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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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火種

 振り上げられた狂気が、大地を裂く勢いで振り下ろされる。


「はぁっ!……がぁふ!」


【「……」】


 間一髪、力を振り絞って転がすことで何とか攻撃を躱す。しかし、それが精一杯。魔獣(マインドイーター)の額に一筋の血管が浮き出るのが視えた。次は本気で摘み取りに来るはずだ。


(すまない……俺は)


 眼を閉じる。情けなさと、悔しさと、ほんの少しの安堵――諦めてしまった心が慰めるように頭を撫でる。ドクドクと脈を打つ。全身に巡るのは、血液じゃない。それは未練と、自嘲と、届かなかった想いの残滓。

 再び、風を切る音がした。しかし、それはいつまで経っても死を告げることはなかった。


【「__ッ!?」】


「……ぇ?」


 空気が温度を持って滲み擦れる。ブレたように歪んだ視界の中に一人の少女が立っている。


「やっほ」


 こちらを向き手を振る少女。宝城ミルだった。


「あなたは……宝城、試験官」


「へへへ、試験官なんて改めて言われると照れますね。っと」


 抉れる地面。飛び散る泥の礫。魔獣(マインドイーター)の確殺の威力を持つ拳を、彼女は寸でのところで避ける。


【「お前は、なんだ?」】


「目を視るなッ!ヤツの目にはッ!」


「ぅっ!?あ゛あ゛ッ!?うぐ!」


 魔獣(マインドイーター)の魔眼を直視してしまったミルは、突如襲い来る激痛に頭を押さえ後退る。その様子に勝利を確信した魔獣(マインドイーター)は、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと彼女に歩み寄る。


【「くだらない」】


「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!おぐぅゥ!?」


 目の前には痛みに狼狽える羽虫一匹。その命を摘み取る作業に興などはまるで無く、酷く退屈だった。だから、あまりにも退屈過ぎて少し躊躇してしまったのだろうか。


「なーんて、騙されましたぁ~♪」


 その瞬間を見逃さない。瞬時に鎌を顕現させると、ミルは煽りついでに勢いに任せて鎌で一閃に薙ぐ。


「べぇ!反射神経だけはいいんだから。そこは大人しく食らっておくもんでしょーが」


 間一髪でミルの攻撃を躱し、バックステップで大きく距離を放す。身体能力に優れる魔獣(マインドイーター)にとってミルの攻撃は、不意打ちといえど取るに足らない児戯の様なもの。

 しかし、そのミルを睨みつけるその表情は余裕とはかけ離れていた。

 何も考えず、その逞しすぎる両腕で殴殺してしまえば良いだけなのに躊躇する。それは知能を持ってしまったが故の弱点。フィジカルの時点で確実な優位性を確立しているにも関わらず、理解を超えた現実に思考が停止したのだ。


「三つ目という時点で魔眼の類ってのは解ってた。可能性として催眠や麻痺とか、まーそんなとこ。だからミルちゃんに“感情を殺させた”」


「苗鳩試験官っ!」


「しー。逃げるわよ。この状況、どう考えたって分が悪い。キミ、水無月さん担いで」


「そ、それは……」


「大丈夫、キミの心はそんな感情でつぶれるほど柔じゃないよね?」


 嘘真朧はそうぎこちない笑顔で手を差し伸べる。いや、その微妙過ぎる表情は果たして笑顔と呼んでいいものなのか?きっと人と触れ合うことを、極力避けてきたんだろうなと思った。和也は慣れないその様子に思わず苦笑する。

 その面影がどこか自分と重なる。本能のもっと奥のところで理解する。その手がとても暖かく見える。ただ助けるためだけに伸ばされた気持ちがそこには在った。だから、和也は初めて心を許すことが出来た。


「ぎゃぶっ!?」


 差し伸べられた手を掴んだ瞬間、ものすごい勢いで何かが横を通過していった。


「ヤバいっすよアレ!?てか団長!なんでアタシちゃん一人に任せて、なーにこんなところで恋愛ドラマ展開してんですかッ!?」


 起き上がりながらミルが悪態を吐く。凄い音がしたが、何とか受け身は取れていたようだ。


「はぁ?いやいや、そんなことしてないって」


「そ、そうですよっ!俺は……って、あれ?」


 和也は上体を起こしてようやく気付く。痛みがない。あれだけ激痛を発していた全身が溶ける様な痛みは、いつの間にか鳴りを潜めていた。


「あ、全豹さん気を付けてくださいよ!痛みが無いのは“痛みを感じていないから”だけなんで。傷はそのままですし、張り切り過ぎると死んじゃいますからね!」


 痛みを感じないだけ。なるほど、そういう力なのか。和也はミルの言葉と自身の腕から流れ出る血を見て瞬時に理解する。恐らく疲労や恐怖心もコントロールできるのだろう。ともすれば――


「二人は俺が担いでいきます。大丈夫。俺は何もしていません。体力も有り余ってる」


「へ、へー。って、ほんと無理しすぎると死にますよ!?」


 ミルの言葉を無視し二人を担ぎ上げる和也の瞳に迷いはない。その燃え滾るような輝きは、仲間を傷つけた後悔と懺悔を火種として揺らめているのだろう。その頼もしい背中を見て、まるで別人を見ているようだと嘘真朧は思った。

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