第二次試験会場へと
一次試験ともいえる面接の日から、一週間が経っていた。
「はぁ、体調悪い。気分悪い」
嘘真朧は元々色白の肌を、より一層青白くさせながらそうつぶやいた。
「いやいや、テストの日に急にお腹が痛くなる小学生ですか。ちゃんとしてくださいよ。今日の試験っ!」
スマホで現在地を確認しながら、公道を外れ、木々生い茂る林を掻き分けながら進んでいく。同じような風景の連続に方向感覚を狂わせられる。
スマホのマップには詳しい道までは表示されないようだ。目印をつけておかないと道に迷ってしまうだろう。
「夏は最悪だろうね。この時期でも虫が多くて死にたくなる」
古びたトンネルをいくつか抜けると、辺りを取り囲む空気が変わった気がした。間違いない。魔獣が近くにいる。体調不良の頭でも、その辺りの経験則からなるセンサーは一応働いてくれていた。
「ミルちゃん。待って。ここで待機だよ」
「あ、やっぱり?でもここ凄いっすね。天然の迷路ってカンジ」
今日、嘘真朧たちは上から指示された郊外まで訪れていた。その場所で先日面接を行った三人の候補者とともに、実戦訓練ともいえる実地試験を行うことになっていた。
例によって日時と場所の指定は前日の夜。というか、候補者の三名にはレギオン側から連絡を入れてあるから、そのまま向かってほしいとのこと。この点、なんだか引っかかるがまあいいだろう。
一週間後という読みは見事に当たったのだが、前日の夜に連絡を寄こされるという非常識。逆の立場だったらブチ切れているところだが、彼らは意外にもすんなりと受け入れた。
自分でいうのも何だけれど、そうまでして『嫉妬』に入りたいものなのか。世の中には酔狂な人もいるもんだなと思った。
(いや、それとも……)
一次面接では形式的な自己紹介。最低限の会話、コミュニケーションが取れるかの確認という体で組まれたものだが、あのどうでもいい会話で判断する気はもちろんない。第一次面接から一報も無いところを見るに、上もその辺りは承知ということだろう。
何故なら嘘真朧らが所属しているのは、普通の会社や団体ではないからだ。レギオンに所属するにあたって、一番に重要視されるのは何よりも魔獣を前にしての対応力。チームワークよりも優先されるものが個人としての実力。必ずしも掃討する必要性は無いものの、自分と相手との力量の判断。格上に対して取れる最適な行動。弱い自分に何が出来て何が出来ないのか。その見極め。
(この面接のシステムを理解しているという事か)
今回の試験の結果で全てが決定されるといっても過言ではない。だからこそ、この二次試験こそが本来の意味での“一次面接”といってもよかった。
そういわれると実力主義とも思われるかもしれないが、ぼく個人としては別に弱くても良いつもりだ。けれど、勝てないと解って立ち向かうようなクズはウチには要らない。負けるのが解って立ち向かうなんて家畜の仕事だ。勝てないなら勝てないなりの“弱者のやり方”がある。
蛮勇は愚かな行為。自己犠牲は美談たり得ない。上がどう判断するかは知らないけれど、その尺度で有能かどうかはぼくが裁定する。少なくともぼくはそのつもりでいる。
「はぁ、ミルちゃんはなんか全然問題なさそうだね。あれで免疫付いた?」
服についた泥を払いながら嘘真朧がそう言った。
「免疫っていうか、別にそんなんじゃないですけどね。あの時は当日知らされたんで心の準備、まあ、緊張しちゃっただけなんで」
そういえばミルちゃんは最初の面接こそ緊張していたが、その後は調子を取り戻していた気もする。もともとこういった場に強いタイプなんだろう。
彼女の感情を刈り取る鎌で、緊張感とかネガティブな部分だけ刈り取ってくれないだろうか。それが出来たらどんなに気楽な事か。そんなことを考えながら嘘真朧は準備に取り掛かるのだった。
「そういえば今回は実地試験なんですよね。やっぱ、手ごろな魔獣相手に力を見る感じなんですかね」
「まあ、そうね」
上からの指示には最低限の事しか書かれていない。決められた区域での実地戦闘訓練。判断と評価については記録を送信する義務は発生するものの、細かな部分は嘘真朧に一任するということになっている。
レギオン本部は戦闘訓練用の機動ロボットも有しているが、こんなところに投入することはないだろう。ともすれば野良の魔獣狩り。この辺りの魔獣なら問題ないだろう。
「魔獣狩り、って話になるとやっぱ炎堂さんに分がある感じですよねー」
「どうしてそう思うの?」
「調書一応見てますから。ここにいる魔獣はレベル的にもC級以下でD級が大半を占めてます。D級といえば犬っころみたいなやつですよね。つまりザコです」
「C級以下、D級。うん、そうだね」
ぼくは僅かな違和感を感じつつも先を促す。
「なら熱エネルギーを放出できる、炎堂さんに分があるというわけです。ほらっ!水無月さんの異能は音を消すことが出来るから、奇襲には使えそうだけど決定打がないです。全豹さんは腕っぷし強そうですけど、能無しって話ですよね。じゃあ、どう考えたって炎堂さんでしょ!」
たしかにあの場で披露された中では炎堂アリナの異能、蓄熱『Savings temperature』は対魔獣に最も適しているといえる。
魔獣相手であれば、手元での微妙な調整などの手加減の必要もない。ここは道から逸れた林の中なので火力の調整には気を遣ってもらいたいものだが、その辺りの心得はさすがに持っているだろう。
「まあ、普通だったらそうよね」
「普通?どういう事っすかそれ。魔獣退治に普通も何も無いでしょ?」
はぁ、と分かり易いため息を一つ吐いてから、呆れ顔の嘘真朧はスマホの画面をミルに向ける。
「見てないの?だってほら、今回はチームワークを試す試験だから」




