最後の問いかけ
「微かに音が聴こえますね。この音、もしかして……」
「あ!全豹さん!ほら!見えてきましたよ!あれが最初に潜ったトンネルですよ!たぶん」
和也の言葉を遮るようにミルが指差した。
前方に現れたのは古びたトンネル。しっかりと確認はしていなかったが、行きに通ったトンネルの一つだろう。行きと同じであれば、あと二つこれよりも距離の少し長いトンネルが現れるはずだ。
思えばトンネルを複数回通る必要があるという地形自体随分と変わっている。この辺りも昔は人が利用していたのだろうか。
「ミルさん、ここで待った方がよくありませんか?」
和也の視線は真剣そのものだ。先ほどの死闘。ミルと魔獣の戦闘が彼の心境を毅然としたものに変えていた。けど、ミルから見ても彼には圧倒的に経験値というものが不足していた。
「はぁ、何回も言ったじゃないですか。そりゃ、そうしたいって気持ちは解りますよ?けど、全豹さんが担いでるお二人。早く診てもらわないと危険って解るでしょ?」
「……」
想いだけでは何もなし得ない。それも痛いほど痛感した。魔装の適性は男性よりも女性の方が適性が高いと証明されている。それは生まれ持っての遺伝情報が違うとか血が違うとか、そういう話。
だから、“男”だてらに少しばかり強力な魔装が扱えると、周囲には持て囃されてきたのだ。
けれど、しょせん井の中の蛙。今は守ってもらう側の存在。仮に万全な自分が助けに入った所で何の役にも立たない。いや、それだけならいい。足手纏いと邪険にされる可能性の方が高いかもしれない。
つまるところ、自分如きでは嘘真朧の、『レギオンの団長』を心配するレベルにも達していないのだ。
「すみません、ミルさん。急ぎましょう!」
「はいっ!」
ミルは短く頷き、追っ手からの奇襲に対応するため殿につく。
和也に悟られぬよう、ちらりと後ろを振り返る。遠くで微かに響くのは連鎖する爆発音らしきもの。随分と距離が離れているはずなのに聴こえてくる。
これはミルにとっても想定外だった。心配するな、というほうが無理な話だった。
(団長、絶対死なないでくださいよ。団長がいなくなったら『嫉妬』の団長やってくれる人、いなくなっちゃいますからね!アタシちゃん、団長の代わりなんて絶対にイヤですからね!)
__共存は、やっぱり諦めきれないんだ。
けど、世の中思い通りいく事の方が少ない。雨だと信じて傘を持って出たのに、茹だる様な日の光に炙られたのは数えきれないほどの経験がある。畢竟、右と左、どっちを選べば正しいなんてことすら、ぼくたちは分からないんだ。
今日だってそう。何事もない一日になる筈だった。ぼくとミルちゃん。水無月さん、全豹さん、炎堂さん。彼らとの二次試験。
正直を言うとね、ぼくは彼らの力を既に認めていた。だから、誰かを選んで誰かを落としてとか、そんな面倒なことは考えるつもりはなかった。形式的に力を見て、それでおしまい。全員に合格を言い渡して、あとはどこか美味しい物でも食べに行けたらな―、なんて考えていたんだ。
そりゃ戦力的に見たらみんなまだまだだよ。チーム戦で何とか不器用に形にできただけで、個人戦と仮定したら戦力外もいいトコ。けど、粗削りでいい。魔獣と戦うだけがレギオンじゃない。あとはゆっくり時間をかけて『嫉妬』色に染まっていってくれればいいと思ってたから。
けど現実はどうだ?報告に無い魔獣との遭遇。皆傷を負った。こんなの団長失格だ。戦いの最中も勝たなきゃって思いと、勝ったとしても、って思いがごっちゃになって、気分が落ち込んだままだ。
もう、解ってるんだ。解らないフリをしてきただけ。
こんな落ち込んだ気持ちのままだから、“彼”も怒っているのかもしれないな。
そう、こんなんじゃダメだ。
もう“終わりにしなきゃ”いけない。
決別の時だ。
「ねえ、いい?今からぼくはキミを倒す」
その言葉に魔獣の放つ気が一瞬歪む。それに応じるように眉間を走る血管がドクンと大袈裟に脈を打つ。それは恐らく、嘘真朧の言葉を侮蔑と捉えられたからだろう。
「けど、一つ提案だよ。ぼくがもし、キミを逃してあげると言ったら、キミは彼らを殺すの?」
地表に亀裂が走る。稲光が走る様に、大きな音を立てながらぼくの足元までその手を伸ばす。それは疑うまでもない否定のしるし。
【「当然須らくッ!凡て鏖殺だッ」】




