二人の宝城ミル4
ミルは最初の一撃の時点で魔獣たちにある程度の俊敏さ。状況を確認し処理するだけの知能が備わっていると認識していた。なぜなら負傷者を二人も抱えている和也ではなく、ミルにだけ狙いを定めたからである。それも三十を超える魔獣たちが示し合わせることもなくだ。
つまり、個々が状況を処理するのではなく、あらかじめ戦闘パターンの様なものが仕組まれていて、それに沿って動いているロボットの様なものだと考えた。もちろん、言うまでもなく司令塔となっているのはあの三つ目の魔獣だろう。
初撃、魔獣の群れを通り抜けたときのヤツらの反応速度。あれはどう考えたって獣のそれじゃない。決められた行動を決められた通りに動く融通の無さを感じたのだ。
躱せたのに躱せない攻撃。躱せるはずのない攻撃を躱した動き。ともすれば簡単、あとは誘いこんでやるだけだ。そう、嵌ったら抜け出せない蟻地獄へと。
「っ!」
側面から迫る影を察知してミルは飛び退くように体を捻る。彼女が目を向けた先には攻撃を逃れた魔獣がまだ十以上残っていた。その身体には傷一つなく、先ほどと同じように鋭い牙を差し込んだ木漏れ日がお前を殺してやるとギラつかせていた。
(確かに今の攻撃で全部潰したはず。つまり、やられたその場で再生。いや、数が減っているところを見るに、それぞれの欠損した部分を補い合って形を作り直したってところか)
その実態だけではなく戦う意思ごとしっかり刈り取ってやっても、細胞を組み替えて脳味噌ごと再構築しているわけだからてんで意味がない。この魔獣の在り方は宝城ミルにとっての天敵とも云える存在だろう。
地面に潜り込んでいた鎌を手元に引き戻す。しかし、もう鎌が地面を抉るようなことはなかった。断頭の光纏鎌刃により地面を抉ったのはあくまでも異能に深層に潜む“魔女の意志”。ミルはその意思を汲み取って戦いに組み込んだに過ぎない。
通常、“魔女の意志”とやらをミルは感知することはないが、今のミルは感情の一部を魔女の鎌に喰わせている状態だ。より深いところで繋がっている、ということなのだろう。
視界を覆っていた砂煙も随分晴れた。こちらが認識すると同時に襲い掛かる魔獣の群れ。休む暇はない。
「あー、もう時間か」
あれから何度も斬られては再生する魔獣達を刈り続けて数分。ようやく最後の一匹の脳天に鎌を突き刺し終えるや否やミルが言う。
「え?」
「ごめん、少しふらつくけど心配ないから」
ミルが頭を押さえ天を仰ぐような仕草を取ったと思ったら、二歩三歩ふらつくように後ずさった。まるで熱射病にでも当てられたかのように額を押さえ、彼女の足取りがぐらりと乱れる。
「たか――ミ、ミルさん!」
和也の呼びかけにもミルはすぐには応じなかった。ぐらつく視界の中で、まるで別人のようにその場に立ち尽くしていた。だが数秒も待たずして、彼女の目の奥に冷静さが戻ってくる。
「あーうー」
「その……」
「あー。んー、はい、大丈夫です。えっと、すみません、急すぎて驚いちゃいましたよね?でもちゃんと説明している暇もなかったんで」
「ああ、いや、それは別にいいんですが。本当に大丈夫なんですか?」
「はいっ、本当に本当の大丈夫です!」
ぺろっと舌を出して笑ったミルは、いつもの口調に戻っていた。先ほどまでの静謐な狂気を帯びた戦闘の表情ではない。これが感情を刈るということだろうか。前もって説明が無ければ、その変わり様は別人だと勘違いしてしまうはずだ。
「さあ、まだ終わってないですよ!魔獣さんがいなくなってからが本番ですからね!お二人の事、絶対に助けてあげましょうね!」
しかし、その瞳の透き通るような水色は変わらず彼女のままだった。




