バラバラのチームワーク
「空間っ形成しますッ!その隙に__ッ」
九嵐が地面を踏み鳴らすと、その直線状に至る空間全ての音を奪い去る。在る筈のものがない。その認識の改変に魔獣は戸惑い、身体を硬直させる。右往左往するだけの獲物の姿は討ち取る絶好のチャンスといえた。
しかし、当然ながら九嵐とアリナの立ち位置は違う。アリナの視界からは、直線状に聳え立つ何本もの木々に阻まれ、その姿を視認できないでいた。
「っく!」
九嵐の異能は、空間内の音を奪い去るだけで拘束力は皆無である。こうして迷っている間にも魔獣は空間外に逃れ、そのまま逃亡されてしまうかもしれない。だから、手を拱いている暇はない。
アリナは視認できる魔獣に対して向かって両手を翳すと、体内の熱エネルギーを炎に転換し前方を攻撃する。
(違うっ!そっちじゃないっ!)
九嵐が叫ぶ。しかし、無音空間を形成している九嵐の声はアリナには届かない。間一髪で攻撃を避けた魔獣はその脚力で地面を蹴りつけると、身を翻し飛び上がり、その鋭い牙で彼女を頭上から強襲する。
「ッち!クソッ!」
その状況を察した和也は、まだ終わらないインターバルに舌打ちをするとやにわに駆けだす。遠距離攻撃が出来ない以上、空中から襲い掛かる魔獣を迎撃することは出来ない。だから、アリナの横っ腹から体当たりをすることで助けようと考えた。
「ちょっ!?なに!?敵はあっちっ!」
「黙っていろッ!舌を噛むッ!」
間一髪、魔獣の攻撃を躱した二人は、下り坂を縺れながら無様に転がった。
「いきなり何よっ!危ないじゃないっ!」
「っち!逃げられた」
オオカミ型の魔獣は基本的に群れで行動をし、そして臆病でもある。咄嗟に襲い掛かりはしたが、アリナが前方にしか注意を払わず、無防備を晒していたからに過ぎない。
他の仲間は既にこの場にはいない。一対三。これ以上は分が悪いと逃亡を決めたのだった。
「ねえ!聴いてる!?無視しないでよッ!」
仲間にいきなり体当たりをされた状況が飲み込めず、先ほどの独断先行の件もあり、掴みかかろうとするアリナを別方向からの声が制止する。
「全豹さんは魔獣からあなたを助けてくれたんですよ。まあ、無茶なやり方ではありましたけどね」
実力も性質も実戦経験もバラバラ、ソロで活動してきたであろう即席のチームに、協調性を求めることなど初めから間違いではあったが、彼らに求められている『チームワーク』は見るも無残に瓦解していた。
個々の実力だけを見るのであれば、C級以下の徒党を組む魔獣など、手こずる要素がまるでない。全豹和也、炎堂アリナは持ち前の異能と魔装で、水無月九嵐に関しても無音空間による奇襲で殲滅できるはずなのだ。
ただ一時間という制限時間の設定、そしてマイクロカメラにより行動の一挙手一投足を評価されているという圧迫が、彼らの冷静さを蝕んでいるのだ。彼らがそれに気付いているかは分からないが、早くも実地試験の闇という、鈍く光る鋭い牙を見せつけていた。
「はー、ここまで拗れるもんですか。まるで絵に描いた餅のようですね」
「それ、絶対使い方間違ってるから」
仲間の動向に気を配っていないわけではないだろう。むしろその逆、仲間の存在があるから普段通り動けない。チームワークを示すという枷が彼らの自由を奪っているのだ。
ここは視界の悪い森の中。加えて能力者の一人は無音空間を形成するという極めて特異な能力の持ち主。経験値も浅い彼らに、柔軟に合わせることなど到底無理という話だ。いかにもチームワークで生きそうな能力であることが裏目に出ている。これは最低だ。
「やっぱ水無月さんですよね。見れてるようで視れてないっていうか」
「あーミルちゃんも分かる?でも仕方がないよ」
ぼくだってあんな能力に即席で合わせるのは骨が折れる。しかも、今日会ったばかりの相手だ。相手が何を考えて何が出来るのか、それを瞬時に判断するなんて真似はそう簡単にできるもんじゃない。
残り五十分。上がそれを理解できているなら問題ないけれど、現状彼らには評価点に繋がるような成果は見られない。
これより先の森の奥は、道が入り組み、視界がさらに悪くなることは間違いない。それに同じC級でも魔獣の狡猾さも上がるし、一部B級の魔獣も確認されている。今みたいな無様な連係じゃ話にならないぞ。
「あ、行っちゃいましたよ、みなさん」
「追おう。心配だよ」




