煌びやかな世界の中に浮かぶ寂しさ
AIや近代技術が発展して以来、ホテル業界は変化を繰り返してきた。少子化や、魔獣の出現による人材流出。地区から地区への交通の断絶による客層の変化、それに伴うマニュアルの改正。
他にもトラブルは絶えないのが人間と云うもの。言いたくはないが、マナーのなっていない客なんてのはごまんといる。日々日常が機械化していくに伴い、ホテルに従事するという文化は失われていったのだ。
完全に無人化という段階まで多くの時間を要してきたが、都心のホテルなんかはどこも無人化の体制を取り入れているところが多い。管理の難しい食事などのサービスは行っていないところも多く、その為、小規模なところでもキッチンなどを導入している。昨今のホテル事情は快適な滞在をサポートするサービス提供、という姿勢から大きく変化しているのだ。
「風太君はホテルにあんまり泊まらない?」
「地元にいた時はもちろんねえが、最近はちょくちょく厄介になってるかもな。オレとしちゃ休めりゃそれでいいんだ。ギルド管轄んとこもある。別段気にしたことはなかったな」
「そうなんだ。でもま、気にしてみるのも悪くないよ。こういう生活に根付いた経験ってのは、さりげなく披露できるとモテるよー!ほら、将来君が結婚する時とかさ」
「はん、悪ぃが興味ねーな。くだらねえ柵に縛られて生きてくなんざ狼の名折れだぜ」
そう言い切るとそれ以上会話をする気はないと言わんばかりに、風太は部屋から出て行くのだった。
「あれ、風ちゃんどこにいっちゃったんだろ?」
「風太の事ですし、たぶん、修行にでも行ったんじゃないですかね?」
深白木町の治安は良い。
大きな都市ではあるが、それ故に防犯に関しての意識が高く、その庇護が隅々まで行き届いている。目につくだけでも、軽犯罪の温床、いわゆる暗い路地裏などはない。街の至る所に設置されているセンサー内蔵付きの防犯カメラが人間による犯罪を防止。それだけでなく、外から現れる可能性がある魔獣の対処にも、いち早く対応できるように体制が取られているようだ。
そもそも魔獣の性質上、テリトリーを無視して街中に現れるというのがイレギュラー。もし仮に現れたとしても、地区毎に管轄しているギルドの魔獣狩りが迅速に対応に当たる。
当然、一般市民が目の当たりにすることはない。事故が起きれば、事件に、事件が起きればそれだけ人件費が嵩む。プライバシーという意味ではいささか行き過ぎた側面もあるが、深白木町ではそういった予防を徹底的に行うことで、無駄な資金の流出を防いでいる。
それに対し、確かに不満の声は上がった。だが、何の経験もない一般市民が魔獣と相対した時、丸腰では話にならない。素手で熊と向き合うようなものだ。そして紆余曲折の末、賢明な考え方ではあると、なんとか納得してもらうことが出来た。
(緊張感ってのがまるでねえ。魔獣に縛られない生活が人の心を豊かにする、ね。フン、幸せなもんだぜ)
風太は初めて訪れた街を散策しながらメインストリートへと足を踏み入れる。まるで街全体が巨大なアミューズメントパークのような煌びやかさと華やかさで包まれていた。
通りの両脇には、最新型のAIホログラム広告が浮かび、歩く人の顔をスキャンしては一瞬で性別、年齢などを判別し、おススメの商品を切り替える。高層ビル群の窓面には、透過スクリーンによる映像が投影され、空全体が色彩を持つ巨大なキャンバスのようだ。
ただ惜しむべくは、そこまで煌びやかな光景をさらに彩る人間が足りない事。疎らというわけではない。少ないわけでもない。
ただ、昔見た教科書に載っていた二百年前の東京には、道を埋め尽くすレベルの人間が存在していた。それと比べると、賑やかの中にどこか哀愁を感じざるを得なかった。




