出来損ないで即席のチームワーク
「チームワーク?」
きょとん顔のミルがオウム返しをする。どうやら本当に知らなかったようだ。送られてきたファイルの中にちゃんと書いてあるのだが、スクロールをするという脳味噌が働かなかったらしい。
「今回は個々の力を試すものじゃない。三人一組、スリーマンセル。戦闘において多数決の出来る最小単位。だから今回は三人なんだよ」
三人一組。同日に行う時点である程度予想はついていた。たしかに新人を育成する場合、互いの能力を把握、自身に何が足りないのか、何を補えるのか、延いては自身の分析を行う為に、実力差にあまり開きのない者同士で組ませることがある。人数によっては三人が二人、四人の場合もあるが、それは分析だけでなくチームワークの形成にもつながる。
ぼくはレギオンに入るにあたって、もともとチームワークよりも個々の力の方が重要だと考えていた。なぜならレギオンで活動するのであれば異能とは切っても切れない関係に身を置くことになるからだ。
中には直接戦闘を行わない、事務的なポジションに就く者もいるし、戦闘技術や魔装に秀でていて能無し、というパターンもあるが、自分がそうでも相手もそうだとは限らない。
現にぼくもミルちゃんも能力者だ。ぼくたちは互いに互いの異能を把握してはいるし、こうして一緒にいる時間も多いが、こと仕事に関しては共に行動するということはそこまで多くない。
なぜなら、異能の存在自体が奇跡に近いものだから。いつ何時、使えなくなる可能性が来るかも分からないし、逆に新たな力に目覚めることもあるだろう。それは奇跡とは違う、まるきり逆の不確定要素。そんな爆弾を抱えつつチームワークを維持しろだなんて、ぼくには口が裂けてもいえなかった。
戦いってのは相手が対等で初めて成り立つものだ。それ以外はどちらか一方の蹂躙、虐殺。チームも同じ、力の差があり過ぎるものが組んでも、それは良好な関係とはならないだろう。
ボクシングなんかだと、体重により分類された同じ階級のボクサー同士が戦うことが決められているのと同じだ。チームプレイも同じ、無能は有能の足を引っ張り、有能は無能の成長の妨げになる。
この世界にはぼくよりも、いやミルちゃんよりも小さな子でも、ぼくより強力な異能を持っている子もいるだろう。それを傍から判断することは残念ながらできない。
もちろん、その子たちと争うわけでもないし、チームワークで形成される絆や力を否定するわけではないが、結局のところ最後に頼れるのは自分自身の力が全てなのだ。誰も他人の予想外で命なんか落としたいはずが無いのだから。
まあ、魔獣退治は戦いになんてならずに、いつだって人間側の一方的な蹂躙であるべきだとは思っているけれどね。
「団長、顔渋いですね。アタシ、何考えてるか分かりますよ、当ててみせましょうか?」
「言ってみて」
「虫が多い。死にたい。どうです、当たりでしょ?」
「ん、外れ」
「んーや、当たってるでしょ!だって、団長待たされるの大っ嫌いじゃないですか!おまけに森の中!おまけに虫!トリプルプレーですよっ、これは!」
待たされるのなんて好きな奴いないでしょ。と言い返そうとしたが止める。なんだか言い合いになって、試験が始まる前に疲れてしまうことが目に見えたからである。
「当たってるけど、そうじゃないっていうか。はぁ、面倒くさいな」
「あー!またそんな、「やれやれ、騒音のボリュームだけはMAXキマって弄れない、このクソ雑魚オンボロスピーカーが」みたいな顔してるーっ!」
「なにそれ、面白。お小遣いあげよっか、ミルちゃん?」
「ムキーッ!なんなんすかそれ!アタシを子ども扱いしないでくださいーッ!大体ですね!団長は――」
「ミルちゃん。っし」
嘘真朧は先ほどまでのだらけた表情が嘘のように精悍な顔つきになると、喋っている最中のミルの口に手を当てて、木々の陰に身を滑らせる。
ミルはまだ状況が理解できていなかったが、彼女の真剣な眼差しを視て、ひとまず身体を預けることにした。
ゴウゥウゥッ!
一瞬の静寂。鈍く沈んだ音。熱風と共に一陣の炎が、先ほどまで嘘真朧たちがいた場所を通り過ぎたのだ。




