再び力を合わせて2
魔獣が蔓延る森に三つの足音が軋み合う。
縦に並ぶ隊列の先頭に炎堂アリナが立つ。九嵐は必然的に視野が狭くなる先頭には、持ち前の異能により、臨機応変の攻撃を展開できる彼女が適任だと判断した。
彼女の持ち味は熱を放出することによる攻撃、防御の対応力。そして唯一魔獣狩りとしての経験値がある彼女は、魔獣の気配をいち早く察知する感覚が養われていると考えたのだ。
中間には水無月九嵐。予想外の事態にも互いに指示を出し、即座にサポートに入ることが出来る位置取り。また、左右どちらにも気を配らなくてはいけない最重要のポジションだ。
指揮を執るにはまだ未熟かもしれないが、彼の眼差しには「何が何でもやり遂げる」という強い意志が宿っていた。
殿には全豹和也が立った。和也の魔装による遠距離攻撃は、後衛からでも左右に飛び出して即座に攻撃に移ることが出来る。何も攻撃だけが手段ではない。直接狙い定める必要もない。これはチームプレイ。前衛が発見、対処しきれずに漏らしてしまった残党の退路を塞ぐことが出来ればいいのだから。
和也の魔装の欠点として液解転換に掛かる遅延が考えられたが、その欠点を見事補完した考えられた隊列だった。
「流石は水無月さん。あの短期間で私たちを分析して、ここまでの隊列を組み立てるなんて。やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」
「……」
アリナは進行しながら後ろに並ぶ九嵐に賛辞の言葉を投げかける。しかし、彼からの返答は一向に無かった。
(そっか、声はどちらからも通らないんだっけ?慣れないわね、これ)
前方に立つアリナは会敵した時、魔獣からの反撃を受ける危険性が一番高い。その可能性を減らすため、予め九嵐の異能 静寂回廊『Calm Belt』によって、アリナの位置まで届く範囲で無音空間を形成していた。
やり取りは後ろ手のサインでのアリナからの一方的な指示。敵の位置、距離、数を瞬時に伝えられるよう事前に決めておいた。
これはアリナに降りかかる危険から身を守るだけでなく、彼女の安定しない出力のサポート、また、注意を後方の和也に集中させるためのものだ。いくら魔獣が素早くとも、射線を敷き詰める遠距離攻撃、死角からの波状攻撃にはひとたまりも無いだろうとの考えもある。
欠点としては異能を展開し続ける九嵐への負担、といったところか。
九嵐の生成する無音空間は、九嵐を起点として生成されるわけではなく、あくまでも発生させた位置からの形成である。
また、九嵐本人が空間外へと出てしまうと強制的に展開が終了してしまう為、空間が消える前に新たなる空間を形成、解除と同時に新たなる空間を生成と、連続して異能を行使し続ける必要があった。
「すごいわね。まさかここまで上手くいくなんて」
「疲労が溜まっているようだな。大丈夫か、水無月さん」
「はぁ、はぁ。大丈夫です。少し休めばこれくらいは」
功労者の身を案じる和也に、顔中に汗を垂らしながら九嵐がそう返す。
「無理はしないでね水無月さん。異能の酷使は走って疲れたー、なんてのとはワケが違うわ。無理が祟ったら最悪命を落とすこともあるんだから」
アリナの言うことは大袈裟でも何でもない。魔装を使い過ぎた者が辿る末路、意識を失い死に至るとされる血溢流動。限界を超える異能の酷使も状況は変われど同じようなものだろう。そう、その症状を想起させるほどに九嵐の表情は辛そうだったのだ。
「少し消耗があるだけです。短期間での生成と解除の繰り返し、慣れないことを連続で行うのは初めてでしたから。休めば回復します。力の無い私のせいでお二人の足を引っ張るわけにはいかない」
声が届くか分からない状況。誰かの消耗が大きくなった時のサインは事前に決めてあった。
痕跡を辿って魔獣からの追撃がないとも限らないので、九嵐が一時的に三番手に回り、無音空間を大きく形成し距離を稼いだのち、木陰に潜み休息を取ることにした。
気が付けばあれから三十分が経っていた。残された時間は十分もない。
「魔獣は刈った。目につく奴らは全部刈りつくした。君のお陰だな。ありがとう、水無月さん」
「……いえ。けど、これが私たちに求められている事だったのでしょうか?」
額の汗を拭いながら九嵐が言う。
「そんな心配しなくても、やれるだけのことはやったわよ。私は悔いはない。確か団長さんは時間が終わり次第声を掛けてくれるって言ってたし、たぶん私たちのこともどこかから見守ってくれてるんだと思う」
「それにもう時間もない。時間が来るまで待機でいいんじゃないか?」
疑問顔の九嵐に二人は「問題ないさ」といった表情で返す。自分たちに求められたのは魔獣を数多く倒す事ではなく、あくまでも『チームワークを見せてもらう』こと。
始めこそぎくしゃくして空回りしてしまったが、体勢を立て直し、ルールを設け、チームワークにて魔獣を掃討した。
チームワークとは互いのことを考えて行動する事。なら無理をして異能を使おうとする九嵐を止めることも間違いではないだろう。それに自分たちの状況は耳に付けたイヤーカフを通して、嘘真朧たちに伝わっている。彼女らは少し頼りなさそうな人柄ではあったが、その辺りの事情は理解してくれるだろうと和也とアリナは考えていた。




