嫉妬喰い『Envy Eater』
「『Envy Eater』は嘘と真。表裏一体。自身と相手との距離で性質が変化する」
そう語る嘘真朧の姿が一瞬で目の前から消失する。先ほどと同じ、正体不明の超常現象。嘘真朧から一言、異能の開示を聞いても本質は見抜けない。故に辺りを見渡す魔獣だったが、一向にその姿を捉えることは出来なかった。
「基準となる距離のある程度はぼくの裁量次第。得られる性質の変化は相手が望み“嫉妬した事象”」
少しの間を置いてから、今度は背中側から声を掛けられる。
「ぼくの異能には二つの特徴がある。この異能の元々の性質として、ある存在を対象として、近づけば知覚することができ、一定の距離が離れれば知覚から消失する。これが一つ目。ちなみに、この場合の対象っていうのはつまりキミの事」
魔獣は自身に並び立ち、自分という名の怪物を認め、引導を渡してくれる存在を求めていた。息をする存在意義を示す為、ただただ求めていた。
「その性質とは別に、ある一定の距離内に近づけば、ぼくはキミが嫉妬する性質に。ある一定の距離を離れれば、その逆。まあ、これはなんていうのかな。嫉妬の反対は無関心。つまり、“何も起こらない”だよ」
そう言い終えると再び嘘真朧の姿が目の前から消失する。何の前触れもなく、それは手品でも魔法でもない。ただ、存在が、価値観が透明になる様に消え去った。例えそこに立っていたとは脳内で理解できても、音も気配もニオイもない。そもそもそこに至るプロセスそのものが消失しているので、頭の中がバグったような感覚に捉われる。
その非現実的な光景に魔獣は絶句し立ち尽くすのみ。理解しようと務めはしたものの、その現象に頭の回転が追い付かない。目の前の事象を、受け入れることは出来ても、次自分が何をすればよいのか、何をすれば自身の勝利に繋がるのかがまるで分からなかった。
(皮肉だよね。ぼくもキミも生きているだけ。それだけでよかったのに。頑張って、努力してもやっぱりどうにもならないなんて。こんなことになるなら、あの日、あの公園で終わりにしてあげればよかったんだ)
込められたのは憐憫の感情。人を傷つけることでしか己の存在意義を見出すことの出来ない、憐れな生物への葬送曲。
“いいんですか?タトゥーって消えないですよ?そりゃまあ、一介の彫師であるオレがあれこれ言う話じゃないですけど”
“ありがとうございます。ツカサくんにはいつも感謝してます。愚痴の付き合いとか、男性の好みそうなもの相談とかね。……それに、いいんですよ。この仕事に就くって決めた時から考えてたことですから”
“……仄火、さん”
“あと、今は仄火じゃなくて、嘘真朧です。仄かに残った埋火も、とっくにあの公園に捨ててきたんで”
そう、捨ててきた。守りたいと願ったこの想いも、何もかも、全て。
もう、繰り返しちゃいけない。もう、繰り返させちゃいけない。喋ることも泣くことも出来なかったあの日のキミ。
抑えられない本能も、感謝も、恐怖も、後悔も、恨みも。キミのたった一つの願いを叶えるため、ぼくはキミを救う。
「……今はそう思うよ。ぼくは――」
脊髄反射で動く。魔獣はぼくの言葉を遮るように、大袈裟に地面を抉りながらこちらに突進してきた。もう、その光景だけで胸を焼く。彼は怒りの感情を露にしているけれど、その内心、泣いているんだって分かる。
“無”とは文字通り何も“無”い事。その存在の姿形、発せられる、音、ニオイ何もかも、果ては認識さえも朧となり、希薄となる。だから、彼は見誤った。ぼくの姿を幻だと推測し、相手の脳内に左右する力だと決めつけた。
【「ッ!?何故だ?何故通らない?」】
さすがだね。
姿が消失したぼくの存在、その足運び、身体の角度、靴の向き、身体能力、ありとあらゆる要素を考慮しての偏差攻撃。一定の距離が離れれば性質の変化が起きるというのなら、ゼロ距離まで詰めてしまえばいい。
この異能においてゼロ以下の数値は存在し得ない。それに裁量といっても自由自在というわけではない。だから、どれだけ性質の変化が起ころうとも、肉薄したのなら無意味と化す。
【「姿を完全に捉えて尚ッ、攻撃が“通らない”ッ!?」】
キミの眼にはたしかにぼくが映っているだろう。確かにその理屈は間違っていない。
けど、そうじゃない。キミの場合は違うんだ。キミはそれはもう理解しているはずだよ。ごめんよ、それすら分からない程に、壊れてしまっているんだね。
肉薄されたということは肉薄したと同義。キミの嫉妬をぼくが享受する。
「虚返しッ!」
ゼロ距離。吐息さえ触れ合うその場所で、嘘と真実が交差する。
それはキミの求めたキミの形。
Envy Eaterの説明分かりづらいと思います。
対象からの認識から消えるので一対一での逃走はほぼ100%成功します。
また、真の性質はあくまでも望みではなく嫉妬です。
言いたいことを文章化するのも難しかった・・・




