『嫉妬』の入団面接2
話す話題が無くなると、当然の如く沈黙がやってくる。ここは喧騒の駅前を離れた場所。そしてレストランでも雑貨店でもないので耳障りな有線が流れることもない。
ぼくは特に苦痛ではないが、隣にいる彼女がそんな沈黙にいつまでも耐えられるはずもなく。
「というか団長。えーと、アタシが言うのも何ですけど、それいいんすか?」
少し困り顔のミルちゃんがそう声をかけてきた。どうせくだらない事だろう。でもまあ退屈は退屈だし、話し相手ぐらいしてやるか。
「それ?」
「いやいやいやいやっ!口のピアス!顔のタトゥー!耳のジャラジャラっ!あとその顔っ!どう考えても面接官のそれじゃないでしょーに!色白だしっ!パンクロッカーかなんかですか!?」
彼女の言葉に、ぼくは思わず自分の顔に触れてみた。唇の端には銀色のピアスが輝き、左目の下にはハートを模したタトゥーが彫られている。それは引きこもりのぼくがぼくである為、“ぼくらしさ”を示すことの出来る唯一の主張だ。
ピアスもタトゥーも、いつもの地雷系ファッションも全部そう。他人から見たら奇異の目で視られるようなことだと分かっていてもそれがぼく。それが全てなのだ。だから、それがいつしか自然になっていた。
けれど、一般的な感覚で言えば確かに“面接官らしさ”からは程遠いのも事実だろう。
「いや、でもさ。仕方ないでしょ?このタトゥーは消せないし、ピアスは取り外したら傷が目立つだけだし」
「いやいや、仕方ないで片付ける問題じゃなくないですか!?まあ耳のピアスは髪で隠せるからいいとして、顔はうーん。マスクでもしちゃえばいいんじゃないすかね?アタシちゃん、びゅっ!と行って買ってきますよ?」
ミルちゃんは両手を大きく振りながら、まるでぼくがとんでもないミスを犯したかのように責め立ててくる。びゅっと行ってそのまま帰ってこないつもりじゃあないだろうか。例えば怪我してる人を助けてたとか言い訳して。
「ミルちゃん、面接官がマスクなんてしてたら余計に怪しいでしょう?大事な面接に病人を寄こすなって思われちゃうよね?」
「いや、怪しいのは今の方が圧倒的に怪しいですって!見た目だけで言ったら、完全に不良か犯罪者予備軍!」
「……言いたい放題ね。さすがに傷つくんだけど」
確かに自分でも分かっている。ぼくの見た目は決して柔和でも、親しみやすいほうでもない。それどころか、大抵の人には近寄りがたい印象を与えるだろう。
しかし、これがぼくだ。後々顔を合わせて仕事をすることになるのなら、無理に隠したり取り繕ったりする必要は無いだろう。
「でもさ、考えてみてよ。これが逆にいい試験になるんじゃない?」
「は?」
ミルちゃんが怪訝そうな顔をする中、ぼくは続けた。
「例えばだけど、初対面の人間がこんな見た目だったとして、それでもちゃんと平静を装い冷静に話せるか。そういうのも『嫉妬』のメンバーとして大事な素質だと思うのよね」
「え?うーん、確かにそう言われるとそうかもしれないけどさあ」
ミルちゃんは腕を組んで少し考え込む素振りを見せたが、すぐに顔を上げた。
「でも!面接官の印象って大事じゃないですか?初っ端から怖がらせちゃったら、ちゃんと自分を出せないかもしれないでしょ?可能性の芽を潰しちゃうのは違うでしょ!?」
やけに食らいついてくるな。そんなに逃げ出したいのか。
「それはうん。まあ、確かに一理あるかもね」
正直なところ、彼女の言うことも解らなくもないが、彼女を一人で買い出しに行かせるのはいささか不安である。
「はいはい、オーケーオーケー。分かったよミルちゃん。じゃあ、ぼく近くのコンビニに行ってマスクを買ってくることにするよ」
「は?いやいやいや、アタシちゃんが買ってきますよ!」
「ダメ。ミルちゃんはここに残って。これは命令。いい?」
暫し静寂が支配する。彼女の困り顔を見れば分かる。ぼくを一人で行かせたくないのだ。いや、正確にはぼくがここを離れている間に、入団希望者が現れて一対一の状況になることを避けたいのだ。
「うーん、いや、今更団長がマスクつけて目元だけ爽やかスマイルとか想像できないし、それはそれで気持ち悪い気がするから、やっぱそのままでいいっす」
「おい」




