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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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餞の夕焼け

 ぼくたちは幼いまま。見渡す世界はまるで拙いまま。


 人は人違える者を厭い合い、憎しみ拒絶する。

 ならば魂は何を望めばいいのか。誰に赦しを乞えばいいのか。


 青の反対が赤く染まるように、世界の在り方は反転する。

 誰にも看取られないまま、誰にも気付かれないまま、ただ還り、ただ安寧へと。

 けど、そうであってほしくないと、心のどこかでずっと思ってきた。


 朽ち往くキミに見たのは、あの日の面影。

 ただ助けてあげたいと願う少女と運命を祈る少年。


「……ッ!……ァッ!!」


 決別の一撃。

 森全体を揺らすほどの衝撃。その衝撃が彼の胸を焼き尽くしても、断末魔をあげることはなかった。


虚返し(インバーネイバー)』は相手の嫉妬(もと)めた形を具現化する、相手の渇望する欲求が大きければ大きい程に力を増す、因果応報を体現したような技。

 魔獣(マインドイーター)が望む理想の形。誰かに肩を並べ、誰かに終わりを与えられる存在。奇しくも、その悲願こそが彼自身の終幕を導く刃となった。

 それがかつての彼女だったことは、彼にとって救いになったのだろうか?


「……」


 チリリと焦げ付くような音が耳元を掠める。空気そのものが焼き切れるような、非現実の残響。虚返し(インバーネイバー)によって刻まれた深い裂け目が、魔獣マインドイーターの身をじわじわと蝕んでいく。

 あれだけ強固だった肉体も、今はその大半が抉り取られ微かに震えるだけだ。身体の至る所から血とも涙ともつかぬ黒い靄があふれ出し、夜気の中へと滲み溶けだしていく。


 それでも、彼はまだ立っていた。膝を折ることもなく、ただ、真っ赤に燃える眼差しだけを嘘真朧へと注ぎ続ける。

 それは怒りではない。憎しみでもない。ただ、静かに――結末を受け入れるような諦観だけがあった。


「……ごめん」


 それは幼子を寝かしつける母のような声。嘘真朧の小さな唇から漏れた声は、ひどく優しかった。


 自身の為すべき責務。傷つけられた仲間。救われなかった彼。不安定な天秤は彼女の中できこきこと頼りなく揺れ続けた。

 かつてあの日、公園で声をかけられなかった自分の幼さを。いまさら悔いても遅いのは理解している。けれど、悔いは消えてくれない。寄せては返す漣のように、胸の奥で重く疼き続ける。

 彼女の頬を一筋の涙が伝う。やり切れない思いでいっぱいだった。

 どうしてこんなことになってしまったのか?自分がした行いは間違いではなかったのか?他に選択できる余地は無かったのか?もし自分が未熟でなければ全てを救えたのではないか?

 いくら考えてみても、その答えが見つかることはなかった。


「ぼくがキミに向けてる感情が何なのか、ぼく自身も、よく分からないんだ」


 震える声で言葉を紡ぐ。彼の耳へと届いたのだろうか、魔獣(マインドイーター)の喉が微かに震えた。声にならない。だが、それは確かに嗚咽に似ていた。


「最後まで独りで戦わせて、ごめん。助けてあげられなくて、ごめん。赦して、なんて言える立場じゃないけれど、ごめん」


 嘘真朧が指先を伸ばすと、彼の身体が淡く光を帯びる。いつもと同じ、生命活動を終えた魔獣(マインドイーター)が霧となって消えていく現象。けどその光は漆黒に塗れても、なぜか温かかった。


 抱きしめようと触れると、彼の体躯は音もなく一層溶けていく。

 何故だろう。彼の口元が微笑んだような気がした。

 溶けた残滓は風に乗り、空に還っていく。

 それはまるで――「ありがとう」と告げるかのような、静かな旅立ちだった。


 ――静寂。

 戦いの音も、咆哮も、もうどこにもない。残されたのは嘘真朧一人だけ。彼女はほんの少しだけ笑みを浮かべた。だがその瞳には、耐えきれず涙がにじんでいた。


挿絵(By みてみん)


「……おやすみ、名前も知らないキミ。次は、きっと――」


 言葉の続きを口にすることはなかった。日が落ち始めた夕闇に溶けるように、嘘真朧の声もまた消えていった。

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