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Connect☆Planet -コネクトプラネット-  作者: 二乃まど
第八章 『嫉妬』
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渦中滲紅

「なにこれ、マジでリアルなわけ?現実を受け入れられないっていうか、これ、夢の中じゃないよね?」


 黒い影がそこらを闊歩する。四足歩行、獣型の魔獣(マインドイーター)。これは件のB級とは違う個体か。


魔獣(マインドイーター)、ガチでいるじゃんっ」


 闇すらも溶け出してしまうような漆黒の体躯に、動脈が波打つような深紅の光線。視ているものを際限のない、不安という奈落に突き落とすような恐怖の権化。それは映像や書籍でしか見たことのない魔獣(マインドイーター)そのものだった。

 窓ガラスの割れる音。どこかから迸る火柱と粉塵。知らない誰かの悲鳴は知らない誰かの恐怖を煽り、連鎖し、この空間を支配していく。狂騒と困惑。一言でいえば学校内は地獄と化していた。


「みんなーッ!不用意に動かないで!列を乱さないように纏まって行動してーっ!」


 通りの良い声が耳に響く。廊下ではある程度秩序を守り行動していた彼女らも、その眼で現実を付きつけられれば話は別、檻から解き放たれた草食動物の如く、阿鼻叫喚の様相を呈している。


(あの公園の少年は大丈夫なのだろうか?)


 こんな時でもふと思い浮かんだのは彼の事だった。彼が巴鳥少年に視えなかったとしても、魔獣(マインドイーター)に襲われることはないと言い切ることは出来ない。

 彼は口を利くことが出来ない。ましてや戦う術などある筈もない。ひとたび魔獣(マインドイーター)に襲われでもしたのなら、ひとたまりも無いだろう。


「烽火さん!危ないっ!」


「え?」


 視線を振り向くと、そこには視界を塗り潰すような漆黒の影。その影がぐるりと反転して明後日の方向へと転がっていく。どうやらぼくの身体に覆いかぶさるようにして、先生がその身を挺して庇ってくれたようだ。


「今は目の前の事に集中してっ!」


「す、すみませんっ」


 視えているはずのものが、誰かには視えていない。視えていないはずのものが、確かにそこに在る。もし、この世界に「誰にも視えないはずの存在」が干渉できるのだとしたら、それは魔獣(マインドイーター)のような脅威ではなく、“この世界の歪み”そのものなのではないか?

 そんなの、どうしろって言うんだよ。一介の高校生でしかないぼくに、何をしろって言うんだよ。

 思考の飛躍。自分で考えていて意味が分からなくなる。どう結び付ければそんな考えに至るのか、ぼくには上手く説明は出来ない。けど、その違和感がどうにも拭えない。そのままにしておきたくない。


 一瞬だけ聴こえた気がしたあの言葉。


 ____『助けて』


 きっとそれが答え。


 彼はこの危機を既に予見していた?それを伝えようとあの公園に現れた?

 ぼくの姿を認知し、彼の姿を認知できるぼくに必死になって伝えようとしていた?

 分からないことだらけだけど、それが今理解できる範囲の回答なのだ。割り切ればこんなにも簡単な事。

 バラバラだったピースが音を立てて嵌まっていく。ぼやけていた脳内がクリアになっていく。感覚が鋭敏になっていくのが分かる。


「仄火、また考え事?」


「うん。でも、もう終わった。ぼくは公園に向かうよ」


「はぁ?公園?公園ってどこよ?」


 腕を掴まれる。心配してくれているって解っていても鬱陶しく感じてしまった。こんなところで油を売っている場合じゃない。彼の身に危険が迫っているかもしれないんだ。それなら、一分一秒だって惜しい。


「ごめん、喜碧!ぼく急ぐからっ!」


 無理やりその腕を振り払う。その悲し気な表情を見て、またやってしまったとぼくは後悔した。そして、この後悔が取り返しのつかない悲しい思い出に変わることを、この時のぼくはまだ理解できていなかった。


「羽山さんっ!」


「は?」


 世界が静止する。色鮮やかだった景色がモノクロの極彩色に彩られ、異世界へと放り込まれるような浮遊感。脳がズキンと責め立てる。脳幹の隙間を待ち針で縫いつけるように、低能なぼくを悔い改めろと責め立てる。


 何が起こったのか分からなかった。いや、解りたくなかった。




 バリ――グシャグシュグショ、ムシャボリゴリ


 不快な音が辺りに響き渡る。こんな時に限って騒がしかった生徒たちは、空気を読むかの如く沈黙する。


「きみ、ど、り」


 唐突な現実はいつだってその予兆すら見せずに現れる。現実と云う名の地獄はいつだってすぐ目の前を転がっている。

 転がっているからいつだってぼくのすぐ隣、張り付くようにその薄ら笑いを止めることはない。魅入られたら最後、運命は嘲笑するためだけに、その重たい首を退屈そうに持ち上げるのだ。


 背筋に何かが走った。それは汗でもなく、血でもなく、気持ちでもない。もっと薄ら寒い何か。息が上手くできず、止まった世界の中、呼吸だけが早くなる。

 頭は何よりも先にその現実を理解できているというのに、言葉は出てこない。


「……っ……」


 さっきまでぼくの腕を掴んでいた、あの温かい手。ぼくが振り払ってしまったその手は、行き場を失って宙を彷徨い―― ドサリと。首から上を失った身体と共に、冷たい廊下へと叩きつけられた。

 ぼくの唯一の友人でもある羽山喜碧は、首から上を真っ黒の影で覆い、その命を永遠に手放した。

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