『嫉妬』の入団面接
人が行きかう駅前を通り過ぎ、十分ほど。目印ともなる大きな家電量販店を横切り、車一台がギリギリ通れる程度の細い路地に入る。
「そういえばてっきり駅に向かってると思ってたんですけど。その、ところでアタシたち、結局どこに向かってるんですかね?」
「いや、LILLEで送ったでしょ?今日『嫉妬』に新メンバーを入れるかの入団面接するって。ぼくはいらないって言ったけど、上の意向には逆らえないのよ」
ちなみに面接の場所を指定してきたのも上からの指示。なんでもレギオン本部の場所も機密情報の一部だということで、入団が決まっていない者に敷居を跨がせるわけにはいかないんだとか。
じゃなきゃぼくが歩いてこんなところまで来るわけがない。
「へ?」
間の抜けた声を上げるミル。どうやら、集合時刻だけに目を通すだけで、今日何をするかということは全く理解していないようだった。
寝ぼけ眼に着崩したパジャマ姿で、スマホを手に取る彼女の姿がありありと浮かぶ。
ミルのその気抜け顔に、分かり易く頭を抱える嘘真朧。一人では流石に不安だからと一番信頼のおける(暇そうな)人間を連れてきたものの、彼女を連れてきたのは間違いだったかもしれない。
「あ、ちなみにぼくたちはあくまでも面接官としてきたわけだから。役職とかを言うのもタブーよ。間違ってもぼくに向かって団長なんて言わない事。ぼくもキミを呼ばないといけない時は宝城さんって呼ぶから。いいかな?」
「り、了解でありますっ」
指差して念押しをすると、ミルちゃんはビシッと敬礼で返してきた。いやいや、面接官ってぼくも正直分かってないけれど、そういうモノじゃないと思うんだよね。うーん、本当に大丈夫かな?
「ここですか?」
「うん」
「このオンボロ?」
「そういうこと言わないの」
ミルが指差したのは寂れた路地裏に建てられた、いかにもといった古倉庫。通りを外れ、分かりにくい目印を何度か曲がった先にそれは在った。
レギオンはそこを買い取り、今日のような面接を行う場の一室として利用しているらしい。訊く限りの話では内部はきちんと整備されていて、最低限の設備が整えられているとのことだった。
もっとも、ここに来るのは初めてなので、本当にそうなのかは分からない。嘘真朧は本当に会場が合っているのか、二度見三度見をしてから入口に手を掛ける。
「うん、合ってるね。入ってみようミルちゃん」
「はーい」
そう言いながら金属製の扉を引くと、ギギッという耳障りな音を立てて扉が開いた。予想通りというか整備がされているようには思えない。これではここに来る入団希望者にも悪印象ではないだろうか。
そんなことを考えながら、階段を使って二階に上がり、こじんまりとした短い通路を抜けた先、札が掛けられている一室を発見する。
「どうやらこの部屋みたいね」
「一二八号室?何の語呂合わせだろ?いふや、いつーや?怪獣一二八号?」
嘘真朧はよく分からないことを言っているミルを無視して扉を開く。中は思ったよりも広く、確かに外観とは違って日頃から手入れがされているのが分かる。
内装はというと、清潔感と同時に質素な印象を抱かせる白い壁に簡易的なデスクや椅子が置かれた、会議室のような空間が広がっていた。
「おお!通路はボロかったけど、中は意外とちゃんとしてるじゃん!」
一通り確認を終えた後、嘘真朧たちは隣の個室に用意されていたスーツに袖を通し、指定された一室に入ると、デスクに腰かけ時間まで待機することにした。
レギオンの面接にリクルート的な常識が適用するのかいささか疑問ではあるが、こういうのは形式があるのだろう。ほら、スーツを着ると背筋が引き締まるというアレだ。
「ほら、そんな不安そうな顔しないの。きっちりとした企業の面接じゃないんだから肩の力抜いてよ。そんな不安そうな顔されるとぼくも不安になってきちゃうでしょ」
「とは言ってもデスネ。こんな急な事ってあります?「今日の朝に面接するから準備しておいてー」って、ぶっちゃけあり得なくないですか?これって一種のパワハラじゃないですかね?」
まあ分からなくもない。普通だったらあり得ない。とはいってもレギオンの活動方針自体、その『普通』に当てはめられるようなものではないし、何らかの緊急性があったということなのだろう。
考えられることといえば、うーん、近いうちに人手が必要になるとか?そんなところだろうか。
面接の時間については知らされていない。昼頃に来るからそれまでに待機しておいてくれと言われただけだ。
訊くべき要項などは、手元に用意した資料を参考にしてくれと聞いている。ざっと目を通したがいたって普通。自己PRとか、特技とか、レギオンでどう貢献するかとか、形式的な事ばかりだ。ひとつ気になったのは最後――
「暇っすね」
「そうね。あ、ちゃんと資料目通しておきなよ?」
時刻はあと三十分ほどで十二時を回る。やれやれ、後でどれくらい待てばいいのやら。こんなことなら先に食事を済ませておけばよかったかもしれない。




