、いえ! 二人の事わたしも好きですよって思ってただけです」


 後ろ向きでしかなかったわたしに、生きる意味を持たせてくれたのは二人の存在に他ならない。


「雪の事だろ。大丈夫。アンタら二人はずっとあたしの友だちだ。この先どこ行ったってそれは同じだかんな」


 沙希が雪に聴こえないくらいの小声で耳打ちをする。ほらね、全部解ってるんだ。


「ほら、そろそろ行こうぜ?洞窟さんが退屈そうに鼾かいてら」


 先ほどから洞窟の奥から「ゴォォ」という、低く響く唸り声が聴こえている。雪は目を丸くして洞窟の入り口を凝視していた。


「怖いか?」


「は、はい。けど、大丈夫です。先輩たちがいっしょですし」


 雪は振り返りながら笑顔でそう答える。


「さて、じゃあ()きましょうか!」


 わたしは息を整えてから、背負っていた鞄からライトを取り出し、カチリとスイッチを入れた。柔らかな光が洞窟の壁を照らし出す。白い氷の層が淡く艶やかに反射して、まるで鏡の世界に迷い込んだようだ。

 目の前に広がるのは、未知。血の通う躰で踏み出し、既知へと変えていく。この眼で視た全てが新しく、同時に過去へと変化していく。その移り変わりは言葉で表すことの出来ない、一瞬の美しさが存在する。言葉はいらない。瞳の奥で録画するように一歩、また一歩と踏み進める。

 それは未知成す雪洞(せかい)。冷たくも美しい静寂(しじま)。誰の足跡もない、暗闇に融けるような真っ白な黒。

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