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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第九章 灰かぶりの少女は魔女の夢を観る
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水と油

「えひひ、あたし、夜深ちゃんにさんせー!」


 夜深の提案に同意した千寿流が両腕を伸ばすと、白い息がふわりと空に溶けていった。吹雪は少し落ち着いていたが、頬に触れる風はまだ痛いほど冷たい。いくら道路に発熱機能が備わってるといっても、それはあくまでも除雪目的であって、暖を取るためのものではない。


「ふー、わたしも賛成ですねえ。寒さには強い方ですけど、夜はさすがに冷えてきますよ、ね?」


「……」


 アリシアが身体を抱きしめながら、二人に目線を送り同意を求めるが、その場違いな格好に男性陣は自業自得だろという無言で返すだけで、同意する者はいなかった。


「ねえ、見て見て!あっちに煙出てるよ!」


 千寿流が指さした方向に目を向ける。鉛色の雲がいくつもの層を織りなす先、木造の建物群の間から薄く白煙が立ち昇っていた。夕暮れの光を映した煙は、まるで凍てつく空に小さな傷をつけたように揺れている。


「煙突?何があんだ?」


 煙突があるからなんだ、とでも言わんばかりに投げやりに返す風太。


「わかんない!けど、たぶん食べるところがあると思う!なんか、そんな気がする!」


「いえ、わたしには分かりますよ!あれは間違いなくレストランが近くにある匂いです!そうに違いありません!」


 そう言うと二人は返事も待たず、駆け出すように先に行ってしまった。


「あらら、行っちゃった。あの二人、なかなか相性が良いみたいだね。傍から見ていて微笑ましく感じるよ。風太君、アリシアちゃんとはどこで知り合ったんだい?」


「あ?フェルメールのことはよく分からねえよ。いちいち詮索する気はなかったからな。知りたいならあいつに直接訊けばいいじゃねえか」


「はは、それもそうだね。でも名うてのトレジャーハンターなんて心強いじゃないか。経験者の嗅覚っていうモノは、ちょっとやそっとで身に付くものじゃないしね」


「ああ。それにアイツはフィジカルも悪くねえからな」


 アリシアとの共闘。砂漠地帯での魔獣(マインドイーター)との戦い。風太はその全容を視ていたわけではないが、生半可の度胸ではない、生きるための底力を垣間見た。あそこまで戦うことが出来るようになるまで、相当の実践を経験してきたに違いないと確信していた。

 その全ては楽しい事や辛い事、言葉には語り尽くせぬ壮大な背景があるのだろう。風太はその片鱗すら嗅ぎ取っていた。だから、必要以上の詮索をする気が起きなかったのだ。


(……アリシア、フェルメール?)


 物陰に潜む、純粋なる害意という名の悪意。

 そう、中には知らずのうちに恨みを買うこともあったかもしれない。


「あ、もう影が視えなくなっちゃったね。じゃあ、僕たちも行こうか、風太君」


「っち、しゃーねーな」


 歩を進めるごとに、町の輪郭がはっきりとしてくる。通りには石畳の隙間から湯気のような靄が立ちのぼり、暖炉の匂いと焦がしたスープの香りが鼻をくすぐった。どこかの家の窓からは、橙色の光がもれている。雪景色に浮かび上がるその灯火は、まるで氷の大海の中に建てられた灯台のようだった。


「じゃあ、風太君。君はさ、千寿流ちゃんのことはどう思ってるの?」


 夜深はギシリギシリと地面に足跡を作りながら、隣にいる風太にそう問いかける。


「あぁ?どういう意味だ」


「どうもこうもそのままの意味さ。彼女は幼い。そして弱い。けれど、この世界は残酷だよ。ドラマのように道筋が決められているわけでもない。残酷は人の心を殺す。断言してもいい。彼女はこの旅で命を落とす。必ず、ね」


 “命を落とす”という言葉にピクリと眉間の皺寄せ、風太は無言のまま夜深の顔面、数センチのところに拳を突き立てる。その形相は怒りを含みつつも、果てしなく冷酷で、どこか剃刀のような鋭利さがあった。


「アンタは信頼されてるみたいだからな、今の発言はこれでチャラにしておいてやるよ。もう二度とふざけた口を開くんじゃねえ」


「逃げるのかい?」


「あぁ!?」


「僕の問いに君は答えていない。彼女をこのまま連れまわしてもいいのか。って訊いているんだよ」


「うるせー。アイツはオレが守ってやんよ。そう決めたんだ。オメーは自分の事だけ心配してろ」


 夜深はその言葉を聴いて少し考えるような仕草を取った後、クスリと小さく笑った。その笑みは小馬鹿にしたような笑いではなく、純粋な善意から零れたモノ。少なくとも風太にはそう思えた。


「ふふふ、ああ、なんか風太君らしいね、ソレ。うん、良いよ、良い。なんだか、ますます君のことが好きになれそうだ」


「っけ、オレは嫌いのまんまだよ」


「そりゃ残念だなあ。僕は結構、本気で言ってるんだけどね。ほら、そろそろ行こうか。千寿流ちゃんたちが待ってるよ」


 夜深の軽口に、風太は小さく舌打ちをして前を向いた。“善意を感じた”といっても、風太にとって夜深という存在は、理解の出来ない対象であることは変わらない。敵か味方かそれすらも判らないまま。捕らえようによってはあれやこれやとただ煙に巻いて、ただ人を小馬鹿にしているだけの暇人にも見える。というよりそれが本質。

 けれど、その奥の奥、もっと深い場所で渦を巻いているのは闇よりも昏い黒。吐き気を催すような酷く悪意に満ちた念。その輪郭を微かに感じ取る。鬼竜院夜深(このおとこ)は危険だと、風太の生まれ持っての獣の勘がそう繰り返し呟いていた。


「……」


 風太は疑心に満ちた眼差しで、先を歩く夜深の視線の先を追う。

 雪を踏む音だけが道に証を残す。風太が思慮に耽るの中、千寿流とアリシアの笑い声が遠くから響いていた。

風太と アリシアの共闘はep.205~になります。

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