ジャスミンティー2
「そういえばお姉さんって、いつもそこの公園に行ってるんですか?」
「え、えっと、うん。変かな?一人で公園なんて。やっぱ変だよね?」
巴鳥少年が公園までつけてきていたのか。いやそれは絶対に無い。この子はスパイでも忍者でもない、ただの少年だ。毎回つけられていたらさすがに気づく。たぶんこの先には公園以外、印象に残る場所が無いからだろう。
「す、すみませんっ、別に変ってわけじゃないです。でもその公園って誰も遊ばないっていうか、前に友だちといったんですけど、ビルが影になっていっつも暗いし、誰もいなかったから。そんな何にもないところ、面白くないだろうなーって」
疑問に混じる不安そうな顔。いや、不安とは違う、どこか身を案じるような表情だ。
きっと、彼はとても優しい性格なのだ。だから、一人で公園に向かっているぼくを心配してくれている。そう思った。
「あ、もしかして!お姉さん、探偵だったりしません?アニメとかで高校生の人が探偵やってますよね!警察の人よりも先に事件を解決しちゃうみたいな!で、あの公園に何かあって調べてるとか!もしかしたら守秘義務、みたいなやつで喋れなかったりするんじゃないですか!?」
少年は目をキラキラさせて身を乗り出す。どうやら学生探偵に憧れがある様子。いきなり何を言い出すんだ、とも思ったけど小学生なら、まあ年相応ってやつなのかもしれない。
「あはは、残念だけど違うよ。ぼくは探偵なんて凄い人じゃないよ。それにもしぼくが探偵だったら、全然事件を解決できずに公園に通い詰めてるってことになるから、とんだポンコツ探偵ってことになっちゃうよね?」
「え、あう、ごめんなさい。お姉さんに失礼なこと言っちゃったかも」
「ぼくは探偵じゃないけど、探偵は好きだよ。ミステリーってのは探偵がいなきゃ始まらない。ミステリーでの探偵はいつだって主人公だ。一番目立つ主人公。誰よりもカッコいい存在だね。ねえ、巴鳥くんはミステリー小説とかも好きなのかな?」
「小説は学校の図書室でいくつか読んだことはありますけど、まだ長いのは。えへへ、将来は探偵になりたいなー、なんて思ってはいたりするんですけど」
ぼくはよく知らないけれど、現実の探偵ってのはアニメで華々しく活躍するとそれとは違う。会社に所属しての調査などの業務の連続。名声や集客の腕がなければ個人開業は無理だし、彼の思い描いているものよりも暗く、辛い道のりになるだろう。
でも、それを突きつけるのは酷。彼のキラキラと光る眼差しを不安で曇らせてしまうのは、学生ながらに大人げないと思った。
「そっか、頑張りなよ。アニメを見るのも、ミステリー小説を読むのも、きっと無駄じゃないと思うから」
無責任なことを言うつもりはなかったけど、こんな時どういった言葉を返してやればいいのか分からなかった。無駄じゃない。それはきっとそう。だけど、憧れが実らないことだって世の常だ。生まれた子が親を選べないように、配られたカードで選択を繰り返していくしかないのだから。
「ほら、もう遅いから。親御さん心配してると思うよ?もうお帰り」
「そ、そうですね。えへへへ、今日は僕のお話聴いてくれてありがとうございましたっ!ダメじゃなかったら、またお話してください!」
巴鳥少年は一礼し、満面の笑顔でそうお礼を告げると、元気よく走り去っていった。
角を曲がる際、もう一度こちらを振り返り手を振ったので、ぼくもそれに合わせて手を振ってあげた。
「ふーん、いつも見てた。ね」
もう十八時半か。随分といろいろと話し込んでしまった。
キャップを開けて残っていたお茶を飲み干す。
「やっぱりぼくは……ジャスミンティーかな」
退屈な何かを飽きずに続けることが出来る。それも一つの才能なのだろう。もちろん彼が数年後、魔獣対策調査員として『リベルレギオン』の強欲で働くことを、この時は当然知る由もなかった。




